第2話 占有領域第6小島:主木島

「よし、終わりだ、これで持つだろう」

地面にテントを固定するため杭を打っていたアタルはそれを聞き

「本当にで感知されなくなるのか?」

訝しげに声の主とその足元に浮かび上がる陣を見た。

「おう、これで船を入れた半径25メートルは安全だ」

言って声の主、イオリは陣を指さす。

-非対称性感知領域

光り輝く陣の下に埋め込まれた

人類の叡智の決勝たる

特殊な装置で半径いくらかの内部を

外部のノウンから視認及び感知

出来なくする優れものだ。

また、ノウンの潜在的な本能に働きかけ弾く効果を持つ。

委員会の保有する絶対安全圏に組み込まれたものの小型版だ。

「はぁ、そんなもんに命かけなきゃ行けなくなるとはな、今日から3日間の仕事がないから怪しいとは思ったけど、こういう事とわな…」

悲観的な言葉を口に出す。

アタルは戦闘要員でもなければノウンに対する抵抗手段を持っていない、ただの海上の運び屋である。

そんな彼が今から最大3日間、イオリの探索が終わるまで船で待機していなければならないのだ。

「ははは、委員会のブラックさが分かるだろ」

イオリが自虐的に笑う。

「ああ、痛感してるよ、いつもな」

それを見てアタルも答えた。


第三首都非安全圏占有領域 第6小島

通称、主木島

本当から南東に300キロ、中央に聳え立ち赤く輝く幾何学模様が浮かぶ巨大な樹木を中心に半径15キロメートルほどの小さな島である。

島周囲と空には飛空種、海には海中種のアンノウンが犇めき、中央に行けば行くほど陸上ノウンが跋扈する人類お断りの領域と化している。

アタルを船に待機させ、中央に向かい始めてからはや、5分ほど、もう既に海辺は見えないほど森の中に入っていた。

「…」

ノウンに気づかれないように気の陰に隠れながらゆっくりと進みながらイオリは今日からの任務を伝えられた時を思い出していた。



その日の任務を終え、報告兼休暇の申請を出そうと自身の所属する首都、管制塔の塔長の元へ向かった矢先、

「明後日っすか…?、え?」

「そうよ、何か問題あるかしら?」

このような会話があった。

特段、突然仕事を任せられることはいつもの事だが日付が良くなかった。

イオリとヒナの関係は首都内でも有名だ。

無論、塔長もその事は把握している。

「その日ですか?」

「ええ、そうよ、これ資料ね」

と、人類生存権奪還委員会エリアA第三首都統括委員長、通称長、カザキ・C・キヨヒロが紙の資料をイオリに渡す。

「これはまた、えらく原始的な…」

資料数枚を捲りイオリが呟く。

「ええ、データとして残せない、それだけ秘匿性の高い仕事、ということよ」

顎に手を当て、

「現状、これを頼めるのはこの首都にアナタを入れて3人、でもアナタ以外の2人はタイミングの悪いことに他の首都に向かっている」

そう、続けた。

「でも、ここの探索は何年も前に打ち切られたはずですよね?、なんでまた急に、しかもわざわざ俺に」

イオリが訝しげに言うと、

「今から2日前、その第6小島を含む5つの島で高濃度のエーテル反応があったわ、ただ普通の反応なら良かった、けれどもここだけは違った…」

そこで一旦区切り、資料を見るように促す。

「ん…?、この波形ってまるで…」

イオリはそれを見て驚いた。

なぜなら


「ハイハク…」


その名を口に出した。

ハイハク、灰色の覇王、終末を告げる獣。

今より300年前ここが日本とエリアAが日ノ本と呼ばれていた頃に世界をいまの現状へと叩き落とした始まりのアンノウンである。

「無論この反応が出たことは委員会上層部は周知しているわ、1週間後に大規模な調査隊が向かう予定よ」

カザキは腕を組み悩むような仕草をする

「ならそいつらに任せりゃ良いじゃないですか?」

イオリが言う。

「…元老が絡んでるのよ、その調査隊に」

元老、委員会よりさらに上の組織だ。

かつてイオリを造り育て上げたのも彼ら直営の部署だ。

だが、もっとも、

「ハイハクが居るかもしれないならそりゃ絡むんじゃないんすか?」

それはそうだ、300年前に現れた厄災がまた現れたかもしれないのなら

委員会より上が動くのも考えられる。

「まぁ、そうよね、

元老の老人たちがハイハクを手に入れたら何するか知らないけど、きっと人類の役に立つことよね」

「…」

「そう言えばあなたの昔のバディはどうなったかしら?」

断れない、この仕事は最初っから断れるわけが無いのだ。

「…分かりましたよ、やりますよ」

渋々承諾する。

詳細はいまは関係ないので伏せるが、元老が絡むとなるとイオリに拒否権はなくなる。

「その言葉を待ってたわ!さぁ行ってらっしゃい!」

さっきまでの圧は何処へやらカザキはニコやかにイオリの背中を叩いた。



「ハイハクが居るかもしれねぇってのに俺一人かよ…」

いくら、イオリと言えど終末の獣と1体1でやっては勝ち目がない、それはカザキも承知のはずだ。

そもそも本当にハイハクが現れたのなら委員会総出の、エリア単位で仕掛けなければならない。

だが元老より先にそれを始末、あるいは回収しなければならない、となると少数精鋭、多少犠牲を払ってでも情報を手に入れてこいという事だろうか。

つまるところイオリは捨て駒である。

「嫌な組織だよ本当に」

命の軽さに嫌気が差す。

年間の死者は近年は減ってきては居るがそれでも1000人を越す。

つい昨日まで共に酒を交わしていた知人友人が次の日には片腕だけになっていた、なんてザラである。

だが、それでも自分が死ぬのはごめんだ。

━━ヒナの為にも

イオリは自身を鼓舞するように、いまこの世界に自身を唯一照らしてくれる人を思い浮かべだ。



「着いたな…」

歩き続けること十数分、どうにかノウンに気付かれずに目的地に到着したイオリは呟く。

イオリの目の前には高さだけでも数百メートルはあろう大樹がそびえ立っていた。

表面には複雑な幾何学模様が浮かび上がり鈍く赤く輝いている。

根元は複雑に絡み合い禍々しく近づくものを拒む蛇のようだ。

絡み合った根の一部が盛り上がり門のように地下へと続く形になっている。

それはこの大樹の地下にある洞窟へと続き、さらに進むと、ある場所へと変わる。

「さぁて、行きますか、ちょっぱやで」

言ってイオリは門をくぐった。

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人類生存権奪還委員会-FL- 鈴理屋 @rinri_ya

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