第2話 鈴の音と消失の連鎖

時計台の出現から数日が過ぎた。玲奈の周囲では、またしても「松本」という名字の人々が次々と消えていた。彼女の家族や友人も、姿を消す人が日に日に増えていく。そのたびに、どこからか不気味な「チリン…」という鈴の音が響き、消失の合図として残されたかのようだった。


玲奈は恐怖に耐えながら、家族と共に生活を送り続けていた。彼女自身も松本姓を持つため、自分の消失も決して他人事ではなかった。夜になると、眠れない日々が続く中で、ふとした瞬間にあの鈴の音が聞こえる気がする。しかし、音の出所はわからない。まるで空気に紛れ、時折彼女の耳元に忍び寄ってくるようだった。


ある晩、玲奈は「何か手がかりを掴まなくてはならない」と決意し、消えた家族の部屋を調べ始めた。消失者たちが残したわずかな手がかりが、時計台や鈴の音と関連しているかもしれないと思ったのだ。しかし、部屋には何も変わったものが残されておらず、手がかりといえるものは見つからなかった。


失望してベッドに腰を下ろしたそのとき、突然「チリン…」と耳元で鈴の音が響いた。玲奈はハッとして振り返ったが、そこには誰もいない。恐怖に怯えながらも、彼女はこの音に何か法則性があるのではないかと考え始めた。「もしかして、消失が鈴の音のタイミングと連動しているのかもしれない…?」


玲奈は周囲の「松本」たちと話し、消失者の行動や場所を徹底的に調べ始めた。そして、消えた人物が全員、鈴の音が鳴った後に少しの間だけ空を見上げていたという共通点に気づく。まるで、何かに引き寄せられるように。


翌日、彼女は街中の図書館を訪れ、時計台について記録が残っていないかを調べることにした。すると、数世代前にこの街で「時の守護者」と呼ばれる一族が存在していたという古い記録を発見する。彼らは時間と空間のバランスを保つためにある種の儀式を行っており、その中心にいたのが松本家系だったらしい。


玲奈は自分の家系がこの異常現象に巻き込まれる理由を徐々に理解し始める。時計台は単なる建造物ではなく、時の守護者としての役割を持つ松本家に関わる「時空の門」なのかもしれない。そして、鈴の音はその門が開かれ、家系の者を異界へと誘う合図なのだと。


再び、時計台の前に立った玲奈は、恐怖を抑えながらその荘厳な姿を見上げた。その時、再び「チリン…」という鈴の音が響き、彼女の胸に冷たい不安が広がる。玲奈は決意する。「私がこの時計台の謎を解き明かし、消えゆく松本たちを取り戻さなければならない」と。


鈴の音が静寂を破り、玲奈の心に新たな使命が刻まれた瞬間だった。

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