第3話

 母と並んでご飯を食べれば、色々とaに話す。

 今日は話しかけ過ぎてしまった、と母の反省を聞き流しながら、aは角煮を楽しむ。


「お母さんが反省する事はないよ。反抗期なだけだから」


 aは自分の役割を果たす。

 母が気にしないように、反省は軽く流し、愚痴は一緒に盛り上がる。

 母の瞳の澱みに気が付かないフリをして。



 aは反抗期の時、一線を超えた事があった。

 発言した瞬間にa自身も、許されないと分かった。


 一瞬呆然とした母が繕った表情をしたのを、aは未だ夢に見る。

 次の日の朝、母はaに告げた。今回だけだよ、と。


 aはその発言をずっと危惧している。



 弟は兄よりもaに似てしまった。

 顔は兄に似ているが、中身が幼いaにそっくりなのだ。


「あんたには分からない」


 母を馬鹿にした弟を見て、ついに反抗期が始まってしまったと思った。

 怒鳴って自室に消えていった弟を放置して、母の顔を見た。



「反抗期ね」


 これまでの母を思い出すと、信じられないような冷たい声だった。

 でも、aは覚えがあった。あの声を聞いた日から懸念していた事があった。


 本当に、aの考えていた通りだった。


 ずっと怯えていた事が現実だったと知り、aは毎日役目を果たしている。


 弟が無駄に苛立たないよう、金をかけて賄賂する。

 母が勢いに流されないように、こちらに引き止める。

 父に報告しながら、無駄な事は言わないしないように釘を刺す。



 あの日の自分と同じ過ちを弟がしないよう、神に祈りながら生きている。

 自分の時とは違い、もう母の許しは降りないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私を決して許さないでください @m00000_a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