第12話 アリーシャ国境を越える

 農業都市エルデンローザを出て、八日後には要塞都市ヴェルムンドの目前に到着した。

 本来の予定では十日はかかると思われたから、かなり早く着いたことになる。

 これは私たちが旅慣れてきた証拠だと思う。

 カールもアルタイルを操るのがさまになってきていると思う。

 ここから進路を南にとる。

 アリスに聞くとヴェルムンドから馬で一日の距離だという。

 街道を離れ、私たちは南に走る。

 その日に着くことができなかったので、野宿となっるかなと思ったが、アナベルが古い小屋を見つけてくれた。

 そこで一晩泊まる。

 すでに王都アーヴェルを出て二十日以上経つのかと思う。あのシオン王子の婚約破棄がはるか昔に思える。

 でもまだ一月ひとつきもたっていなのか。

 月がかわり五月になった

 アリスが言ったということが正しいのなら、来年の今頃はこの国はシオン王子派とシリウス王子派とに分かれて争っているということなのか。

 そして外国の介入を許し、この国は混乱の極におちいる。

 どうやってそれを防ぐか、まったく方法がわからない。 

 とりあえずはアリスを自領に送り届けるという課題から片付けよう。

 一年という時間は長いようで短いから、良く考えて行動しないといけないわ。


 アナベルが見つけた小屋で一晩過ごしたあと、私たちはカーラグ領に向けて馬を走らせる。

 正午過ぎにはアリスの実家であるカーラグ邸に着いた。

 カーラグ邸は少し大きな民家といった印象だったわ。家令のフィリップという銀髪に片眼鏡の男性が私たちを出迎えてくれた。

 こんな田舎には似つかわしくないハンサムな人でしたわね。

 まあ顔がいいだけの男なんて王都で見飽きましたけどね。

 このフィリップという人、どこか我が家のセバスチャンを思わせる空気をまとっていましたわ。

 アリスの母親であるマリアンヌ・カーラグ男爵夫人も私たちを出迎えてくれる。アリスによく似た可愛らしい感じの女性でしたわね。

 私たちはカーラグ邸で一晩泊まらせてもらった。

 やっぱりベッドで寝ると疲れがとれますわね。

 お風呂も入ることができて、幸せでしたわ。


 翌朝、私たちはカーラグ邸を出立する。

 アリスとはここで別れる。

「アリーシャ様、お送りいただきありがございます。この旅、本当に楽しかったです」

 アリスは私に対して深く頭を下げる。

 この子もこれからたいへんだと思うけど、頑張りなさい。


 私たちが旅立とうとするのを誰かが呼び止める。

 それはアナベルとアルメンドラの姉妹だった。

 彼女らは一頭の馬に二人で乗っている。葦毛のなかなかに賢そうな馬ですわね。

 手綱を握るのはアナベルでその背後にアルメンドラがまたがっている。

 たしかカーラグ男爵が所有する名馬で名はカシオペアといったはず。

 アルメンドラの話では此度の報酬で貰ったとのことだ。

 アリスも太っ腹だわね。 

「アリーシャ様、よろしければ私たちも一緒に行かせて下さい」

 馬上でアナベルが私に向かって話しかける。

「アリーシャ様、あなたといれば面白いことになりそうです。それに私も混ぜてほしいのです」

 アルメンドラがそう言う。

「よろしくてよ」

 私は彼女らを受け入れようと思う。

 旅は道連れといいますし。

 ちらりとカールを見るとうなづいてくれた。

 旅が楽しくなりそうですわね。



 私たちは要塞都市ヴェルムンドに入る。

 要塞都市と呼ばれるだけあって、この都市は国境を守る兵士たちが数多く生活している。

 ヴェルムンドからさらに二十キロメートルほど行けば隣国であるヴァルカナ自由都市連邦に入ることができる。

 そこは私の母親であるリーゼロッテの生まれ故郷である。

 ヴァルカナに行くのは人生で二度目ですの。

 リーゼロッテお母様に連れられてのことでしたわ。

 それは私が十歳の時だったから八年ぶりですわね。

 クラウス叔父様は元気かしら。

 まああの人はお母様と同じく殺しても死にそうにはありませんけどね。


 要塞都市ヴェルムンドを出て数時間で低い山がみえる。

 ドラゴンシュピッツェと呼ばれる山でアルカディア王国とヴァルカナ自由都市連邦との国境線となる山である。

 この標高千メートルの山を越えるとヴァルカナ自由都市連邦に入ることができる。

 ドラゴンシュピッツェを越えて約半月ほど馬で行けばヴァルカナ自由都市連邦の首都カラマルカに着くことができると思うわ。

 さてさて、彼の地にて何が待つか。楽しみでしかたがございませんわ。

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