第2話 クローリク城下町と喧騒 前

道中で、ラビは森で助けてもらったときからずっと気にかけていたことを聞くことにした。



「なあ、キララは女なのか男なのかどっちなんだ?」



見た目と声が一致していないのだから、その疑問が生まれるのは当然のことだった。しかし、あまり言いたくないことなのか、キララは少し気まずい喋り方で答えた。



「俺は男だ。今見ているこれは俺のアバタ...仮の姿なんだ。プレイヤーである本当の俺は"地球"という場所でこれを操作している」



ラビはロボットのようなものかと勝手に理解した。そして、地球という見知らぬ場所にとても興味を示していた。



街に着くと、空は既に青く染まっており、まばらな雲が見えた。西洋の雰囲気が漂う街路には、酒場や道具屋と言った店や、多くのプレイヤーの姿が目に入る。



「ここはクローリク。この世界で一番人が集まる場所だ。大体のプレイヤーはここを拠点として暮らしているんだ」



キララはまるで初心者にものを教えるかのように話した。ラビが目を輝かせながら店の看板を見て歩き回っていると、すれ違う人の中にトカゲのような姿をしたものがいることに気づいた。ラビは驚いて、キララの背に隠れた。



「お、おい、、街の中にモンスターがいるぞ、、」



キララの耳に口を近づけ、少し震えた声で話した。そんなラビを落ち着かせるように、キララは目を合わせて説明した。



「すまん、言い忘れてたな。プレイヤーの見た目は人間だけじゃないんだ。獣族や水竜族、その他多くの種が生きている」



そして、ラビと手を繋いで、言い聞かせた。



「大丈夫だ。見た目こそ自分と違って不信感を抱くだろうが、突然襲ってくるようなやつはいない。もし、そんなやつがいたとしても俺が守ってやるから安心しな」



そうすると、ラビは再び歩き出した。しかし、異種族と目が会うと変わらず体がすくんでしまっていた。



森を抜けて町に来たのは、住む場所を探すためだ。毎度森と町を行き来して過ごしているようでは、買い物をするだけで日が暮れてしまうだろう。しかし、ラビは町に来たのが初めてだったので、何もわからずにいた。幸い、一人前の冒険者であろうキララと会うことができたので、色々と情報を聞こうとした。



そのとき、先に話したのはキララだった。



「そういえば、ラビも冒険者として登録できるのかな」



この世界では、冒険者協会に登録することで「冒険者」として暮らすことができる。そうすることで、スキルを増やしたり、職業に就いたりとできるため、ゲームを始めて最初にやることである。



キララはラビの手を引っ張り、冒険者協会へと連れて行った。そして、受付嬢に話しかけてラビの登録を申し込んだ。



「あなたが【ラビ】さんで合ってますか?でしたら奥の部屋で試験を行うので、ついてきてください」



ラビは流されるように奥の部屋へと連れていかれた。そこは鉄製の壁でできており、一つの腕輪が机の上に置かれていた。



「この腕輪をはめることで、あなたは冒険者となることができます。そして、あなたの基本スキルが決まります。それはあなたの天性を表し、これから成長させていくスキルの基盤となります」



ラビは不思議な顔をして腕輪を右腕にはめた。すると、体の周りが黄色く光出した。胸が少し熱くなり、目の前には青色のウィンドウが出ていた。



『あなたのスキルは【健脚】です』

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スキル名【健脚】

メインステータス 素早さ

果てない好奇心、尽きない探究心を表す。

習得スキル

………

───────────────────────



このゲームのスキルは1000種類以上あり、エレメント系、動物系、超能力系、身体能力系が大半である。これといった外れスキルはなく、自由に遊べるゲーム性も相まって、プレイヤー自身の技量が強さに反映される。



受付嬢はラビの様子を見届けると、続けて一つのダミー人形へと向けさせた。



「それでは、あのダミー人形""を見てください」



ラビは言われた通りに木製の人型の置物に目を向ける。すると、その輪郭が青く色づき、上には名前とHPバー、そして右腕にはめたリングの周りに青いウィンドウが表示された。



「その青いウィンドウには自身のHP、MP、そして状態が表示されます。試しにあのダミー人形に攻撃してみましょう」



ラビは言われるがままダミー人形を殴った。少し手が痛い。すると、ダミー人形のHPが1減っている。それと、自身のHPも1減っているようだ。



「このように攻撃を行うことで、戦うことができます。次に、魔法を使ってみましょう」



そういうと、ラビの体に赤色のネックレスを掛けた。少し熱いそれは、炎のネックレスと言い、魔法を覚えていなくても使えるようになるものだった。



「掌をダミー人形に向けて、こう唱えて下さい。

下級火炎魔法フレイム



ラビは言われた通りに掌を前に向け、唱えた。



「『下級火炎魔法フレイム』!」



すると、掌の前に小さな火球が浮き出た。そしてそれはボウッという音と共にダミー人形の方へと飛んでいく。当たった場所は黒く焦げていたが、不思議と手は熱くなかった。



「これにて試験は終わりです。よりよい冒険者生活を」



部屋から出てきたラビに、キララは早速会得したスキルを聞いた。



「へえ、身体能力系のスキルか!俺はエレメント系の【焔】だ」

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スキル名【焔】 炎属性

メインステータス 攻撃魔力

燃え上がる闘争心、負けず嫌いの心を表す。

習得スキル

……

───────────────────────



ラビ達はこれから習得できるスキルを見て、どんなことができるのかと話し合っていた。自然と心を通わせている彼らだが、依然として人と機械である。



そうして冒険者となったラビは、一通りの装備を揃えることにした。キララに連れられ武器屋へと入っていく。



「ここでは大体の武器種が揃えられている。気に入ったものを選んでくれ、俺が買ってやる」



ラビは左から順に手に取り、振りやすさ、持ち歩きやすさ、見た目、自分の戦い方に合っているかを確かめていった。そして、2つの剣を手にとって言った。



「これにするよ。ずっと"双剣"に憧れてたんだ」



それは鉄製の短剣だった。ほどよい長さであり、両刃だ。ラビはそれをキララに見せつけた。



「へえ、双剣か。お前のスキルと合ってていいじゃねえか。今買ってやるから外で待ってな」

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