第三章
3-1 見染められた素人作家
【ショウ、お前の安い『異世界』が一位になってるぞ? 見たか?】
講師控室で帰り支度を始めたとき、そのメッセージが不意にスマートフォンを鳴らした。
鬼泪山だ。
「一位? なに言ってんだ。まったく更新していないのに」
ここのところ、ずっと更新を見合わせていた小説投稿サイトの『異世界遁逃譚』。
見合わせたと言えば思慮深い感じがするが、実のところはあまりにも忙しくて、とても腰を据えて書ける状態じゃないので放置していただけだ。
秋が深まり、春から受験を見据えて頑張って来た塾生たちはいよいよ追い込み態勢。
僕ら講師も受験生たちのサポートと併せて、書き入れどきとなる冬期集中講座の準備に翻弄されている。
さらに、夜講義がなくて夕方で仕事が終わる日は、そのほとんどを愛加里さんの新作執筆補助に費やすという日々。
愛加里さんが入賞を目指している『竹邉ノベルズ文学賞』の締切までは、あと概ね一か月半。
今日も、愛加里さんは『アルフヘイム』で僕を待ってくれているはずだ。。
【一位がなんだって? ちょっと忙しいんだが】
【昨日、今日とお前のくだらない勇者さまが異世界部門のランキングで一位になってぇやがるんだ。なぜだか分かるか?】
【え? そうなのか? ここのところ、サイトはまったく開いていないから分からなかった。まぁ、どうせ誰か名の通ったレビュアーが高評価レビューでも付けてくれたんだろ】
【あぁ? なんだお前。あんだけ順位やらPV数やら気にしてたってぇのに、ずいぶん素っ気ねぇな】
鬼泪山にそう言われて、思わずハッとした。
そう言われれば、そうだ。
一位だと聞いたのに、なぜか僕はなにも感じていない。
感じていないどころか、いまはそんなことに構っている暇はないと、少々面倒だとまで思っている。
新しいペンネームで書き始めて以来、ずっと僕を支配していた、あの安い虚栄心。
それがここ最近はずいぶん鳴りを潜めていることに、いま気がついた。
思わず出た笑み。
なぜか僕はいま、自分の作品のことよりも、愛加里さんの物語をいかにして評価されるものにするか……、そればかりを考えている。
【いや、ちゃんと喜んでるよ。後で見とく。ありがとな】
【どうして一位になってるか、知りたくねぇのか?】
別に、知りたいとは思わない。
すぐにそう送り返そうかとも思ったが、結局、僕はなにも返さずにその画面を閉じた。
そして、ずいぶん早くなった夕暮れがいっぱいに満ちている通路へと扉を開いて、夜講義のために居残っている他の講師に軽く手を挙げながら、僕はそそくさと講師控室を後にした。
「愛加里さん、もしかして……、夜更かししてない?」
「え? うーん、ちょっと」
「やっぱりそうだよね。あまりにも執筆のペースが速いから……。無理したらダメだよ?」
「うん。でもね? 今日はここまででやめようって思っても、なんだかもっと先までワタルくんに読んでもらいたいなって考えちゃって……、ついついやめられなくなっちゃうの」
街路灯が照らし始めた歩道に、僕らが向かい合う窓際の席の灯りがふわりと落ちている。
愛加里さん渾身の新作は、なかなか興味深い。
あの野元奏社長の高校時代がモデルらしいが、時代的な古さは感じない。
『大切に思うからこそ共に歩まないことを選ぶ、真なる愛』
これは僕が……、いや、『いしずえ翔』がかつて書いた、『ぬくもりは珈琲色』のテーマとも重なる。
執筆は順調。
しかし、少しペースが速すぎる。
応募締切前の最後の一週間を校正と改稿に充てられるようにしようと彼女には言っていたが、この調子なら来週には初稿が上がってしまう。
おそらく、あまり寝てないんだろう。
これは非常によろしくない。
ただ、彼女が言った、「もっと先までワタルくんに読んでもらいたいなって思っちゃって――」という言葉は、正直、かなり嬉しかった。
彼女はいま、僕のために書いてくれている。
小説書きは、まず『誰に読んでもらいたいか』を決めることから始まる。
そして、その『誰か』が作品を読んでくれる姿を思い浮かべて、どう感じてくれるか、どう楽しんでくれるかを想像しながら、ひと文字、ひと文字を原稿へ落とす。
