私を決して許さないでください

第1話

『親の愛は無限』


 なんて的外れな事だ、と匿名(以下、aと記す)は思った。

 笑って話す講師と退屈な授業。

 ほら見たことか、生徒の何人かがあくびを噛み殺している。


 報道番組を見た事が無いのか、と質問されてしまえば良いのに。

 言葉に詰まって、慌てふためいてくれれば、この苛立ちも少しはマシになる。

 aは背面黒板の上に掲示された作品を眺めながら、時間が過ぎていくのを待つ。



 結局、ペラペラとよく回る口で授業終了後も、校外に出た後も喋り続ける男。

 免許を持っているのを知られたのが、運の尽きだった。

 奴をきっちり家に送り届け、今度は来た道を戻る。


 奴と私の家は方向が反対。

 送ったせいで生まれた時間を使い、記憶やら思考やらを整理していく。


 そういえば、牛乳が欲しいって言われていた。

 いつもの低脂肪で、あればチーズも。六つのではなく、スライスのとろけるタイプ。

 奴への苛立ちで忘れていた頼まれ事を思い出せたので、足扱いされた件は許してやろう。


 スーパーが潰されて駐車場ばかりが立つ、中途半端な田舎。コンビニエンスなドラッグストアに向かう。

 あまり知られていないが、ここら辺のコンビニは二十一時で閉まる。だがドラッグストアは一日中開いているのだ。


 誰にするでもない説明を脳内でしながら駐車し、スマホを確認すると何件かの連絡が来ている。

 一通り見て、念の為買い物にきた事を伝えれば、更に買う物は追加される。

 実家暮らしを長く続けさせてもらうには、こういったポイント稼ぎが重要なのだ。


 元々言われていた物と足された物をカゴに入れる。

 そして、カロリーバーと大きめのペットボトルのお茶を買っておく。



「レジ袋は必要でしょうか」

「二枚お願いします」



 本当にこういう事が、後に響くのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る