夜明け
木々の間から覗く空が段々と青くなってきた。夜明けが近いのかもしれない。
「ルタ。私はルタの背中で眠ったけど、ルタは眠ってない。きつくないの?」
「昼寝はした。まだ大丈夫だ」
そう答えるルタの息は少し上がっていた。やはり私をおぶって歩き続けるのは体力を消耗するのだろう。
「ルタ、やっぱり私歩こうか」
「いや、大丈夫だ。それよりヤヌ、お腹すいてないか? 干し肉は少し持ってきたのだが」
ルタはこの日のために色々準備をしてきたようだった。
「お腹はすいてないよ。ただ、喉が少し乾いたかな」
私たちは竹筒に入った水を一口ずつ飲んだ。
「木々の高さが低くなってきている。多分、森の終わりは近い」
ルタの言葉に私は安堵して頷く。
海に着けるかはわからない。私たちはお金もない。食料と水も少量だ。そして地図もない。ただ、きっとたどり着けると信じて歩くしかない。
私は思っていた。もし海にたどり着けなかったとしても、私はこうして今、ルタと一緒にいる。大好きなルタが命をかけてまでして私をさらってくれた。それだけでいつ死んでもいいような気がした。そう思ってルタを見上げると、ルタも私を見つめ返した。
「俺は、ヤヌとこうして一緒にいられるというだけで幸せだ。海に行って、二人で暮らしていけるところを探すつもりだが、今この瞬間に死んだとしても俺は幸せだったと言えると思う」
ルタが同じことを思っていることに私は涙がこぼれた。
「ルタ」
私がルタに抱き着くと、ルタはまた優しい口づけをくれた。
「行くか」
ルタが私をおぶった。
ルタの背中で揺られながら私はルタとその子供たちと一緒に暮らす夢を見る。子供は男の子二人がいいな。そうすれば娘を隣村に嫁がせなくてもいい。そんなことを思うと口元がほころんだ。そうか。もう村を出たのだから、娘でもいいのか。
森が終わる。私たちの前に現れたのは草原だった。見渡す限りの草原。
空が白んでいく。夜明けだ。私たちはだだっ広い草原で、太陽が力強く上るのを見た。
とりあえずここまでで一旦おしまい
【一旦完結】結婚前夜 天音 花香 @hanaka-amane
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