雪乃の告白

うちの最寄り駅、仲井戸駅から西沢駅までの乗車時間は約五分。家から駅まで歩く時間のほうがかかるくらいだ。

約束の時間五分前に到着。改札口を出て南口の階段を降りると、立花さんが待っていた。

「こんにちは。待っててくれてありがとう」

「こんにちは。私もつい先ほど到着しました。ご足労いただきまして、ありがとうございます」

俺たちは挨拶を交わした。

その立花さんの初めて見る私服姿(厳密にいうと、学校で見た服装も制服ではなく私服ではあったが)は、紺色のワンピースに白タイツという、いかにもお嬢様風なものだった。髪型も長い髪を頭の上でお団子状にまとめている。バレエをやっている女の子によく見る髪型だ。そういえば、立花さんもバレエをやっていると言ってたっけ。

「では、参りましょう」

俺は立花さんの後に続いた。


やってきたのは、駅前から住宅街へ続く並木道の途中にある一軒のカフェだった。

ここは俺がドアを開けてから立花さんを入らせるべきかと思ったけど、動く間もなく立花さんがドアを開けてしまった。仕方なく俺もあとに続く。

立花さんが店員さんに話しかけている。二人の様子を見ると、どうやら彼女はこのお店の常連らしい。

「二階の席に行きます」

階段をあがると、テーブル席が二つ、そしてテラスにテーブル席が一つあった。客はひとりもいない。

立花さんは迷うことなくテラス席へ向かった。

「今日はいい天気で良かったです」

「そうだね」

快晴で暖かく、テラス席でお茶を飲むには絶好の日だ。そんな日に美少女と二人で過ごすなんて、まさに夢のよう。

先ほどの店員さんが来てオーダーを取った。

俺はコーヒーで立花さんは紅茶。

「さて……」

テーブルの正面に座った立花さんが、改まったように俺を見た。

その美貌を正面から見るのは大変だけど、今日は俺に相談があると言って招かれたのだ。だから俺も頑張って見据えることにする。

「昨日は本当にありがとうございました。改めてお礼させていただきます」

「どういたしまして」

「私は昨日の出来事で、高橋君がとても信頼のできる方だと確信しました。ですから、今日は私自身のことをお話しして、その上でご相談したいことがあるのです」

立花さんが真剣な表情で、俺を見据えて言った。

俺を信頼出来ると言ったのも本心からだろう。

これは俺も真剣に向かい合うべきだな。

「わかった。話を聞くよ」

「ありがとうございます。それで……私の話ですが、実は、勉強が苦手なのです……」

「え……?」

意外な話に俺は自分の耳を疑った。

「お恥ずかしい話ですが、私、勉強が苦手なのです」

「そうなの……?」

聞き間違いでなかったようだ。

「はい。中学は私立の中高一貫校に通っていたのですが、成績が悪くて高校へ上がれず、通信制の高校に進学したのです……」

…………

そういえば、先日も中学は私立校に通っていたって言ってたっけ。それにしても、一貫校で高校に上がれず外へ出されるって、よほどのことだぞ。いかにも才色兼備のお嬢様っぽいのに、意外な弱点だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

通信制高校に入学したら、理想の美少女と二人だけで勉強することになった 白黒鯛 @shirokuro_tai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画