第2話

 玄関に着けば、泣き声がした。

 街灯がある外の方が明るいような状態の家の様子に、思わずため息が出てしまいそうだ。


 何を踏むか分からないから、仕方なくスリッパを履き、電気を点けて声をかけた。


「今日は何があったの?」


 蹲っている母は鼻を啜るだけで、返事をしない。

 室内灯の無機質な白い光で照らされた机には、用意したまま放置されたご飯がある。

 四人分、誰も手をつけていない。


 時間がかけられただろう角煮を行儀悪く素手で食べれば、母の味がした。


「今日のも美味しい。お父さんは?」

「……まだ会社、あと手で食べない。箸使って」


 私が食べたと分かると、ズピズピ言いながら顔を上げる。

 何枚かティッシュを取ると、今度はaに箱を向ける。aは、お礼を言いながら汚れた手で一枚取り、拭って丸めてゴミ箱に捨てた。


 aには兄弟がいる。

 歳の近い兄と、歳の離れた弟。

 兄はずっと前に家を出てから、年に何回か顔を出す程度になった。会う度に顔が丸くなった、老けたと互いに笑って言い合うような、良好な関係を築けている。


 弟の方は、反抗期の真っ最中だ。

 今回もどうせ食事前に言い争って、部屋に籠城したんだろうと予想が付く。


「一緒にご飯食べようか。一応、声かけてくるから」


 母が心配かけまいと取り繕うような状態に戻ったのを確認して、aは玄関に戻り、放置したもう一つの袋を持って弟の部屋の前へ行く。


「ご飯ー!」


 強めにノックをするも、部屋からの反応がない。仕方がないので、買ってきた物を部屋前に置いて戻る。


 aがリビングに入るくらいに、後ろで物音がする。

 いつも通り、弟が袋を回収しているのだろう。

 a自身、反抗期が酷かったと自覚している。似たような状態の弟のため、せめて栄養と水分を差し出してるのだ。



 何度も言うが、こういう事が後々に響くのだ。

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