第5話 時計台の終焉と新たな始まり
時計台が消え、街に静寂が戻ってから数日が経った。玲奈はまだ夢の中にいるような気分で、日常に馴染んでいく感覚を味わっていた。消えていた「松本」たちも、何事もなかったかのように生活に戻っており、時計台の出来事を覚えている者はほとんどいなかった。しかし、玲奈だけは、あの異界の存在と交わした対話、そして「真実の絆」の力で運命に抗った瞬間を決して忘れることはなかった。
ある日、玲奈は町外れの丘に登り、かつて時計台があった広場を見下ろしていた。あの場所は今、何事もなかったかのように綺麗な芝生が敷かれ、平穏そのものだ。だが、彼女にはまだ微かな鈴の音が聞こえる気がしていた。それは、松本家の「時の守護者」としての役割が完全に消え去ったわけではないことを暗示しているかのようだった。
玲奈は鈴の音を聞きながら、自分の中に生まれた新たな使命感を感じていた。時計台の呪いは断ち切られ、家族や仲間は救われたが、自分が「松本」としてこの町や人々を見守る役目を今後も果たしていくべきだと思い始めたのだ。彼女が立ち上がり、広場に向かおうとしたその時、風が吹き抜け、鈴の音がふわりと遠ざかっていった。
街に戻った玲奈は、これまで以上に家族や仲間を大切にするようになった。彼女にとって「松本」の名はただの姓ではなく、街や時を見守る者としての象徴だった。そして、同じ「松本」姓の人々に対しても、玲奈は彼らが今後も平穏に暮らしていけるよう、心の中で見守り続ける決意を固めていた。
そんなある日、玲奈の元に一通の手紙が届く。差出人はなく、ただ古い和紙に「時の守護者へ」とだけ記されていた。彼女が手紙を開くと、そこにはこう書かれていた。
「時は巡り、新たな門が現れる。その時、真実の絆を持つ者が再び試されるであろう」
玲奈はその言葉を胸に刻み込み、新たな時代に備えて自らを鍛える決意をした。彼女は「時の守護者」として、松本家の名を受け継ぎながら、自らの運命を生き続けることを選んだのだった。
そして、遠くの山間には、再び鈴の音が響くのだった。それは、玲奈が新たな時代の「時の守護者」として歩み出したことを告げる音であり、次なる物語の始まりを示す予兆だった。
この物語は、玲奈が過去の呪いに立ち向かいながら、「松本」という名に込められた使命と絆を深く理解し、自らの意志で新たな守護者として生きていく姿を描いています。最後に鈴の音が響くことで、物語に余韻を残し、また新たな試練が待っている可能性をほのめかしながら物語を締めくくっています。
松本の喪失と謎の時計台 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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