第7話 恋人
少し間があって「ところで、今、お前に愛人がいるのか?」と孝雄が言った。
「あなたには関係のないことよ」と優香。
弘樹は居たたまれない気持ちになって、優香の顔を見た。
弘樹と目が合った瞬間、優香はいつもの優しい表情に戻った。「一緒にいてくれて、ありがとう」と言って、右手で強く握っていた弘樹の手首を放し、弘樹の肩から背中をやさしくなでた。
それを見ていた孝雄は「まさかお前の愛人って、弘樹君のことなのか?」と言った。
「それがどうしたの?」と優香。
「彼は中学生だろう?」と孝雄。
「そうよ」と優香。
「それは犯罪だよ」と孝雄。
「あなたが警察に通報するの?」と優香。
「そんなことはしない」と孝雄。
「なら問題ないわ」と優香。
「弘樹君、いいのかい?」と孝雄は弘樹に言った。
弘樹はちらりと優香と目を合わせてから、孝雄に向き合って「はい。ぼくは優香さんのことを愛しています」と言った。
優香が立ち上がって、リビングルームとダイニングルームを隔てている引き戸を開けた。リビングルームでは健一がテレビゲームを続けていた。
「健一をどこかへ遊びに連れて行ってちょうだい。五月からずっと家から出てないのよ」と優香。
「学校に行ってないのか?」と孝雄。
「そうよ。電話で言ったでしょ」と優香。「夏休みの間はずっと家で弘樹君に遊んでもらってたのよ。」
「すまなかったな」と孝雄は弘樹に言った。
人生で最悪の交渉だったと孝雄は思った。玄関を出て、健一と庭のアプローチを歩いた。
孝雄は、ガレージに駐めてあった高級外車のエンジンをスタートさせた。助手席に座らせた健一に「どこに行きたい?」と聞いた。
「ゲームセンター!」と健一は元気に答えた。
早くマニラの家に帰りたい、と孝雄は思った。
人妻優香の恋人 G3M @G3M
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