その『誰か』への想いがあるからこそ、すべてのクリエイターはその全身全霊を創作に投じられるんだ。
安い虚栄心に支配されている僕が、失くしてしまった一番大切な物……。
もしかするとそれは、この『誰かのために書く』という想いなのかもしれない。
「――ワタルくん? どうしたの?」
「あ、ごめん。ちょっと考えごとしてた。ねぇ、愛加里さん、今日はそろそろ切り上げて、愛加里さんの部屋の近くで飲んで帰らない?」
「え? いいけど……、突然どうしたの?」
「そしてさ……、今日はもう書かないで、早めに寝て」
きょとんとしている愛加里さん。
僕が、「ね?」と念を押しながら原稿用紙をトントンと揃えると、愛加里さんがぎゅっと肩を上げた。
「ごめん。心配させて」
「まだ締切まであるし、少しペースを落とそう。体調不良でまったく書けなくなると元も子も無いから」
「うん」
ゆっくりと上がった、愛加里さんの口角。
なにかすとんと胸に落ちたらしく、彼女は受け取った原稿をとても嬉しそうにバッグへとしまった。
そのときだ。
「あっ、あのっ……」
愛加里さん越しの通路、隣のボックス席の前。
見るとそこに、いまにも泣き出しそうな声と共に、見覚えのある名門私立高校の制服がぽつんと立っていた。
「え? 湊さん?」
「はっ、萩生先生っ、あの……、わたしっ」
いつもの毒々しい笑顔はどこへやら、彼女はなぜかぎゅっと握った両手を真っ直ぐに下ろして、下唇を噛んでそこに立ち尽くしていた。
塾生の、湊桃香さん。
どうして彼女がここに?
「えっと……、湊さん? どうしたの? 今日は夜の講義は無いはずだけど」
「あのっ、わたしの小説、返してくださいっ!」
「小説? キミの書籍のこと?」
「はっ、はいっ!」
「それをわざわざ言うために、僕を探してここへ来たの?」
「はっ、はいっ!」
どうも様子がおかしい。
あの自信満々のしたり顔はどこへ忘れて来たのか。
一度振り返って彼女へ目をやった愛加里さんが、ぽかんとしたその顔を僕へと向けた。
「えーっと、この子は……、誰?」
「ああ、夜間のハイパー特進コースに通って来てるウチの塾生の子だよ。実は彼女、書籍化作家さんでね?」
そう僕が言いかけると、次の瞬間、湊さんが「あああ!」と言いながら僕に飛びかかった。
「おっ、お願いっ! やめてっ!」
「うわっ」
静かな店内に響いた、僕と彼女の声。
彼女に座席へと押し倒されると同時に、カウンターの向こうで振り返るマスターと、「はぁ?」という愛加里さんの顔が目に飛び込んだ。
思わず湊さんを押し返す。
「ちょっと、どうしたの? なんかあった?」
「いっ、いえっ、とにかく、その『書籍化作家』っていうのはやめてくださいっ! わたしの本も返してっ!」
「本は自宅にあるから、次の講義のときに持って来るよ。分かったからちょっと離れて」
「あのっ、萩生先生って、『異世界遁逃譚』の恒河沙先生なんですよねっ?」
「え? えーっと……」
ぐいぐいと彼女を押し返しながら体を起こすと、ハッとした湊さんがぴょんと後ろに退いた。
頬を紅潮させて、「てへっ」と舌を出している。
見ると、愛加里さんはさらに「はぁぁ?」という顔をしている。
「あのっ……、わたし、講義室で萩生先生が忘れて行った小説のプロットを拾ったんです。そして、それがこの前、友達が言ってた『異世界遁逃譚』のものだって分かって――」
「あー、やっぱりあのとき落としてたんだ。えーっと、でも、それだけじゃ僕が恒河沙だってことにならないんじゃない? あれは写しなんだし」
「わたし、『異世界遁逃譚』、読んだんです。スゴイって思いましたっ! スゴすぎですっ! それで、いまわたしの執筆補助をしてくれている人にこの恒河沙って作家はスゴイって話したんですっ! そうしたらその人がっ――」
両手を胸の前でぎゅっと握って、大きく息を吸い込んだ湊さん。
しーんとする店内。
見ると、マスターが苦笑いしている。
「――その人がっ、『俺、その恒河沙ってぇやつ、よく知ってるぜぇ?』って言って、それが萩生先生だって教えてくれたんですっ!」
どういうことだ?
