優しい彼が向かえに着た時

月のうさぎ

優しい彼が向かえに着た時(1話短編)

私は不幸だ。

心臓が悪いせいで、物乞心着いた時から入院生活を送っている。

毎日毎日、窓から見える同じ景色。

ベッドとトイレの往復だけの散歩、それで一日が終わって行く。

そんなある日、廊下で一人の青年と出会った。

彼もまた入院生活を余儀なくされていると聞いた。

片足を引きずる様にぎこちなく歩く姿、普通の人から見れば可笑しな姿に映るかも知れないが、私には素敵に見えた。

何故なら、彼は私と違い必死に生きようと言う目をしていたからである。

ゆっくりだが歯を食いしばり、一歩一歩確実に進んで行く姿に少し勇気を貰ったのは事実であった。

彼とは何度かすれ違ううちに挨拶を交わす様に成った。

そして毎日私の病室まで遊びに来てくれる様にまで成った時。

心臓移植の話が決まったのである。



移植手術の数日前、彼と会える最後の日が来た。


「私怖いな、一生目覚めなかったらどうしよう」


「大丈夫だよ、君にはまだ死神のお迎えが来てないからね」


「なにそれ、死神なんているわけ無いのに変なの」


「あははは、それもそうだね」


私はその手の話を信じていない、幼い頃から何度も神様に祈っていた経験上、実在しないと知っていたのである。



その日の深夜、けたたましい音で突然と目が覚めた。

それは、火災を知らせる非常ベルの音だ。

避難しなければ行けない事は分かっていたが、足が竦んで立ち上がる事が出来なかった。

何故か・・・・。

眼の前に黒尽くめで目だけが光る何かと、頭に光る輪を掲げた何かが私を見つめていたのである。


ああ、お迎えが来たんだね。

最後に一目彼と会いたかったな。


「まだ避難してなかったのか」


扉を乱暴に開けた彼は私を見ると叫んだ。

そしてこう言った。


「この娘は連れて行かせない、この娘にはまだ生きる権利が有っても良いはずだ。

命が欲しいなら俺のをくれてやる」


彼は私を抱き抱えると不自由な足で必死に歩いてくれた。


「私は良いの、意味のない人生だと思ってたけど貴方に会えて幸せを貰えたから

お願い、ここで置いて行って」


「何を言ってるんだ、君は生きなきゃ駄目だ。

僕は愛した人を死なせない」


後ろを見ると2つの何かは一定の距離で着いてくる。


このままでは2人共死んでしまう。


「大丈夫ですか、私がお運びします」


立ち上る煙の中から看護婦が出て来て、彼から私を受け取ると出口に向かって走り出した。

私は看護婦の肩越しに彼を見ると、着いて来た何かの元で倒れ込んでいたのだった。


「いやー、歩いて歩いてー」


私は大声で叫んだ。

言葉が届いたのか、彼は最後に顔を上げると笑顔で微笑んだ。



それから5年、結局心臓の移植は出来ず、未だに病院のベッドで暮らしている。


「今年は風邪が流行してますから、暖かくして下さいね」


「はい」


しかし、私は風邪を引き肺炎にまで悪化してしまった。


苦しい・・・・。


これは駄目だなと思いナースコールのボタンに手を掛けた時。

枕元に優しかった彼が立っていた。

その表情はまるで一緒に新しい世界で生きようと行ってる様に思えた。

向かえに来てくれたんだね。

その瞬間、私はボタンから手を離しそっと目を閉じたのであった。











































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