日常校正機構-OCO-〜侵食する異常〜

ヘイ

Prologue : スタートライン

 

 この世界がゲームとか、アニメであったなら。

 

 そんな妄想をしたことがある。

 自分も何かしら能力があるんじゃないかとワクワクしたものだ。


 しかし、全くそんなことはないのだと。


 サンタクロースが自分の親だと気がつくよりも早く。テレビに出る霊媒師が胡散臭いと思うよりも前に。

 この世界は、ゲームやアニメとは違うんだと理解した。

 

「あの、大丈夫でしょうか……?」

 

 けれど。

 

「怪我はありませんか?」

 

 自分勝手な絶望が、ある一夜に切り拓かれた。月光の下に美しき少女が立っていた。刀を右手に握る金髪の少女が優しそうな青い目でこちらを見つめていた。

 

「あ、あー……全然、大丈夫です」

 

 俺は立ち上がって尻についた草を払い落とす。それからしっかりと彼女を見る。

 

「何ですか?」

「その、名前を聞いても」

「……私は日常校正機構Ordinary correct organization、戦闘部隊エディター所属。ルナです」

「オーディナリー……コレクト?」

「日本語では日常校正機構です。略称はOCO、どれでも好きなように呼んでいただければと思います」

 

 WPOとかWHOみたいな感じか。

 世界的かどうかは分からないけど略称とかとしては近い気がする。

 

「えーと、ちなみにどう言ったお仕事で?」

「アナタが先ほど目にしました機械兵などの敵を倒し、日常をあるべき形に戻すのがエディターの仕事です」

「わぁ、すっごいファンタジー……」

 

 いやSFなのか?

 まあ何でも良いや。

 何にしたってゲームぽくて良い。こうやって非日常に触れたって感じが。

 

「……って、アレ?」

 

 日常校正機構って名前もそうだけど、俺がこうして仕事内容を知ることに問題はないのかな。

 

「ああ、もしかして記憶処理とか」

「しませんよ」

「……あの、それじゃあ何で俺にこんなにも説明を?」

「機械兵との接触があった瞬間から、アナタのOCOへの所属は決まっていました」

「……いつの間にか俺は企業説明会に参加させられて、内定も貰っていたと?」

「そうですね。そういう事になります。断った場合についての説明も」

「要らないですよ。俺は断るつもりもありませんし」

 

 これほどに楽しそうな世界があるのに。それを拒否するなんて勿体ない。この世界はきっと今までにない幻想で満ちてそうだ。

 

「そうですか。それでは……我々の基地に案内しましょう。そこでどのようにして戦うのかも説明しましょう。必ずしもエディター所属になるとは限りませんが」

 

 そういえばルナさんの刀がどこかに消えてる。

 

「あの……刀はどこに行ったんですか?」

「それについてもです」

「なるほど」

 

 あの刀も消えるだけの理由があるらしい。

 そういう原理の物。現物の刀ってわけじゃないのか。それもまたゲームとかアニメっぽくて良き哉。

 俺も武器が手に入るかもと思うとテンション上がる。武器決まったら必殺技とか考えよっかな。

 

「さて、ここが……あれ? 入れませんね」

 

 OCOの基地らしい入り口には着いたのにルナさんは首を傾げたまま。

 

「……機械兵が倒しきれてなかったかもしれません」

「どうして?」

「OCO基地は異常が発生した場合、内部への侵食を避ける為に校正が完了するまでゲートを閉ざします」

 

 だから扉が開かないのはそういう事なのだと。

 

「機械兵が……へぇ」

「あの、ダメですよ? アナタはまだ自分のオーダーを形象できていませんので」

「オーダー……?」

「オーダーというのは私の刀のような武器のことです。異常の侵食を排し、秩序ある日常カタチに戻す為のモノ。これはOCOから支給される活性剤の使用が必要となります」

 

 ルナさんの説明によるとOCOからの支給は月に十個らしく、異常が発生した際にのみ使用するようにとのこと。

 

「これを現段階でアナタに分け与えることはできません」

「……そうですか」

「OCO職員として認められるようになればアナタにも支給されます。とにかく、今は私に全てお任せください」

 

 まあ、それもアリっちゃアリだな。

 誰かがゲームしてるところを見てみるのも色々と悪くないかも。さっきも戦ってるのは見たけど直ぐだったから。

 

「にしてもロボット……居ます?」

「そうですね」

 

 周囲を見回しても、俺にもルナさんにも発見できない。

 

「────ハハハ!!!」

 

 笑い声と共に爆発音。

 声は男の物だ。

 そして暗い空が晴れていく。

 

「ルナーァ! お前さんの取り零しはキチンとぶっ飛ばしたぜー!」

「その声、やっぱりハルさんでしたか」

「おうよ、ハルさんだぜ。よっ、と」

 

 俺の前に黒髪の死んだ目をした同い年くらいの男が降りてくる。身長は俺の方が若干高いから百七十くらいか。

 

「で、ここにいるって事はOCOに新規加入って事ね」

「はい。そういえば名前を伺っておりませんでした。その今更ですがお伺いしても?」

 

 俺は名乗る事にする。

 

「俺は、越野こしのつばさです」

「ほうか。俺はOCOエディターの副団長、ハル。よろしくな翼ちゃん」

 

 差し出された手を握り返すとハルさんは俺の手を力強く握る。

 

「ルナの方は聞いてんだろ?」

「そうですね」

「ま、親密になるにももっと色々時間ってのが必要だろうけど」

 

 ハルさんが俺から離れた。

 

「俺は何となくお前とは仲良くできそうな気がするよ」

「ありがとう、ございます?」

 

 何がそんなに気に入ったのか、俺の顔を見てハルさんがニンマリしてる。

 

「二人とも、ゲートを開きますよ」

 

 ルナさんに言われて基地の方に身体を向ければゴゴゴ、と地面が揺れて地下へと続く階段が現れた。

 

「お、サンキューな。ルナ」

 

 階段前まで移動してからハルさんが振り返った。

 

「さて、歓迎するぜ。翼ちゃん」

 

 ようこそOCOに、とハルさんは両腕を広げた。

 

「…………」

 

 俺は日常を守る為の非日常に踏み込む。

 ゲームスタートだ。

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