第13話 アリーシャ腕試しをする
ドラゴンシュピッツェ山は別名
かつて黒竜王バルベルトがこの地を終に住処に選び、ここで亡くなった。その黒竜王の遺体がドラゴンシュピッツェとなったと言われている。
「言われてみればどことなくドラゴンの形しているような気がするね」
カシオペアの手綱をにぎるアナベルがそう言う。
「ドラゴンに見えなくもないですわね」
背後で姉のアルメンドラが肯定する。
私たちはドラゴンシュピッツェに入る。ここを越えればヴァルカナ自由都市連邦だ。
まずは国境の街フェレンティアを目指そうと思う。私の計算では夕刻にはこの竜臥山をこえ、フェレンティアに入ることができると思う。
山道は思ったより整備されている。竜臥山は険しい山ではないようだ。この道は狭いが交易路なのでそれなりに王国と自由都市連邦により整えられているのだろう。
しかし山にはには違いないので油断は禁物だわね。
山の天気と女心は変わりやすいと言いますしね。でも私は心代わりなんてしませんわ。カール一筋ですわ、今となってわね。
私たちが馬で山道を歩いていると何者かが私たちに声をかけてくる。
「そこの剣士、待ちたまえ」
その声は甲高く、ドラゴンシュピッツェにこだまとなって響く。
声の高さから若い女性だと思われる。
はて、誰のことを呼んでいるのかしら。
まあ、私たちではなさそうね。
「そこの剣士待ちたまえ!!」
その声はおそらくだけど少女のような気がする。声に若々しさとみずみずしさがある。
私は無視し、ベガを歩かせる。
「そこの女剣士待ってくれないか」
甲高い声がまた山中に響く。
私は無視してベガを歩かせているとまたまた声が私たちに向けてかけられる。
もううっとうしいですわね。
私たちはこんなところで見ず知らずの人間にかまっている時間はないのですわよ。
「剣士ってのは私のことかい」
アナベルが応じてしまう。
はあっ余計なことを。
私はため息をつく。
私は仕方なくベガの歩みを止める。
声の主を見るとやはり少女だった。
小柄な少女で紺色の髪を二つにくくっている。
旅装束に腰にはレイピアと思しき剣をぶら下げている。
「違う違う、そこの馬鹿でかい馬に乗った馬鹿でかい赤髪の人だよ」
その少女は細い目で私のことをじっと見ている。睨んでいるといっても過言ではない。ではあるがその瞳には殺気は含まれていない。代わりに闘気がふくまれている。
その立ち居振る舞い、挙動からかなりの腕前だとは推測できる。
それにしても私のことを馬鹿馬鹿言うなんて失礼しちゃうわね。
温厚な私も怒りますわよ。
私はベガを降り、その二つくくりの少女の前に立つ。
私の視線と紺色の髪の少女との視線が交じり合う。
あらなかなか良い目をしているわね。
その目は澄んていて、好感が持てそうだわ。
でも馬鹿馬鹿言ったことは許しませんことよ。
「私は剣聖瑞白の孫でレイラというの。強い相手を探して武者修行の旅をしているの。赤髪の人、あなたかなりの腕とお見受けしたわ。一手私と手合わせをお願いしたい」
その二つくくりの少女はとうとうと語る。
彼女の言う事は本当だろうか。
剣聖瑞白は伝説上の人物だ。
その剣聖に孫がいたなんて聞いたこともない。
「私の名はレイラ。このニードルとともに剣の腕を高めるために旅をしているの」
紺色の髪の少女はそう名乗る。
あらレイラだって。
アルタイルから降りたカールも驚いた顔をしている。
偶然にも私の洗礼名であるレイラと同じなまえだ。
レイラという名前は豊穣と収穫の女神アルシアの眷属である天使の名前からとったものだ。
私自身はそれほど信心深くはないのだけどね。
「あら偶然ですわね。私はアリーシャ・レイラ・ハウゼンベルグよ。奇しくも同じ名前のようね」
私が名乗るとレイラは驚いたような顔をする。
「これは何かの運命かも知れませんね」
レイラはまったく無駄のない動きでレイピアを抜く。先端が鋭く尖ったそれは刺突専用に特化したものに思える。
「一手、私と剣を交えてもらいたい」
澄み切った瞳でレイラは私をじっと見ている。
もう仕方ありませんわね。
私はアロンダイトを抜刀する。
陽光を受け、アロンダイトの黒い刀身は鈍く光る。
「アロンダイトか、お姉さん良いものをもっているわね」
レイラはアロンダイトを値踏みする。
「私が勝ったらその剣もらえないか」
「よろしくてよ。勝てればね」
良いですわよ。私に勝つことができればアロンダイトを差し上げますわよ。
「お姉さん、良いね」
その言葉のあと、ひゅっという風切り音と共にレイラは消えた。
普通の人には消えたように見えたでしょうね。
私、視力は人一倍良いのですわ。
レイラは私の目前まで迫っていた。
彼女がニードルと呼ぶレイピアの切っ先を私に向ける。容赦なくその切っ先を私の額めがけて突き出す。
私は首をわずかに左にずらす。
ニードルは空を切る。
私の髪だけが切られ、空を舞う。
あら、髪を切られるなんて生まれて初めてですわ。やるわねレイラ。
私はアロンダイトを上段に振り上げる、ひといきに振り下ろす。
私のアロンダイトはレイラの体に当たることはなかった。レイラは後ろに飛び退き、私の斬撃を避けたのだ。かなりの身体能力ね。
あら、完全に避けきれなかったようね。
レイラの額からうっすらと血が流れている。
レイラは手のひらで額をなでる。
手が鮮血で赤くそめられている。
「あれっ、嘘だろう。避けれたと思ったのに」
レイラはわかりやすいほど驚いた顔をしている。
「あなた、見事ですわね。私、あなたが死んでもかまわないと思って剣を振ったのですわ」
それは正直な思いだ。
レイラには手加減してはいけないと思ったからだ。
「お姉さん強いね」
レイラはニードルを鞘に戻す。
あら、もう決闘を終えるのかしら。
少し物足りないわね。
「お姉さん、私よりも強いね。私、じいさんに言われたんだ。自分よりも強い相手を見つけて、それを超えてこいってね。そうすれば
カールは布をレイラに手渡す。
レイラはその布を包帯代わりに額に巻き付ける。
私のカールは優しいわね。
「決めたよ。私あんたについていくよ」
宣言するようにレイラは言う。
あらあら、また同行者が増えましたわ。
これも私の人徳が成せることかしらね。
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