第3話 時計台の謎を追って

松本玲奈は、時計台と「松本」姓の消失が自分の家系に深く関わっていることを知り、心に覚悟を決めた。消失が続くなかで、彼女は一人でも多くの「松本」を救うため、時計台の謎を解き明かさなければならないと強く感じていた。そこで、彼女は自分のルーツを詳しく調べるため、家にある古い記録や、祖父母が残した日記、書簡などを読み解き始める。


数日後、玲奈は一冊の古びた手帳を見つけた。その手帳には「時の守護者」としての家系の歴史が綴られていた。時代が遡ると、松本家は代々「時と空間を繋ぐ一族」として、時計台を通じて「時空の均衡」を保つ役目を担っていたことが記されていた。そして、その役目を果たすためには、一定の間隔で「松本」という名前の血筋が消失する必要があったという、恐ろしい儀式の記述があった。


「これが原因だったの…?」


玲奈は驚愕し、寒気を覚えた。しかし、さらに読み進めるうちに、松本家の人間には二つの運命が用意されていることがわかってきた。「時の守護者」として消失に従い、自らを犠牲にする役目と、儀式を断ち切り「時の門」を閉じる役目だ。だが、「時の門」を閉じるには「時計台に潜む異界の存在と契約を交わさなければならない」とされていた。


玲奈は、異界の存在が自分の家系を縛り続けていることに気づき、時計台に赴く決意をする。彼女は夜の静けさに紛れて時計台の前に立ち、その重厚な姿を見上げながら、覚悟を決めてその内部へと入っていった。


時計台の内部は、外からは想像もつかないほど異様な空間だった。時代も場所もわからない、歪んだ時空の中で、玲奈はひんやりとした風と不気味な鈴の音が反響するのを感じた。その奥に進むと、そこには「異界の存在」が待ち受けていた。影のような形をしたその存在は、玲奈が持つ松本家の血筋を感じ取り、低く囁いた。


「松本の者よ、汝は何を求める?」


玲奈は震える声で答えた。「この時計台の呪いを解き、家族と仲間を取り戻したい。もう、私たちの一族が犠牲になるのはたくさんよ!」


異界の存在は、彼女の言葉に少しの沈黙を置き、冷たい笑いを浮かべた。「時の守護を止めるというのか?それは代々受け継がれてきた契約だ。その代償は大きいぞ…」


玲奈はその言葉に一瞬たじろいだが、自分の運命に立ち向かう決意を揺るがせなかった。「私は家族を取り戻すために、どんな代償も払う覚悟です。どうしてもこの運命に抗いたい!」


異界の存在は玲奈の強い意思に興味を示し、彼女に一つの条件を提示した。「時の門を閉じるには、時空を繋ぐ役割を持つ“松本”としての血筋を絶やさなければならない。汝自身が、松本の名を捨てよ。そして、門は閉ざされる」


その言葉に玲奈は躊躇したが、家族や友人を守るために決断した。彼女は「松本」の名を捨てることで、自らの存在が一族の中で無に帰することを受け入れる覚悟を決めた。そして、異界の存在に向かって静かに言った。「私が松本の名を捨て、門を閉じます」


その瞬間、時計台の中で何かが崩れる音がし、鈴の音が激しく鳴り響きながら、時空の門が閉ざされていった。そして、玲奈は最後に見上げた時計台の内部が、まるで霧が晴れるように消えていくのを目にした。


玲奈は時計台から出てきた時、周囲には消えていた松本姓の人々が戻っていることを確認し、ほっとした。だが、彼女が「松本」という名前で呼ばれることは二度となくなり、彼女自身もまた、松本家の記録から静かに消えていく運命を受け入れるのだった。

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