トゥルー・プレイヤー

@sairougisi

第1話 目覚め

「いててて…」



慌ただしく出かけの用意をしているラビは棚に頭をぶつけた。今日こそは家から出て街に出向くのだ。



皮製の大きい鞄に、地図、お金、食料、その他諸々必要になりそうなものを詰め、街を目指す旅へ出た。



朝に出るつもりだったが思ったより用意に時間がかかってしまい、あたりはすっかり暗闇に包まれていた。幸い、祖父が狩猟で使っていたランタンがあったので、その灯りだけを頼りに先へ進むことにした。



「地図を見た感じ、このまま真っすぐ行けば街につくな」



そう言うとラビは迷うことなく森の中を突き進んでいった。



辺りはまだ鬱蒼と茂る草木ばかりだ。果たしてどれくらい歩いただろうか、一向に町に着く気配がしない。すると、ふと足音が聞こえた。人が出歩くような森でもないため、動物か何かかと思った。



しかし、足音の感覚が異様に遅い。なのに、音のする場所はどんどん変わっている。そして、何かを探しているような感じがした。



まずい。森は自分の庭だと思い込んで油断していた。この音を出している者はきっと魔物だ。しかも、僕には到底太刀打ちできないような。



足音はだんだんと近づいてきている。ラビはその者の威圧感に押しつぶされそうになりながら、岩陰に隠れた。



「どうしよう、こんなことならもっと運動に慣れておくべきだったなぁ…」



周りを歩く何者かは草を掻き分け、気がつくとすぐ後ろまで来ていた。



『ウグゥォォ…』



目の前に現れた怪物は熊や猪のようで、その剛腕をこちらへと振りかざしてきた。



「う、うわぁぁぁぁ!!!」



『ウグゥォォァァァ!!!!!』



するとそのとき、怪物は叫び出し、地面に倒れ込んだ。目の前には土埃に包まれて立っている人影が見える。



突然のことで声も出せず呆然としていると、煙が引きその人影の正体が姿を現した。髪は赤く長く後ろで結んでおり、雪のような肌で、焔のような目を持っていた。服装からしても、女性の冒険者だろうか。



「大丈夫か!」



しかし、聞こえてきたのは青年の声だった。



「だ、大丈夫です。ありがとうございます」



動揺してしまい遅れたが、感謝の言葉を伝えた。



「ここらへんはゴーレムやナイトバットといったモンスターがうろついている。夜はあまり来ないほうが良いぞ」



上にキララと書かれている美少女の見た目をした青年は、続けて話した。



「って、こいつHPバー出てないし、輪郭は灰色だし、NPCかよ…こんなところにお助けイベントあったっけなぁ…」



見た目と違う声質。聞いたことのない言葉。ラビは更に困惑した。



キララは何かブツブツと言いながら、木々の間をするりと抜けて去ろうとした。



「ま、待ってください!僕も連れて行ってください!聞きたいことがたくさんあるんです!」



ラビの周りには緑の光が立ち込めた。キララは立ち止まり、ラビのいる方向を向いた。



「うーん、まあいいぜ。こっちにきな」



ラビはキララと拳を交わした、すると目の前に青いウィンドウがでてくる。



《▶はい》



契約成立のサインとでも言うかのように、足元が青白く光る。



《【ラビ】が仲間になりました》



脳内で機械音声が響く。しかし、それは聞き慣れた声であった。狩りをしたとき、料理をしたとき、それはたびたび再生された。最初は不思議だったが、今では慣れたものだ。



こうして、ラビはキララの仲間となった。



「よし。今からお前は俺の仲間であり、下僕だ。俺の言うことはちゃんと聞くんだぞ」



キララは楽しげな声でそう話した。ラビは大きく頷き、気になっていたことを聞いた。



「あの。さっき言っていたえいちぴーばー?やえぬぴーしーってなんなんですか?」



ラビにとって、それは架空の言葉であり、生きてきて到底知る由もない言葉だった。キララは少し考えたあとに、愛玩動物に対して特技を教えるような優しい口調で話した。



「HPバーは自身の体力だ、すべて無くなると死んでしまう。NPCは...ロボットのことだと思っとけ」



ラビは少し食い気味に答えた。



「僕はロボットじゃないよ」



言われた内容の意味はいまいち分かっていなかったが、自身が心を持っていることだけは自覚していた。しかし、キララからするとその言動は、システムを知らないAIが好き勝手に話しているだけに聞こえてしまう。



「ああそうかい。まあいい、このままここに居ると危険だ。とっとと俺についてきな」



キララはラビを担いで、街のある方向へと急いだ。周りではバチバチと電流の走る音がしていた。

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