恒河沙が塾講師の萩生翔だと知っているヤツといったら、アイツしか――。
「萩生先生っ、あんなスゴイ小説が書ける先生なのに、どうして黙ってたんですかっ?」
「え? スゴイかどうかは分からないけど……、まぁ、別に自分から言うことでもないし――」
「わたしが先生にはまったく及ばないあんな物語で書籍化になって浮かれてるのを、ずっと面白がって見てたんですかっ?」
「いやいや、そんなことしないよ。僕は素人だし、書籍化作家のキミにそんなことを偉そうに思える立場でもない」
「わっ、わたしっ、恥ずかしいっ! とにかくあのわたしの本、返してくださいっ! それからっ……」
言葉を切った彼女。
ぎゅーっと目をつむって、小さく肩を震わせている。
思わず、どうしたのかとその顔を覗き見上げた。
「あの……、湊……さん?」
「恒河沙先生っ! あたしに小説の書き方を教えてくださいっ!」
カッと開かれた目。
それと同時に、突然、彼女は飛び上がってガバッと僕の腕に抱きついた。
「うわ」
思わずのけ反る。
見えたのは、愛加里さんのさらなる「はぁぁぁ?」という顔。
これはまずいと咄嗟に彼女の肩を押し返したが、湊さんはぎゅぎゅっと僕を押し込んで無理矢理に僕の隣へ押し座った。
「お願いっ! わたし、恒河沙先生の物語に恋してしまったのっ!」
「ちょ、ちょっと待って。僕、他の物書きさんに書き方を教えるなんてできないよ。そういうのは、もっと実力のある人に――」
「嘘ばっかり! わたし、聞いてますっ! このオバサンには小説の書き方教えてるんでしょうっ?」
ズバッと愛加里さんへ向いた、湊さんの指。
すると、のけ反った愛加里さんがいーっと顔をしかめた。
「おっ、おっ、オバサンっ?」
「そうよっ? わたし、ちゃーんと知ってるんだからっ! あんた、恒河沙先生に小説の書き方を習ってるんでしょっ? 今日だってここで講義をやってるって聞いたから来たんだからっ!」
「オバサンってなによっ! あたしはまだ二十五よっ?」
「今日から恒河沙先生はわたしの先生になるんだから、あんたはとっとと帰ってっ!」
「はぁ? あなただってすぐあたしと同じ歳になるのよっ?」
「恒河沙先生はわたしのモノなのっ!」
勢いよく立ち上がったふたり。
さらにしーんとなった店内に、ふたりの「ぐぬぬ」という唸りが聞こえている。
いや、しかし……、どうも話が噛み合っていないような気が。
「あの…、頼むから、ふたりとも静かにして」
「萩生先生っ、わたしの先生になってくださいっ!」
「ワタルくんっ、あたし、まだオバサンじゃないもん」
「ちょっと、ふたりともいい加減に――」
ついに、どうしようもなくなって僕も立ち上がった。
そのときだ。
突然、睨み合うふたりの向こうに見えたのは、恰幅のよい、ずいぶんと品のいい老紳士の姿。
ゆっくりとこちらへと歩いて来ている。
そして、ものの数秒の後、その紳士は両手を広げてふたりを制している僕に、小さな会釈とともにそのまろやかな笑みを投げた。
ハッとした。
もしかして、この人は……。
「桃香ちゃん? どうしたのかな? あんまり遅いから、道路で待てなくなって車を停めて来ちゃったよ」
「あっ! おじいちゃまっ!」
湊さんの……、お爺さん?
