第1話 ノウン

天気は曇天、雷なし、

風は突風、気温は35度、視界は良好。

住み慣れた土地から生存権を奪われた人類にとっては比較的最高の日である。

そんな最高の日に1人、

人類を見るや否や攻撃してくる

化け物たちがウヨウヨとひしめく本島から

南東に300キロの小島へ向かおうとする青年が居た。

「はぁ、よりにもよってなんで今日なんだ。」

ため息混じりに愚痴をこぼし空を見上げる。

厚い雲が太陽光を遮っていた。

陽の光でも見れたら気分は違ったかもしれない。

いま、青年が居るのはが占有、奪還したと言った方が正しいかもしれない、している海に面した旧時代の面影を残す港である。

「イオリー!、朝からシケた顔してんな!」

青年イオリは、この港に居る唯一の人間から声を掛けられそちらを向いた。

そこには船の操舵手に片手を掛け操舵室から上半身だけを出し

口に煙草を咥えた活発そうな男性がいた。

年はイオリとそう変わらなそうである。

「おう、アタルお前はいつも元気だな」

そうとだけ返し、男性アタルの駆る船へと乗り込んだ。


「そんでー?最近ヒナちゃんとはどうなんだ?」

船に乗り幾分か経過した時、アタルに話を振られる。

「どうもこうも、何とも、ただ今日は付き合って1年記念だから早く帰ってきてね♡、

だとさ。」

ははは、と生気の消えた目、薄笑いを浮かべ答える。

「あれ、今日のってか、今日からの任務は泊まりだろ?」

「ああ、アイツも知ってて言ってる、

なんなら、今日の任務自体が一昨日決まったばかりだよ」

日々、その日限りかもしれない人物を

船に乗せ色々な場所へ運ぶアタルは

その日の仕事を

その日に聞かされるため、

知らないのもしょうがないのである。

「そりゃぁ、なんつうか、どんまい!」

言うとアタルはスゥーと煙草を吸い白い煙を吐き

「しっかしよう、1年ってのも早いな、委員会でも話題だろ?」

「ああ、本当に、ユズハにもよくからかわれるよ」

「ユズハ!うわ、懐かしいな!まだ生きてたのか」

ユズハ、その名を聞きアタルは内心懐かしむ。

今から2年ほど前、初めてイオリとアタルを出会わせたのはユズハと言う少女だったのだ。

「にしても、そうか、

生きてるのか、よかった」

「ああ、アイツもお前に会いたがってたよ」

と、その時、


ガタンッ

船が大きく揺れた。

「おい、アタル!」

「いいや、悪い、そういやもう縄張りに入ってたわ、出番だ出番!」

アタルがイオリに向かって指を指した。

「おう、任せろ、はできねぇけどな!」

イオリがそう返した瞬間、

突如目の前の波が飛沫を上げた。

そして、

--グルゥアアアアア!!!!

巨大なヘビのような生物が姿を現した。


ノウン、正式名称アンノウン、

イオリたち人類の絶対的な敵である。


和解は不可能、気づき気づかれたら戦闘は避けられない。(人類は場合による。)

「サカナの癖に吠えやがってからに!」

アタルがノウンを避けるように舵を切った。

それに合わせて船が大きく揺れる。

「イオリ!どっちだ!」

アタルが何やら確認するようにイオリに問いかける。

でやるからどっちでもいい!それにまだコイツ以外にも居るだろ!そっち避けるのに集中しろ!!船は壊させねぇ!」

イオリの言葉の通り海上進行方向の至る所からノウンが飛沫を上げてそそり立つ。

「っと、危ねぇな!」

それを避けるようにアタルは次々と舵を右に左にと切る。

当然、ノウンはそれを容易に逃そうとはせず

--グルァァァァー!!

噛み付こうと、あるいは体当をしてこようと近づいてくる。

そのうち1匹の口が船体側面へ

噛み付こうと大口を開けたその時、

辺りに轟くような何かが弾ける音と共に

ノウンの頭部が文字通り木っ端微塵に

「イオリィ!いまのギリギリだろうが!

もっと早くに撃てよ!!タマヒュンしただろうが!」

その光景を見てアタルが声を荒らげた。

「悪い悪い!、これ使うの久々なんだ!」

そう返すイオリの右手には青く輝く、

薄い札のような物が数枚握られていた。

「なんだそれ!そんなの見たことねぇぞ!」

アタルが疑問を口にするが、

「島までどんくらいだ!!」

一旦は無視するようだ。

「あと15分くらいだ!余裕だろ!島に近づけばこいつらは来ないはずだ!」

アタルがそう返と

「分かった!」

イオリは大きく頷いた。


かくして、これよりイオリによるノウン殲滅が始まる。

進行方向に居るノウン数体を吹き飛ばし続け、それと並行して側面、後方に接近してくるノウンの相手もしないといけない。

「まだ始まったばかりなのに滾っちまうじゃねえか!」

声に出しイオリは迎撃種カウンターの札を船体を包むようにし前方には撃破種ストライカーの札を向ける。

不可思議なことにどれだけイオリが札を使おうと右手に持つ札は減るようには見えない。

青く輝く札が蛍のように船の周囲を照らす。

「目立つが、いまはこれで良い!」

ノウンが札に狙いを付け攻撃してくる。

しかし札に触れたその箇所が丸く抉られたような跡を残し跡形もなく消失する。

当然部位問わず致命傷である。

「横と後ろはこれでいいな…」

呟きチラリと前方を見る。

ちょうど展開していた撃破種札ストライカーの光が少なくなってきていた。

いま前方に展開している撃破種札は操者の視覚、リソースによってはノウンの反応を頼りに攻撃を加える。

一番最初にノウンの頭部を吹き飛ばしたのもこの札である。

対して側面後方、そして船底へ展開している迎撃種札カウンターはその場から動かずに近づいてきた、あるいは攻撃してきた対象を弾き

しかし、迎撃種札は発動までに数秒ほどかかる。

迎撃種札を展開した枚数は400ほど、小島に着くまでは持つだろう。

問題は前方である。

空域ノウンが居ないことが幸いしているが常に進行している船体に合わせルートを確保しなければならない。

適当に札を撒き散らしとイオリのが底を突く。

迎撃種札へのリソースは凡そ2割ほど、残りの8割でどうにかしなければならない。

8割と言っても小島での行動を考えると抑えなければならない。

「目視で頑張るか…!」

自分を鼓舞するようにイオリは言うと両手を前へと掲げた。


それからきっかり10分後。

「ふぃー、着いたぞー!」

アタルが操舵室から顔を出して言ってくる。

「悪ぃ少し休ませてくれ…はぁ、楽しくなってやっちまった…」

結局、浜に着くまで小型のノウンたちは船を離れてくれず、

札とエウテルを使い過ぎた為にイオリは甲板に額を付け、あ”あ”あ”…、と倒れていた。

「おいおい、これから3日間大丈夫かよ…」

その光景をアタルが不安そうに見ていた。

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