魔王殺しの英雄譚の裏には必ず殺される魔王がいる

ダークネスソルト

全ての始まりの物語


「人間め。人間め。人間め。クソったれな人間共がぁぁぁぁぁぁぁ」


 平和な村だった。

 皆家族の様で、仲良しで大切で喜びも悲しみも共に分かち合えた。

 村には結婚を誓い合い一週間後に結婚式を挙げる予定だった幼馴染のアイリスがいて、村の皆はそんな僕とアイリスの結婚を自分のことの様に喜んで祝ってくれた。

 これ以上ないくらい平和で幸せで満ち足りていた。


「嗚呼、そうだ。じゃあこれはきっと夢だ」


 目を開けてみれば人間によって村が焼かれて殺されて抉られ痛みつけられていた。

 あれだけ平和だった優しい村は何処にもない。

 あるのは燃え滓と死体と人間という愚かで醜い化け物だけだった。


「おい、まだ生きてる魔族がいたぜ。だけど男か・・・。あんまり高く売れないから困るな」


「それな。まあでも小さい村にしては珍しく綺麗な若い女も一人いたし、それなりの値段はつくだろ」


「違いないね。まあ、本隊に送る前にこっちで遊んでから送れば良かったかもな。かぁ、クソ勿体ないことした」


「おいおい、処女の有無で価値が何十倍も違うんだぞ。そんなことをしたら騎士団長様にぶち殺されるぞ」


「それもそうだな。ハハハハハ」


「ハハハハハ」


 汚い鳴き声が聞こえる。

 コイツらは何を言っているんだ。

 

「にしてもこの魔族喋らないな。まあどうでもいいか。とっとと奴隷紋でも刻んで売r」


「闇魔法・闇槍」


 醜い化け物を一匹始末した。


「クソ、コイツ魔族の分際で仲間を殺しやがった。ふざけるn」


「闇魔法・闇喰」


 もう一匹始末した。


「皆殺しだ」


 目についた醜い化け物を殺した。

 殺した。

 殺し尽くした。

 

 気が付いたら僕の周りから生命というものが消えていた。


「ははははははは。ハハハハハ。フハハハハハ。ヒィヤヤヤヤヤヤ、ハハハハハ」

 気が触れた笑い声が響く。

 響く。

 響く。

 重く響く。


 気が触れたように笑わないと正気を保てなかった。

 自我を保てなかった。

 僕がアイリスに美味しいお肉を食べさせてあげようなんて思って狩りに出かけていなければ、僕が村にさえいれば。

 僕が・・・僕が・・・僕が・・・。


「僕がぁぁぁぁぁぁ。クソ、クソ、クソ、クソが。何でだ。どういうことだ。アイリス、お父さん、お父さん、村の皆・・・どうして・・・どうして・・・」


 一人うずくまり泣きじゃくってる最中、ふとあの人間の子供を思い出した。

 「本隊に送る前にこっちで遊んでから送れば良かったかもな」

 という言葉を。

 本隊ということはコイツ等は末端ということか?そして送ったということは何でだ?いや理解している。奴隷として売る為にだ。

 じゃあ、まだアイリスは生きてるんじゃないか?いやアイリスだけじゃない村の皆も全員じゃなくても生き残ってる人がいる可能性はあるんじゃないか。


 希望の光が差し込んだ。


 僕は村の皆を埋葬した後、近くの村へと走り出した。

 アイツ等は明らかに組織的に動いていた。

 きっと自分達の村だけじゃなく他の村も襲って非道な行為をしているだろう。


 そして到着した頃には何も残っていなかった。

 同じように全てが破壊され殺されていた。

 非道という言葉をどれだけ重ねても足りないような残虐な光景がそこにはあった。


「遅かったのか・・・」


 僕は余り交流はなかったけれども同じ種族の仲間として彼らを埋葬して次の村に向かって走り出した。


 次の村も同じ惨状であった。

 次の村も次の次の村も次の次の次の村も次の次の次の次の村も同じ惨状だった。


 走って埋葬して走って埋葬して走って埋葬してを繰り返しながら遂に知っている村が残り一つになった時に人間を見つけた。

 丁度村は人間によって襲われている状態だった。


 僕はすぐさま助けに入り、情報源として幾人かの人間を残して皆殺しにした。


「助けくださり、ありがとうございます」

 村の村長がお礼を言ってきた。

 でも、俺は全員を救えなかった。

 その事実がお礼を素直に受け入れられずむしろ棘の様に心臓を締め付けてきた。


「村長さん。あの人間が何者なのか知っていますか?」


「恐らくですが、グレルニカス王国の騎士だと思われます。かの国は人間至上主義国家であり私達の様な魔族やエルフ、ドワーフ、獣人といった亜人達を奴隷として活発に売買を行っている悍ましき国でありますから」


