第4話 青く澄んだ空、黒く汚れた未来
少し落ち着いて状況を整理した。持ち物は消えていること。スキルはそのままであること。キララの本名が
「昨日同じ部屋にいたときに気が付いたんだが、お前の首に、黒い切り傷のようなものがついているんだ」
そう言ってラビの首を指差すと、ラビも部屋の鏡を使って確認した。
「思い出したくないかもしれないが、昨日戦った彼女、最後消えるときに黒い跡を残していただろう。これは俺の予想だが、彼女も元々はNPCで、ハッキングされて攻撃するようになった。そして、彼女と昔から触れ合っていたお前に何らかのバグが生じて、心が宿ったんじゃないかってな。まあ、だとすると彼女と自発的に触れ合っていたことがおかしいんだがな」
性格の通りのガバガバな考察に面食らったラビだったが、少し筋が通ってる気がしなくもなかった。それは、彼女と触れ合っていた時期の記憶が曖昧だからだ。ラビの記憶には確かに彼女と遊んでいた景色が残っている。しかし、その実感がなかった。
「僕は、本当にロボットだったのかもしれない。でも今は違う」
どこかを見つめて言葉を吐いた直後、ラビはいつになく真剣な目つきで言った。
「お姉さんをああしたのはあいつなんだ。僕は絶対に許さない!化物も全て救って、あいつを絶対に倒してやる!」
半ば叫びとも捉えられる声で伝えられた思いは、キララの胸に刺さった。
「おうよ!俺も自作の美少女と課金アイテムを消されてムカついてんだ、その願い俺も叶えさせてもらうぜ!」
そうして意思を固めた二人が今後について話していると、外がやけに騒がしいことに気がついた。窓から見てみると門の周りに群衆が出来ていることに気が付いた。皆人間の姿をしていて、キララと同じような軽い服を着ている。怒号を飛ばしているものも少なくないようだ。
外に出てみると、驚くことに門から城までの道にも多くの人が詰まっていた。ふと空を見上げると、地上から遥か離れた位置に一人の人間が浮かんでいることが分かった。縦に分かれた黒と白の仮面をつけ、同色のフォーマルスーツを着ている。
「いや〜失敬失敬、そんなに怒らないでよ。折角こっちから来てやったのにさ。ここに皆を集めたのは理由があるんだよ」
若い男の声で笑いながら話された内容を聞き、ラビは気が付いた。あの浮かんでいる人物こそが、このゲームを企てた犯人。大切な存在を消した罪人だと。また怒りが沸き、【
「やめておけ、距離が足りるか分からないし、今のお前で勝てる訳が無い」
それでもと反論するラビを宥めていると。近くに立っていた弓使いらしき男が矢を放った。それは、宙に浮かぶ標的の頭を貫くかと思ったが、その願いも虚しく、軽々と手で取られてしまった。
「おっと、俺に攻撃するなんて、命知らずな奴もいるんだな〜。ま、最初は許してやるさ。次やったら殺しちゃうからね」
自分たちを閉じ込められる程の力を持った存在の脅しを前にして、先程まで怒鳴っていた人々は皆黙ってしまった。
「煩い馬鹿も黙ったことだし、ルールを詳しく説明させてもらうね。まず、君達の持ち物は消させてもらったよ。というか、レベルもスキルポイントも全てリセット。初期状態からやってもらうよ」
群衆の中には、慌ててインベントリやステータスを確認するものもいた。しかし、大多数は既に気がついていたようだ。
「あれ、あんまり皆慌てないな。まあいいさ、次だ。期限は無期限だ。俺が飽きてサーバーリセット〜なんてしないから安心しな」
「あ、それと俺の好みだがHPとMPの表示を消させてもらった。現実味があった方が面白いだろ?」
指を回しながら足を組み、空気に座るかのような姿勢で話している男は、そう話すと一瞬の内に消えてしまった。
「それじゃ、頑張ってね〜ん待ってるよ〜」
空から響いた声を合図に、先程まで黙っていた人々は、各々独り言のようにブツブツと文句を言っていた。キララも何とか怒りを抑えていたが、ラビは今にも暴れだしそうなほど息を荒げていた。
「おい、キララ。探しに行くぞ」
それは確かに少年の声だったが、どこか勇猛であった。ラビは少し大股でスタスタと人波を掻い潜っていく。キララは、唐突に人が変わったかのような口調で呼ばれ、一瞬戸惑った。
「お、おうよ。あと、もうその名で呼ぶのは辞めてくれ。なんか恥ずかしい」
少し赤面した
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城門を抜けると、皮肉にも清々しいまでに晴れた雲一つない青空が広がっていた。草原も木々も、活力を感じるほど美しく生い茂っていた。
「ひとまず、このゲームの本当のストーリーに則って次の目的地を決めよう。ラビ、地図は持っているか?」
ラビは、鞄を探ると地図を取りだした。しかし、最初にいた森と今いたクローリク以外は霞がかっており、見ることが出来ない。
「俺も同じだ。どうやら本当にすべてリセットされてるようだな。というか、ラビもプレイヤーの行える大体のことはできるみたいだな」
ラビも、言われてから最初に鞄に入れておいた地図と違うものであることに気がついた。
「丁度いいや。旅支度のついでにどこまでできるか検証してみようぜ」
それから、戦闘、ショップでの売買、ステータス確認、道具の使用の動作を一緒に行ってみた。
「オーケー、大体の確認は終わったな。それじゃまとめていくぞ」
ラビは戦闘、ショップでの売買においてはプレイヤーと同じ行動ができたが、ステータス確認と道具の使用については少し違うところがあった。
「まず、ステータス確認についてだが、HPとMPの表示が消えてなくて、俺からも見ることが出来た。他は俺と同じだな。次に道具の使用だが、さっき使った薬草はHPが元から満タンで回復出来ないときでも消えるんだが、消えていない。これも使ってみろ」
そう言うと燕尾はネックレスを渡した。
「それはサメの牙のネックレス。装備品で攻撃力が少し上がる。つけてみろ」
ラビは早速ネックレスの紐を手に取り、首に通してみた。すると、紐がプツッと切れてしまい、牙も粉々に砕け散った。
「成る程な。もっと安いやつを渡すべきだったか…まぁいい、これで出来ることと出来ないことの区別は大体ついた」
燕尾は少し考える素振りを見せ。少し右を向いて指を指し、話しだした。
「次の目的地は確かあっちにある砂漠の国だ。名前は何だったか忘れちまったが、大体の道のりは覚えてる。準備ができたら教えてくれ」
ラビは地面に置いていた鞄の紐を斜めに肩にかけ、頭や服を手で払った。
「準備できたよ。いつでも行ける」
燕尾は自分の両頬を軽く手で叩くと、気合を入れて叫んだ。
「絶対に倒してやるからな!アホ男!」
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