愛加里さんが振り返り、同時にハッと口を押さえた。
やはり、彼女もこの老紳士を知っている。
「おじいちゃまっ、このオバサンが桃香の邪魔をするのっ!」
駆け出した湊さんが、ドンと愛加里さんにぶつかりながら老紳士へ駆け寄った。
これ以上ない愛しみの瞳を湊さんへ向けた紳士は、優しく彼女の頭に手を乗せる。
「桃香ちゃん? こんな素敵なレディーになんてこと言うんだい? すみません。孫は少々口が悪いもので」
「えっ? い、いえ。あたしは……」
笑みを投げられた愛加里さんがぎゅっと肩をすぼませた。
それを見てさらに笑みを増した老紳士は、その瞳をゆっくりと僕へと向ける。
「あなたが……、塾講師の萩生先生ですか?」
そうだ。
間違いない。
この人は……。
「はい。萩生です。湊さんのお爺さまですか? 初めまして……。あの……、不躾に失礼かとは思いますが、もしや、お爺さまは……、
「おや、あなたは私を知ってくれているのですね。光栄です」
破顔した老紳士。
愛加里さんも、同じことを思ったのだろう。
彼女は背筋をピンと伸ばして、口を一文字にして肩を震わせている。
そう。
この人は……、あの、『ミステリーの大御所』だ。
ミステリー小説界では知らない者は居ない、出版社のほうが頭を下げるベストセラーメーカー、重鎮中の重鎮だ。
どういうことだ?
このミステリーの大御所が、湊さんのお爺さんだって?
「孫から勧められて、あなたの作品、読ませてもらいました。『異世界遁逃譚』……でしたか。いやぁ、非常に良い。重厚な文章と濃密なヒューマンドラマが、幻想世界の描写と相まって実に良い世界観を造り出していますね」
「あ、ありがとうございます。恐縮です」
「しかし、そのあなたが孫が通う塾の講師さんで、しかもウチの見習いアシスタントの友人だとは……、これは縁を感じずにはいられません」
最近、鬼泪山がなにやら実入りのいいバイトをしていることは知っていた。
しかし、ヤツはなぜ黙っていたんだ。
これはあまりにも突拍子も無い、驚天動地。
こんな話は黙っていられずにすぐ自慢したがる男なのに。
「それでついつい、あなたのことを孫の本を出させた出版社の者に話してしまいましてね。あー、投稿サイト? というのですかな? それを紹介させてもらいました」
「それは……、僥倖の極みです」
そうか。
それが、一位になっている理由か。
そして鬼泪山はこれを機会に、自分が高溝先生のところで世話になっていることを僕に話そうと思ったんだろう。
「ただ、私は思うのですが、あなたの重厚な文章と人間ドラマは、ジュブナイルよりもミステリーやヒューマンドラマのほうが合っているのではないかと……。そこで、いかがですか? 一度、私のプロダクションでアシスタントをしてみては」
「え? あ…、はい。機会があれば、ぜひ」
その僕の返しと同時に、老紳士の腕に抱き付いている湊さんにパッと笑顔が咲いた。
「萩生先生っ! おじいちゃまのお弟子さんになって! わたしの先生にもっ!」
きゅんと上がった彼女の肩。
愛加里さんはまだ固まっている。
僕はすぐに、自分でも分かるほどの内心の無い愛想笑いを湊さんへと返した。
「湊さん、キミがあんな素敵な物語を書けるのはお爺さま譲りだったんだね。さすが、書籍化作家さんだ」
「いえっ、それはっ……、もう、やめてください。とりあえず、本は返してください……」
その言葉を聞いた老紳士は、小さくなった湊さんを見下ろしてほんの少し首を傾げたが、すぐにまた柔和な笑みを僕たちへ向けた。
「せっかくのふたりの時間を邪魔してしまって、本当に申し訳ありませんでした。萩生先生、ぜひウチへいらしてください。お待ちしています。さ、桃香ちゃん? お家へ帰ろうか」
「えー? わたしっ、このオバサンに萩生先生を取られたくないー」
腕にしがみついたまま、ぐいぐいと老紳士に引っ張られていく湊さん。
店の扉を押し開いた老紳士は、最後にゆっくりと振り返って、僕らに小さく会釈をした。
