第8話

「りーず。」



むんずっと紫音が凛珠の頬を両手で挟む。



「今やめたら後悔しない? 未練残らない?」


「みれん?」


「うん。やっぱり想い伝えとけばよかったーとか、まだ好きだなーとか。ない?」


「うーん……」



ないと言えば、嘘になる。



「諦めるのはいつでもできるから、大丈夫だよ。ゴールが見えなくて不安だったら、自分で決めちゃえばいい。夏休みまで進展がなかったら諦める、とかさ。」


「なるほど。」



それはいいかもしれない。やっぱり、紫音に相談してよかった。


諦めるならアカネが卒業する時にしよう。父に負担をかけないためにも、凛珠は高校を卒業したら働くつもりだ。だからその先までアカネを追いかけるつもりはない。



「あ、凛珠ー。公園あるよ。ブランコ乗ろ?」


「対象年齢十二歳までだよ。りず達もう十六歳と十七歳。高校二年生。」


「だいじょぶだいじょぶ。どーせ小六から大して身長も体重も変わってないって。」



そう言って紫音はブランコに駆けて行く。なんの躊躇いもなく座ると、思い切り漕ぎ始めた。


子供のように遊ぶ紫音の隣に凛珠も腰掛ける。紫音ほどじゃないけれど、自分も漕いでみた。



「あはは。小学生に戻った気分。」


「うん。お兄ちゃんとよく二人乗りした。りずが立つ方。」


「陸に立たせればよかったのに。すごい怖がりそう。」


「だってお兄ちゃん、速くて高いの苦手だから全然漕いでくれないんだもん。りずがつまんない。」


「陸ジェットコースターとか乗れないもんね。」



ブランコで遊ぶ高校生二人。陸が見たら、「小学生かよ」って言うんだろうな。そう言いながら、自分も乗るんだろうな。高く漕げないくせに。


この場にいない兄の行動を考えて、凛珠はフッと笑う。



「凛珠と遊んでると時間過ぎるのあっという間だなー。」



高く前に上がったブランコから、紫音が手を離す。綺麗な放物線を描いて両足で着地すると、凛珠を振り返ってふふん、と笑った。


凛珠も真似をしてブランコから飛び降りた。たん、と地面に着地。小さく拍手をしながら、紫音が近づいてきた。



「凛珠、帰ろっか。」


「うん。」



もう少し今日が長かったら、紫音ともっといれるのに。



「紫音、また遊ぼうね。」



今度は陸と三人で。


すぐにうなずくと思った彼女は、黙ったままで。その横顔を見れば、無色透明な表情がそこにあった。



「紫音?」


「……うん。遊ぼうね。」



ニコッと微笑む紫音。今の間はなんだったんだろう。少し違和感を覚えたけれど、紫音の笑顔を見ていたら気にならなかった。


歩車分離式の信号。凛珠と紫音は青になるのを待っているけれど、凛珠はこのまま真っ直ぐの横断歩道を、紫音は右の横断歩道を渡って帰る。



一緒にいられるのは、ここまでだ。



「また今度ね。」


「うん。また今度。これとこれ、陸に渡して。お土産って。」


「分かった。」



車用の信号が黄色に変わる。



「……凛珠、ごめんね」

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minors 七夕真昼 @uxygen

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