第7話
放課後、制服を着たまま遊びに出かけると改めて自分が女子高生なんだと感じる。
「凛珠!」
自分を呼ぶ声に振り向けば、親友が笑顔で手を振っている。待ち合わせ場所で待っている凛珠の元に、紫音が駆けて来る。
「紫音!」
周りを気にせず、凛珠も大きく手を振り返した。
「久しぶりだねぇ、凛珠! 陸にはいっつも会ってるけど、凛珠には全然会えないからさぁ。ちょっと前まで毎日一緒だったのに。」
「ごめんね。お兄ちゃんは先帰った?」
「うん。今日は凛珠と遊ぶって陸に言ってたから、先帰ったよ。陸が凛珠に、寄り道しないで帰って来いよって。あと、人通りの多い所通って帰って来ることと、変な人にはついて行かないこと、何かあったらすぐ電話することだって。」
紫音から伝えられた兄の言葉に、つい凛珠は苦笑する。
「過保護だなぁ。りずだってお兄ちゃんと同じ十六歳なのに。」
「陸は凛珠のことになると心配性だからねー。」
からからと楽しそうに笑う紫音。たしかに陸が一体通り、自分は前に会った時よりも明るくて元気だった。
紫音の前で凛珠は絶対に兄を「陸」とは呼ばない。凛珠は陸の唯一無二だけど、絶対じゃないから。兄の隣で生きていく人は、いつか必ず自分ではなく紫音になる。
「今日は凛珠といっぱい遊ぶんだから。ほら、行こ?」
輝く笑顔で凛珠の手を引く紫音は、姉のようだといつも思う。そしていつかは彼女を「お姉ちゃん」と呼ぶ日が来るのを、凛珠は密かに楽しみにしていた。
「陸にもなんか買ってこ。凛珠選んでくれる?」
「お兄ちゃんが何好きかなんて、紫音もよく知ってるじゃん。」
相思相愛な二人の姿が眩しかった。自分にもそんな人が現れるかな、と憧れたりして。陸の隣に紫音がいるように、自分の隣にいるのがアカネだったら嬉しい。
そんな関係にはなれそうもないけれど。
──でも、毎日話しかけてたらいつか仲良くなれるかな?
今は無理でも、いつか。そんな淡い希望を抱いて毎日話しかけているけれど。気づいたら一年が過ぎていた。
その“いつか”がきっと来ないことは、凛珠だって分かっているつもりだ。
「ねーねー」
紫音は凛珠の良き相談相手。双子といえど、男と女では話しにくいこともある。特に陸を不安にさせることは相談できない。
「紫音はお兄ちゃんと付き合う前って、お兄ちゃんとどうやって仲良くなった?」
「んー……最初に仲良くなったのは凛珠だったから、あんまり覚えてないなぁ。凛珠と仲良くなって、陸とも仲良くなって、気づいたら陸を好きになってたって感じ。」
「そっか」
「うん。でも、陸が好きって気づいてからちょっと気まずかったな。あれ、私陸と何話してたっけって。凛珠がいないと何話していいか全然分かんなかった。」
「よく『何も話せない、助けて』って言ってたもんね。」
その頃は凛珠から「陸と話せない」と泣きつかれ、陸からは「紫音が何話しても反応してくれない」と泣きつかれたものだ。
よく覚えている。良い思い出だ。二人の結婚式で絶対話そうと思う。
「凛珠も、好きな人と何話せばいいか分かんなくなった?」
「ううん。」
分からなくなったのは、会話の内容じゃない。
「りずはアカネくんが好きで今の高校に行ったけど、毎日アカネくんに挨拶したりお話してるけど、アカネくんちっとも変わらないからもう諦めた方がいいのかなぁ。」
そもそも女嫌いと有名な相手だ。恋愛初心者の凛珠が落とすにはハードルが高すぎた。
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