やっと緊張が解けて、肩を下げながら「あたし、オバサンじゃないもん」と口を尖らせた愛加里さん。
窓の外では、街路灯が描き出す色づいたポプラ並木の下で、いくつものくたびれたスーツ姿が背を丸めていた。
そして僕たちは、その突然の邂逅がまるで夢だったかのような心持ちで、苦笑いをしながら『アルフヘイム』を後にしたんだ。
【たばなお@田原直子☆TABANAO英国館管理人 「恒河沙先生、デイリー1位、おめでとうございます!」】
【鬼泪山@第七回アルセーヌ出版ミステリー大賞エントリー中! 「いい流れだ! 恒河沙よ、この勢いでプロになれ!」】
【野元奏@オフィス光風代表 「連日の一位、素晴らしいですね。陰ながら応援します」】
騒ぎのあと、僕らはちょっとだけ愛加里さんの部屋の近くで飲んで今日を終えた。
帰りは店から直接帰ってと言ったのに、なぜか彼女はどうしてもと聞かずに、僕を駅まで送ってくれた。
『ワタルくん、今日もありがと。気を付けて帰ってね』
『うん。愛加里さん、今日はもう書かないで早めに寝て? お願い』
『分かった。えっと……、あの……、あのさ、ワタルくん。もしかして、これからもずっと異世界を書き続けるつもりなの?』
『え? えっと……、どうして?』
『その……、高溝先生が言ってたけど、あたしもワタルくんの物語はやっぱりヒューマンドラマのほうが合うなって……、そう思って』
そう言って、改札の前で肩をすぼませた彼女。
その肩に見え隠れした、小さな陰り。
どうしたのかと少し腰を下げて彼女を覗き見上げると、彼女はすぐに「あはは、ごめん、忘れて」と眉をハの字にして、これ以上ない満面の笑みを僕に投げた。
そして彼女は、改札を越えた僕に、いつもと同じように「おやすみー!」と言いながら、可愛らしくその両手を振ったんだ。
おそらく……、彼女は気がついているんだと思う。
いまの僕は……、実は本当は心から書きたいと思って『異世界』を書いているんじゃないってことを。
帰り着いて小説投稿サイトを覗いてみると、鬼泪山が言ったとおり、僕の『異世界遁逃譚』は異世界部門のデイリーランキングで一位になっていて、PVも爆発的にカウントが増えていた。
SNSに届いた、幾つかの祝辞。
野元社長からもメッセージが来ていたのには、かなり驚いた。
オフィス光風も、出版社との繋がりがある企画事務所だ。
安い虚栄心に届く呼び声。
あのときも、同じだった。
意気揚々と、稚拙な物語を綴っていた、大学生だった僕。
その僕の作品が、いろんな方面から注目され始めた。
投稿サイトでも、SNSでも、まったく知らない人から、素敵な感想や応援のメッセージをもらった。
ただ、あのときと違うのは、僕がもう、『いしずえ翔』ではないことだ。
いまの僕は、あのときの僕が盲目だったことを知っている。
そんなことを思いながら、さらに開いたメーラーの画面。
そして、そこに届いていたその一通のメールは、あのときの僕の盲目さを嫌というほどにフラッシュバックさせる、晴天の霹靂だった。
『恒河沙さま
ビッグプラネッツ出版書籍部の相川と申します。
現在、当社では、恒河沙さまが『作家さんになろう』へ投稿されておられます『異世界遁逃譚』の書籍化を検討しております。
つきましては、一度お会いしてその相談をさせていただけないかと思い、本日、不躾ながら連絡をさせていただきました。
よろしければ、お会いするのにご都合のよい、日時、場所をご教示いただけませんでしょうか。
予定は、可能な限り恒河沙さまのご希望に添わせていただきます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
東京都千代田区一ツ橋3丁目2-1
株式会社ビッグプラネッツ出版
書籍部ライトノベル担当 相川理人』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます