第14話 アリーシャ自由都市連邦に入る

 ドラゴンシュピッツェを越えた私たちは日が沈むころにフェレンティアに入ることができた。

 レイラが新しく私たちの旅に同行することになった。それはいいのですけども、一つ許せないことができたのですわ。

 それはレイラがカールと一緒にアルタイルに乗っていることですわ。

 ベガはとても気性が荒いため、私しかのりこなせない。それはレイラも同様でしたの。

 カシオペアにはすでにアナベルとアルメンドラが乗っている。さすがに三人目はきつい。消去法でアルタイルに乗ることになりましたの。

 はー腹立たしいですわ。

 山を越える道中もカールはなにやら楽しげにレイラと話してましたわね。もしかするとレイラはカールを寝取る気かしら。そうしたら許せませんわね。今度こそ地獄への引導を渡して差し上げましょうかしら。

 

 私が女狐を断罪する方法を模索しているとレイラが声をかけてきた。

「お姉さん、顔が怖いよ……」

 レイラは日焼けした顔を私に向ける。

 あら、私、知らぬ間に笑っていましたわ。

「なんでもございませんわ。それよりもどうしたのかしら?」

 私は暗い欲望を胸の奥に追いやり、顔に笑顔を張り付かせる。

 あらあら、レイラったら頬を引きつらせてますわね。そんなことでは剣聖瑞白の跡なんて継げませんことよ。

「ほら、フェレンティアの門が見えてきたよ。日が沈みきる前に入ろう」

 アルタイルの手綱を握るカールが視線を前方に向ける。

 門番の兵士が門を閉じる準備を始めている。

 ということで私たちは急ぎ、フェレンティアに入った。


 フェレンティアはアルカディア王国で言うところのエルデンローザに近い役割をこの自由都市連邦でになっている。フェレンティアの周辺は広大な穀倉地帯が広がっているのだ。その規模はアルカディア王国よりははるかに狭いが、それでも一国を支えるだけの農作物を生産していた。

 この日はフェレンティアで宿をとり、一晩を過ごすことになる。

 フェレンティアの宿の食事はなかなかでしたわ。葡萄の産地も近いということで、ワインが美味しかったわね。私とアルメンドラで三本ずつ開けましたのよ。もっと飲めたのにカールに止められましたわ。

「あの人らはうわばみなんだよ」

 アナベルがレイラに失礼な説明をしてましたわね。それでは私たちがばけものみたいじゃないですか、ねえアルメンドラさん。


 美味しいワインを飲んで気を良くした私はそのまま眠ることにしまた。レイラとの戦いに意外と疲れていたみたいですわね。あのアリスを襲った盗賊たちとの戦闘でもそれほど疲れませんでしたのに。

 それだけレイラの剣の腕前がかなりのものだったということでしょう。

 この日もカールは私に手を出しませんでしたわ。

 ここまでくると私って女として見られていないのではという不安につつまれますわね。

 それでも疲れていたので眠りましたわ。

 でもまどろみながら、私は自身の頭にカールの手を感じ、幸せな気持ちで眠りにつくことができたわ。


 フェレンティアで一泊し、旅の準備を整えた私たちは次の目的地である交易都市カラマルカを目指し、一路東に馬を進める。

 ヴァルカナ自由都市連邦は五つの都市が集まり、構成されている。カラマルカ、フェレンティア、ヴァルディア、エステリスの五都市が連邦に加盟しているのですわ。

 国の形はおおよそ縦長で北はエルフィニア聖樹王国、西は我がアルカディア王国、南でザハラ砂海王国に接していますの。また東のアルトリアン海を隔ててリヴァイラン海王国と交易をおこなっておりますの。それらの国々と交易することで大陸の富が集まる国とも呼ばれておりますの。

 私の叔父クラウスはその五都市のうちの一つカラマルカで商会を営んでおりますの。


 カラマルカまでの旅程はおよそ騎馬で七日ほど。

旅は順調に進み、フェレンティアを出てちょうど七日目の昼にカラマルカに到着しましたわ。

 カラマルカに近づきにつれ、潮の匂いが濃くなる。海の香りを嗅ぐのは何年ぶりでしょうか。

 リーゼロッテお母様に連れられてこのカラマルカに来たのはシオン王子との婚約が決まる前だったかしら。私がまだ可憐な少女の頃でしたわね。まあ、今も私は可憐ですけどね。

「変な匂いがする……」

 カールがおかしな感想をもらす。

 そういえばカールは内陸国のアルカディア王国からでたことがございませんわ。

 ということはカールは海を見たことがないのですね。

 楽しみですわ、カールが海を見たときの顔がどうなるかを。


 交易都市カラマルカは港湾都市でもある。

 アルトリアン海を通じて様々な国と交易をし、富を得ている。行き交う人々も様々だ。

 アルメンドラと同じような褐色の肌をした人々、黒い髪に細い目をした人々、緑の髪をした美しい人々らが街を歩いている。

 褐色の肌をした人々はザハラ砂海王国の人々だ。アルメンドラとアナベルもザハラ砂海王国の出身だと彼女らは言っていたわね。

 緑の髪をした者たちの耳はやや尖っている。それはエルフィニア聖樹王国に住む少数民族の特徴だったわね。その外見から森の精霊族エルフなんて呼ばれていましたわね。

 黒髪を後ろで束ねて、長くて体のラインがわかる服を着たのはたしか絹の国セリカの民だったわね。


 私たちはカラマルカに入り、街の中心部を目指す。そこにクラウス叔父様の経営するクラウン商会の本部がある。

 クラウス商会の本部は五階建てのかなり豪華な建物ですわ。白い壁が特徴的でそこらの貴族の屋敷よりも豪華な建物ですわ。

 私はベガから降り、その建物の守衛に声を掛ける。そうするとあっという声を出し、白髪のおじいさんは驚いた声を上げる。白髪のおじいさんはじっと私の顔を見ている。

「リーゼロッテお嬢様……カラマルカにやっと戻っていただけたのですね」

 守衛のおじいさんは涙を流しながら、私の顔を見ている。

 その様子を見て、カールはくすくすと笑いながらアルタイルを降りる。レイラも馬を降りる。

 アルメンドラとアナベルも馬を降りる。


 お母様とはよく似てるとは言われますけど、私これでも十代美少女ですのよ。

「私はアリーシャ・レイラ・ハウゼンベルグですわ。クラウス叔父様に会いにカラマルカに参りました。どうぞお取次ぎをお願いいたします」

 私は平静を装い、守衛のおじいさんにそう告げる。

 彼は失礼しましたと言い、本部の中に消える。

 すぐに戻って来て、どうぞ中にお入りくださいと私たちに告げた。

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婚約破棄された公爵令嬢は戦場を無双する 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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