第4話 消失の運命に抗う

時計台で異界の存在と対峙し、「松本」の名を捨てることで呪いを断ち切ろうと決意した玲奈。しかし、家族と仲間を守るために自らの存在を犠牲にするという決断は、容易なものではなかった。彼女は一度家に戻り、自らが松本家の一員として培ってきた記憶を辿りながら、何が「松本」としての彼女にとって大切なのかを考え始める。


時計台の呪いが一族の長い歴史と共に続いてきたことは、彼女の心に深く刻まれていた。しかし、玲奈はふと疑問を抱いた。「この呪いを解く他の方法はないのか?」と。彼女は再び古い文献を調べ、松本家に伝わる記録の中に、別の儀式の方法について記された断片的な情報を見つけた。


その文献には、松本家が「時の守護者」としての役目を果たすと同時に、代替となる守護者を立てることで「名を捨てる」ことなく呪いを解く方法があることが記されていた。しかし、代替の守護者を立てるには、「真実の絆」を結ぶ存在が必要だと書かれていた。


玲奈は「真実の絆」とは何を指すのか考え込んだが、すぐには答えが見つからなかった。しかし、その夜、消えた家族や友人たちが夢に現れ、彼女に語りかけた。「私たちはずっと、あなたのそばにいる。真実の絆は、決して切れないものだよ」と。彼女は目を覚ました瞬間、家族との絆そのものが「真実の絆」を指しているのだと悟り、自分が守りたいものを再確認した。


次の日、玲奈は再び時計台へと向かい、異界の存在と再び対峙した。冷たい闇の中から、その存在が玲奈の覚悟を試すように姿を現す。「松本の者よ、また戻ってきたか?名を捨てる覚悟を持って、再び門を閉じようとするのか?」


玲奈は力強く答えた。「いいえ、私は松本の名を捨てず、別の方法でこの門を閉じます。私は真実の絆を持つ者です。それが私と家族、仲間たちとの絆であり、私はその力であなたに抗います。」


異界の存在は一瞬驚き、深い闇の中から鈴の音が鳴り響いた。その音は前回よりも強く、時計台全体に共鳴するかのように響きわたった。「真実の絆を持つ者…ならば、その覚悟を見せよ!」


玲奈は震える手で時計台の中央にある石碑に触れ、家族や仲間たちの名前を一人ずつ心に刻んでいった。その思いが強まるたびに、鈴の音がさらに高まり、時計台の内部が青白く輝き始めた。玲奈の心が完全に「真実の絆」で満たされた瞬間、異界の存在が彼女に向かって崩れるように溶け、時空の門がゆっくりと閉じ始めた。


「よくやった、玲奈。お前は真実の絆を持つ者として、時の守護者の役割を果たした」と、異界の存在の残響が消えゆく中、玲奈は家族や友人たちの姿が元に戻っていくのを目の当たりにする。時計台は静かに、消え去るように消滅し、街には再び平穏が訪れた。


玲奈は安堵の息をつきながら、自分が松本家の一員であること、そしてその役割を果たしたことに誇りを感じていた。彼女は、自分が「松本」として生き続けることが許されたのだと知り、家族との絆を守るために戦ったことを胸に刻んで、その場を後にした。

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