シチュエーションがとにかく楽しかったです。
目が覚めたら、顔に妙な落書きがされていた主人公。彼女の顔になされた落書きには、『ある特殊な塗料』が使われていたという。それが水と反応すると猛毒となり、その場で死に至るという話を聞かされる。
どうにか塗料を取り除こうと、彼女は必死になって奔走します。
その際のやり取りが、もう本当に面白くて、何度もクスリと笑わされました。 充実した読書体験とは、まさにこのことかな、と。
そして、この作品は文章そのものの味わいが、とにかく素晴らしいんです。会話はウィットに富んでいるし、主人公の一人称による地の文も面白い言い回しがたくさん出てきて、主人公の『安』の思考の流れを追って行くだけで、ものすごい充実感を味わえます。
そして、タイトルの『わたしを助けないで』の意味。それがわかったところで彼女が置かれている状況などが改めて見え、作品の楽しさがよりいっそう増す形になります。
楽しい比喩表現満載の文章と、映画を一本見ているような疾走感とテンポの良い展開。小説を読む楽しさというものを「これでもか」と味わわせてくれる作品でした。