金平糖と牡丹

こうの なぎさ

運命

今日も主さんはあちきに会いに来んす。

そんな優しい主さんに

心惹かれてくなんて

もう最初から分かってやした。


主さんがいつも持ってきてくれんす

金平糖。

それがすごう嬉しゅうて。

あちきの心は踊りんす。踊りんす。


ねえ、もっと、こっちに来て。

あちきを見つめて言って欲しゅうござりんす。

でも、その言葉を聞くのが

1番怖いのに。


初夏の気だるさに酔いながら

今日も主さんを待ちんす。

今日は逢いに来てくれねえのね。

ぽつりと出た言葉が

あちきの心に刺さりんす。


ねえ、もっとあちきを求めて。

主さんが触るところは熱を帯びて

今にも燃えちまいそうなのよ。


主さんはあちきのこの

小さな気持ちに気づいてるの?


夏が終わり、あっという間に冬になりんした。


望んでいたあの言葉も聞けず

主さんに会えねえ日々が続きんす。

もう、金平糖はくれねえの?


この狭い世界の中で

主さんが全てでありんしたの。


あちきから会いにはいけねえ。

ただ、待つだけのあちき。

牡丹の花が落ちんす。


主さんはもうあちきを

求めてはくれねえのね。


大丈夫、主さんのござりんせん

この狭い世界でもあちきは

生きていけるのよ。


主さんが最後に言いんした

「愛してる」

その言葉だけがあちきを強うしてくれるから。



※※※


花魁だった前世の記憶を

持ったまま産まれた私は

今日も人混みの中

あなたを探す。


きっと、きっと、

あなたも覚えていて

そしてまた私に金平糖をください。


何年も何年も探し続ける。

今世ではあなたと

この広い世界で繋がりたい。


25歳になった私が

食べる金平糖。

あなたがくれたほうが

甘く、甘く私を溶かしていく。


また冬がやってくる。

思わず転んで立てずにいた私に

誰かが話しかける。


目と目があって

涙がぽろりと落ちた。

やっと見つけた。

雪がしんしんと振る中


あなたは私を抱きしめてくれた。

覚えていてくれたのね。

あなたも同じ気持ちだったのね。


そして私の手を握って

渡してくれたのは

あの小さな袋に入った

金平糖。


ふたりの約束の

牡丹のある公園で

今度は一緒に食べるでありんす。



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