「グレルニカス王国・・・そうか、ありがとう」


「ど、何処へ行くのですが、英雄様、村を救って頂いたのですがせめて何かお礼を」

 

「英雄様だなんて良いよ。僕は大切な人すら守れなかった屑だよ。

 それに僕にお礼をするくらいなら復興に使ってよ」


「英雄様・・・ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 何度も頭を下げて泣きながら礼を言ってくる。

 他の村人達も僕にお礼を言ってくる。

 それが何とも小っ恥ずかしくてムズムズとしたけど、優しかった僕の村の皆を思い出して悲しくなった。


「ありがとう。じゃあ、僕は行くね」

 逃げる様に村から出ていった。




 村から出て少し離れた場所で捕まえていた人間を一匹亜空間から取り出す。


「この、魔族が。今すぐに俺を解放しないと国がお前を許さないぞ」

 不愉快な鳴き声を発する。

 これだから人間は嫌いだ。

 自分達がこの世の中で最も尊い生き物だとても思っているのか。


「幻覚魔法・精神魔法・操作魔法・混合・操り人形」

 一匹を僕のいう事を何でも聞く従順な人形にする。


「さてと、お前は何処の国の人間だ」


「私はグレルニカス王国の人間です」

 村長の言っていたことは正しかった訳か。


「お前らは何故魔族を襲う」


「???魔族は下等な存在です。人間様に扱われてむしろ喜ぶべきです」


 プシュ


 カッとなって殺してしまった。

 そうか・・・そうか・・・そうか・・・。

 本当に人間ってのは救いようがないな。

 お前らがそういう態度を取るならこっちだってそれ相応の態度を取るしかないじゃないか。


「まあ。いい。一旦冷静になろう。

 精神魔法・精神安定。次は殺さないように情報を集めよう。集めきったら殺そう」


 捕まえた人間を全員消費して欲しかった情報は何とか集め終えることが出来た。

 グレルニカス王国の場所に奴隷が集められる奴隷集積所、騎士団の指揮系統に魔族側に存在する裏切り者にグレルニカス王国と敵対する魔族のレジスタンスの存在等々。

 様々な情報を集めることが出来た。


 ただ今の僕の目標はたった一つ。

 アイリスを助け出すことだ。


 だから奴隷集積所を襲おう。

 襲ってアイリスを助け出そう。


 僕はすぐさま行動を開始した。

 最低限の休息と栄養補給でグレルニカス王国の奴隷集積所まで3日で辿り着かせた。

 辿り着いてすぐに奴隷集積所を襲った。

 目についた人間全てを皆殺しにして仲間である魔族や亜人の奴隷を次々と解放していった。

 幸いなことに人間達は弱く脆く簡単に制圧することが出来た。


 すぐさまアイリスを探したが見つからなかった。助けた仲間達にアイリスという女性を知らないか尋ねたが誰も知らなかった。

 次の奴隷集積所に向かおうとした時だった俺にレジスタンスと名乗る組織が話しかけてきた。


 互いに情報を交換し合った。

 どうやら一般の奴隷運搬馬車だと奴隷集積所に辿り着くまで1週間以上はかかるらしく、アイリスはまだ奴隷場所で運搬されている途中の可能性が高いらしい。

 魔法で確認し嘘はついていない様なので奴隷運搬馬車を探し始めた。

 幸いルートが記された地図があったのでそれを頼りに探し始める。

 レジスタンスの協力もあり1日で件の馬車を発見することが出来た。


 仲間達が否いる可能性の非常に高いアイリスが人質に取られないように注意を払いながら襲撃を行い、全員を助け出した。

 助け出したが、アイリスはいなかった。村の皆も誰一人としていなかった。

 しょうがない、また次を探そうと自分を奮い立たせた時だった。


 呼び止められて声をかけられた。


「英雄様、そのう、実はアイリスお姉ちゃんは僕を庇って殺さたんだ。ごめんなさい」

 小さい男の子が僕にそう涙ぐみながら伝えてきた。


 解放した他のナニカが当時の状況を教えてくれる。

 否、教えてくる。


 アイリスは恐怖で泣いてしまって折檻されていた件の男の子を庇って殺されてしまった。

 と。

 しかもただ殺されるだけじゃなくて凌辱され尊厳を破壊されて最後は人間の快楽の為に首を絞められて殺された。

 と。

 死んだ後、ゴミの様に森に投げ捨てられた。

 と。


 知りたくもない真実を教えてくる。

 まるで懺悔するかのように・・・。

 いや違う。ただコイツ等は楽になりたいだけだ。

 小さい男の子を庇って凌辱されてしまったアイリスを今目の前にいるナニカは誰も助けなかった。

 助けず傍観した。

 凌辱されて殺されて投げ捨てられるのを傍観した。何もしなかった。

 その悪感情を僕に話して懺悔して一方的に楽になって気持ちよくなりたいだけだ。

 嗚呼、そうか理解したよ。


 コイツラハスクウカチガナイ


「禁忌魔法・魂喰」


 僕は、いや俺は今この場にいる男の子以外の魂を喰らった。

 禁忌魔法・魂喰・・・指定した相手の魂を喰らい自分の糧とする魔法。ただし喰らう存在は自分の同族でなければならず、この魔法を発動したら最後、輪廻の輪から外れてしまう代償がある。

 魔法の中でも最上位の禁忌魔法であり使用がバレたら拷問の末処刑される。

 ただ、俺は使った。


 禁忌なんて知ったことか。

 アイリスを失ったんだ。

 もう、俺には何も残っていない。


 何も・・・何も・・・何も・・・


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違うだろ~~~~~~~~~~~~。俺はグレルニカス王国を滅ぼさなければならない。

 アイリスの為に、これ以上アイリスの様な犠牲を出さない為に・・・そうだろ。嗚呼、そうしよう。そうするしか僕には道がないんだ。そうだろアイリス」


 





 それから、俺はレジスタンスを統治し、次々と魔族を亜人を解放していった。

 例の一件から魔族を仲間と見れなくなったが関係なかった。使える駒でさえあればいい。

 裏切った魔族は見せしめの意味も込めて禁忌魔法・魂喰で喰らって殺した。

 英雄様ともてはやされていた俺だったが、畏怖と畏敬の念を込めて魔族の王、魔王と呼ばれるようになっていた。

 どうにもむずがゆい名前ではあったが、復讐の為に飲み込み利用した。

 多くの配下と共に人間を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くした。

 人間を殺せば殺す程に俺に、いや我に賛同する魔族と亜人達は増えレジスタンス改め魔王軍の戦力は拡大していった。

 充分すぎる程の戦力が集まり、グレルニカス王国を潰すべく侵攻を開始した。


 勝負は我らの圧勝という形であっけなくついた。

 

 グレルニカス王国は労働力のほとんどを魔族や亜人の奴隷で賄っていた。

 その労働力が消えた状況で国力を維持出来る訳がなかった。

 他の人間の国に攻め込まれないようにする為に張りぼての様に表向きは戦力を取り繕っていたが、取り繕っていただけ、蓋を開けてみればボロボロの中身スカスカであった。


 グレルニカス王国の王族や貴族は全員部下達の憂さ晴らしの意味も込めて拷問の末の公開処刑を行い、住んでいた民も奴隷にするか虐殺した。

 極論を言えば立場が入れ替わっただけ、魔族も亜人も自分達を奴隷にして虐げてきた人間を逆に奴隷にして虐げてるだけ。

 薄皮を一枚剥いでしまえば人間も魔族も亜人も何も変わらない、どちらも醜い化け物だった。




 ただ正直我は全てどうでも良かった。

 復讐が終わった今、我には何も残っていないのだから。

 ただただ虚しく寂しく心にぽっかりと空いた大きな穴を見つめているだけの生ける屍だ。

 人間を虐げる気も起きず、魔王でありながら、全ての作業を別に配下に丸投げして部屋に籠る日々。

 

 やることがないから、グレルニカス王国の書庫の本を読み漁りながら、もう二度と訪れることのないアイリスとの美しい未来を夢想する。

 

 ああ、過去に戻りたい。







 とある日の夜。

 その日も気を紛らわす為に読む本を書庫で探していた。

 とある一冊の本が目についた。


 タイトルは【時魔法と空間魔法を複合させて過去へ戻る事は可能かどうかの検証~ 世界の時を戻すのに必要な総魔力量及びバタフライエフェクトに着目して~】だった。

 本というよりも研究論文に近い内容であったそれを何となくで読んでみた。


 もちろん過去へ戻るのは不可能であるというのは充分に理解している。理解し過ぎている。

 少なくとも世界の時間を1秒戻すだけでも今の我の数千倍の魔力が必要であり、戻す時間が増えれば増える程に必要魔力は指数関数的に増えていく。

 アイリスが生きていた頃に時間を巻き戻そうとした、一体どれだけの魔力が必要になるかだなんて検討すらつかなかった。

 それこそ我が神にでもならない限りは不可能であろう。


 期待せずに暇つぶしの意味も込めて読み出した件の本。

 最初は我の結論と同じように魔力を使用での世界の時戻しが不可能であるかについて語られていた。

 それはそうだろうと思いながら読み進めていくと、毛色が変わった。


 内容は過去へ戻るという定理について書かれるようになり、世界の時を戻す以外の過去へ戻る方法があるのではないかという内容が書かれた。

 そこから数多の仮説が書かれ検証され考察されてく中で一つの可能性が書かれていた。


 それは【自分の記憶のみを過去に送り疑似的な時戻しを行う】という可能性であった。


 盲点であった。

 脳天に電流が走った。


 なるほど、そんな考え方があったか。

 と。


 我は夢中になってこの本を読んだ。

 読んで読み終わった後、頭の中で反芻する。

 考えて、想像して、理解を深める。

 もう一度本を読み直し、発動する際に必要な条件と必要な魔力を書き出してみる。

 色々と粗が見つかった上にアイリスが生きていた時代まで記憶のみを戻らせるとなると必要魔力は今の自分の魔力が数億倍あっても全然足りない量であった。

 これじゃあ駄目だと、もう一度練り直す。

 考える。考えて試してみて、他にも何かアイデアがないか本を探した。


 久しぶりに目的というのを見つけた。


 そして半年間、食事も部下に持って来させ、睡眠に疲労も魔法で無理やり回復させ、不眠不休で研究した結果、遂にかなり難易度は高いが意識及び記憶のみの時戻しが出来る魔法理論が完成した。


 魔法理論・神話級禁忌魔法・記憶戻し

 

 内容を全て説明するとかなり複雑になるが要点をまとめるとこうだ。

 気が遠くなるほどの時間準備を重ねて億を超える魔方陣と魔法術式を用意した上で最低ラインとして世界のほぼ全ての生命体に世界最強の今現時点の我よりも強い神の因子を持った存在を核として生贄呪法を行い膨大な魔力を発生、利用して今保持している記憶を過去へと送る方法だ。


 我ながら狂っている理論だ。

 こんなのもの実現出来るはずがないと誰もが失笑するだろう。

 それでも、それでも、もしこれが成功すれば僕はあの誤ちを変えられる。

 未来を過去を変えることが出来る。

 僕はまたアイリスに会える。

 あの幸せな日々に戻れる。

 幾度となく夢見たアイリスと結婚して子宝にも恵まれ優しいあの村で仲睦まじく暮らすことが出来る。

 だから僕は何を犠牲にしてでもこの魔法を成功させなければならないんだ。








 一体のどれだけの時が過ぎだのだろうか。

 失敗し勇者に殺されかけたこともあった。

 理論に綻びがあり全てが破綻したこともあった。

 肉体そのものが限界を迎えて転生や憑依で生を繋いだ。

 アイリスと再び幸せに暮らすことだけを夢見て永劫に近い実験を繰り返し、幾つもの魔王軍を生み出し自分の手で生贄に捧げて失敗し、転生を繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返していった。

 その上でただの一度も成功しなかった。


 そして自分の存在さえも分からず愛した女性の名前すら出てこなくなった。

 長すぎる時間は我から記憶を奪った。

 今の我はただ、過去へと戻りたいという欲求のみで動く哀れな肉人形だ。

 それでもここまで来てしまったのなら、過去へと戻る以外残された道はなかった。


 そしてそれは現れた。

 勇者。

 それもただの勇者ではない最高で最強の勇者。

 今まで見て来た勇者の中でも最も優れた素質を持った者。

 濃い神の因子を持った者。

 ああ。彼を育てて我以上の強くして生贄に捧げれば今度こそ今度こそ我は過去に・・・。過去に・・・。


 ああ、■◆◆■




 

 

 



 

 

 


 


「魔王。これがお前の残した日記。そしてこれが過去へと記憶を転送する装置。これがあれば村の皆も父さんもアイツもセリアも師匠も先生も将軍も王様も国の人々もクラスメイト達に聖女様、騎士王に冒険者の皆も皆、皆救える。

 いや救って見せる。

 魔王・・・お前の気持ちは苦しい程分かるよ。分かってしまうよ・・・。でも俺はお前を許さない許すつもりもない。待ってろ魔王。この俺が未来を変えてやる」



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