移動する棺桶

@tanekakota

第二話・最終話

 2030年5月25日に高速道路で衝突事故が起きた


 ここは山形の山奥の高速道路の上、まだ雪の残る季節だ。そんな中に2人の刑事が事故現場へ車に乗って到着した。


 「衝突した車に乗っていたのは、柏原賢、66歳、男性。青森県で自営業です。衝突された車に乗っていたのは林道詩織、27歳女性、こちらは同じ青森県で化粧品会社の会社員ですね、まぁ俗に言うOLってやつです。2人とも衝突時の火災で亡くなっています。警部補こんなん僕らが出るまでもないですよ。」


 そう話すのは、刑事課に入ってきて2年目の新人の目黒大輔。少し事件にも慣れてきて調子に乗っているやつだ。


 「そうだな、俺らが出るまでもないかもな。でも、俺らが呼ばれた訳があるってことなんだろ、鑑識の結果が出るまで待ってみるか。」


 警部補と言われるこの男は田中邦司、もうベテランと言われる年代に入っており、いくつもの難事件を解決に導いている実力者だ。


 「えぇー、僕は早く帰ってアニメの続きを見たいんですよ。」

 「お前なーその年になってまでまだアニメなんて見てるのか、まだまだお子ちゃまだな。はっはっはっは。」

 「いいんですー、僕はいつでもお子ちゃまでいたいんですー。」


2人で話しているとちょうど鑑識からの結果が届いた。それを聞いて2人はびっくりすることになる。


 「柏原賢は、交通事故前に胸をナイフで刺され亡くなっています。その後何らかの方法で車を動かし交通事故まで運転していたと考えられます。

 被害者の死亡推定時刻は5月24日の21時から23時までの間と考えられます。」

 「ありがとう。下がっていいぞ。おい、目黒、今日は帰れないかもしれないぞ。」


 田中がそう言うと、目黒は脱力し、今にもその場で崩れ落ちそうな様子で言った。


 「えー。そんなー。早く帰れると思ってたのにー。上げてから落とされるのが一番辛いんですよ、知ってました?」

 「うるせー、そんなん言ってないで捜査するぞ。」


 そう言って2人は、一度外していた手袋をそれぞれはめ直した。そして一から現場を見ることにした。


 「ガイシャは車の中で後ろから心臓を一突きにされていますね。」

 「被害者をそんな呼び方をするんじゃない。ちゃんとした言葉を使え、今後困るのはお前だぞ。そうか、訳も分からず亡くなったんだろうな。災難だったな。

 でも、よくこんな山形県の奥地まで運転できたな。」


 そう、ここは山形県警の管轄の範囲で事故が起きたのだ。青森県から約4時間の場所で起きた事故、いや事件。この事件は大きな話題となり、記者やマスコミを呼んだ。


 「警部補、どうやってこんな奥地まで車を運転できたのでしょうか。犯人が直前まで乗っていて、ぶつかる寸前に飛び降りたとか?」

 「そんなことできる訳ないだろう。時速120キロぐらいで走ってる車から飛び降りたら擦り傷じゃ済まされんからな。車のこともそうだが、どうしてこんなことをやったかも考えないといけないな。考えるべきは三つ。一つ目は、お前が言うように運転の方法、二つ目はなぜそんなことをしたか、三つ目は誰がそんなことできるのか。」

 「そうですね、一度まとめて青森県警とも連携を仰ぎますか?」

 「じゃなきゃいかんだろうな。」


 2人は一度署に帰り、青森県警に連絡をとり、連携を申請した。


 「毎回思うんですけど、連携を頼むときにこの書類書く必要あります?手間でしかないじゃないですか。これ書いてる暇があったら、捜査した方が絶対にいいと思うんですよね。」

 「毎回ごちゃごちゃ言うんじゃない。さっさと書け。まぁでも確かにそうかもな、この事件が終わったら上に掛け合ってみるよ。」


 申請手続きが終わり、青森県へ行き2人の身辺調査を行っていると、柏原賢はネジ工場の社長であった。が、横柄な社長っぽさはなく、人当たりの良い近所の優しいおじさんと言った印象だ。社員からの支持も高く、周りから恨みを買うような人ではなかった。家族はおらず、天涯孤独の身だ。一応、社員や近所の人のアリバイを調べてみたが、犯行時刻は寝ている人や家にいる人がほとんどであり、アリバイがない人が多かった。しかし、動機などから考えると、犯罪の可能性は低いと考えられた。


「柏原さんは夜遅くに仕事が終わり、その帰宅途中に事件に巻き込まれたんだと考えます。20時45分まで会社のパソコンを使っていた履歴が残ってます。犯行予想場所も自宅の近くの駅です。」

「そうみたいだな、そうなると外部犯の可能性が高いな、これは骨が折れるな…」


 それから数日、容疑者の目処が立たないまま、時間が経っていた。


 「全然捜査が進まないですね。どうしましょうか?」

 「そうだな。また一から見直してみるか。」

 「2030年5月25日に高速道路で衝突事故が起き、柏原賢と林道詩織が亡くなった。しかし、その事故を起こした張本人と思われた柏原賢が実はすでに亡くなっており、事故現場まで何らかの方法で運転し事故になった。てところまでですね。柏原賢の周りには、犯行動機を持つ人はおらず、容疑者の可能性も低い、家族もおらず家庭関係のもつれによる事件の可能性もない。残るは外部犯ってところですよね。」

 「そうだ…」


プルルルル!!!


 と田中の携帯がなる。


 「はい、田中です。はい、はい。そうか、わかった。すぐ行く。ありがとう。」


 「おい、目黒、車回せ、青森まで行くぞ!!」

 「え、あ、はい!何かあったんですか?」

 「内容は車の中で話す!」

 

目黒は人生でも数少ないぐらいの勢いと力強い走りで車を取りに行き、田中の待つ玄関まで、署の土地の中でもアウトなぐらいの速度とドリフトを行い、車を止めた。


 「お前な、そんなんやってたらいつか人はねるぞ。でも、今回はナイスだ。」

 「まぁ今回はいいじゃないですか。それでどうしたんですか? 急に車回せなんて珍しい。」

 と、少しニヤニヤし嬉しそうに運転しながら、田中に話を聞く目黒であった。


 「気持ち悪いなー、そんなニヤニヤするんじゃない。以前、青森県警に事故の被害者の林道詩織について、調べてもらうように頼んでおいたんだ。」

 「なんか陰で電話してたりコソコソしてるなーと思ったら、そんなことしていたんですね。」

 「うるせー。内密にしておきたかったんだよ。」

 「それでなんと?」

 「そう、それなんだがな、林道には元婚約者が居たらしいんだ。なんかそいつが怪しいとの事でな、自宅捜査になった。それで電話がかかって来たってことだ。」

 「なるほど、そいつが怪しい訳ですね」

 「だから、そう言っとろうが!」


 約4時間かけて、青森の容疑者の家に2人は到着する。


 「ところで、そいつの名前はなんて言うんですか?」

 「力堂力也、37歳だ。」

 「なんか偏見で言っちゃだめなんでしょうけど、バカで筋肉質のやつみたいな名前ですね。」

 「なんかリアルな言い方だな。なんか知ってるのか?」

 「いや、知らないですよ、何となくそんな感じがしたんです。」

 

そう言う会話をしながら、車をおり、捜査の手袋を2人ははめる。

 「37歳で持ち家なんですね、結構広そうな庭もあるし、社長とかやってるんですかね?」

 「いや、普通の営業マンみたいだ、自宅は親から譲り受けた家らしい。独り身みたいだぞ。」


 手に持った手帳を見ながら話す田中。

 そんな情報いつ手に入れたんだよ、この人の情報網はすごいと思う、目黒であった。


 「ほんといつの間にそんな情報得てくるんですか?」

 「それか、それは、ひ、み、つ、だな。」

 「いい歳したおっさんがそんな事やっても、可愛くないっすよ。てか、それもどこで知ったんですか。」

 「え、今の流行りじゃないのか。」

 「いつ時代の話ですかそれ。」

 「いや、まぁ昔のツレが青森県警に勤めてるのよ。」

 

 そう言って家の中に入ると、すでに数人の刑事や鑑識が家の調査をしていた。玄関から廊下の突き当たりのリビングらしき部屋では、事情聴取が行われていた。


 「5月25日の21時から23時ぐらいは何していた?」


 とベテラン刑事風な警察官が力堂に話を聞いているところであった。


 「その時は確かー、友達と駅前で飲みに歩いてたと思いますよ。でも、それ1ヶ月も前の話ですよね?あんまり覚えてないですよ。」


 「そうなのか?」

 そう言って近くにいた青森県警の刑事に問うと。


 「はい、友達も同じ証言をしています。」

 

 「そうか、んー。」 


 と、ベテラン刑事風の男が詰まっていると、横から田中が割り込んできた。


 「なんや田中のとっつぁん早く着いたじゃねーか。」

 「若いのが飛ばしてきたもんでね。」

 と、目黒の方に視線を向けながら、言うと、目黒が軽く会釈する。


 「おー、すまんね、俺にも話を聞かせてくれやちょっと遠くから来たもんで、同じことを聞くことになるかもしれんが、許してくれや。林道さんとはどうして、婚約がなくなったんだ。」

 「それですね、それは他の刑事さんにも話しましたが、普通に一緒に暮らしていたらうまくいかなくなったからですよ。相性が合わなかったってやつですね。喧嘩とかじゃないですよ。」

 「そうか、ありがとう。それと兄ちゃん、いい車乗ってるみたいだけど、車は好きなのか?」

 「え、あ、はい。」

 「車は詳しいんかいな?」

 「まぁ、それなりにはですかね。」

 「ほか、ありがとう、じいさんからは以上だわ、ありがとな。」


 そう話すと部屋を出ていく田中だった。それを追いかける目黒。


 「警部補、急にどうしたんですか。」

 「多分、犯人はあいつで間違いない。でも、証拠とアリバイ、動機が分からねー。」

 「どうしてわかったんですか。」

 「それはまだ言えねー。」

「そうですか、しかし、予想してた筋肉馬鹿ではなくて、ちょっとインテリっぽかったですね。」

 「筋肉馬鹿って言うなアホ。聞こえたらどうする。でも、確かに頭のキレそうなやつではあったな。」


 そう言って、2人は庭に出ると、草が刈られた整えられた庭に一部焼けた跡があった。


 「ちょっとその友達と言ってた奴らにも話を聞くか。」

 「はい。」


 その友人に話を聞いていると確かに飲みには出かけていたと、トイレで5分ぐらい出ることがあったが、10分以上は離れていたことはなく、変わったことも特にはなかったと言う。しかし、その中の1人の言葉が田中には引っ掛かった。


 「いつもは自前のナイフで果物とか切ってくれるんですけど、なんかその日は忘れたとかで持ってなかったんですよね。それと何故か暑いとかで上着をバッグに入れてたんですよね。」


 「容疑者はナイフを日常的に持ち歩いていたと。なるほど、でも、容疑者と被害者の繋がりがない。どう繋げるかだな。」


 とぶつぶつと独り言を発していると、横から目黒が覗き込んできた。


 「なんか、他の刑事さんに話を聞いていると、林道さんは駅で友達と別れた後、車で新潟までアイドル?を追いかけるとかでそのまま向かったみたいですよ。」


 「そうか、ありがとう。」


 青森県警察署の特別本部が置かれた会議室で2人はホワイトボードを眺めていると鑑識が入ってきた。


 「失礼します。山形県警の田中警部補は、こちらにいらっしゃいますでしょうか。」

 「あー、俺だ。」

 「はっ、失礼いたしました。」

 「それでどうした。」

 「以前頼まれていた件ですが、庭の燃えていた箇所から血のついた上着がカスになった状態で見つかりました。その血痕からは、柏原賢のDNAが出ています。」

 「そうか、わかった。ありがとう。」

 「はい、失礼します。」


 きょとんとしている目黒が田中に話しかける。


 「ん?え、は? ちょちょちょ、一体どう言うことですか!? 僕何にも分からないんですけど、教えてください。てか、またいつのまに鑑識に頼んでるんですか?あなた何もんですか?妖怪ですか?」


 と矢継ぎ早に目黒が田中に詰め寄る。


 「まぁまぁ落ち着けって。俺は人間だから、普通の人間だから、落ち着けって。」

 「落ち着いてもいられませんよ、どう言うことですか。ちゃんと教えてください、一から!!!」

 「説明はしたる、でも、力堂の家でしようか。」


 そうは、言っていたが、後輩の目黒が力堂の空いている時間を聞き、青森の刑事や警察の予定を組んだのだ。内心自分でやれよって愚痴を吐きながら。そうして集まった力堂の家に、田中と目黒2人、容疑者の力堂、青森県警の数名、以前田中と仲良さそうに話していた刑事もいた。


 「ここに集まって貰ったのは、他でもない今回の事件のことについて話し合っていこうと思ってだ。」


 そう切り出したのは、田中であった。周りは、不安や緊張など混ざった空気が漂っている。


 「まず流れを話していこうか。

高速道路で5月25日に事故があった、これが俺らの管轄の山形県だな。そうしたら、その運転手が死んでるときた。それはどうも前日の夜中だって言うじゃねーか。びっくりたまげたよ。殺された被害者の周りは動機もなければ、アリバイもあるときた、さぁてどうしたもんかなと悩んでると。」

 「警部補なにを話しているんですか。」

 「まぁ、いいの。聞いとけって。

 続きだな、まぁ悩んでると、青森県警から事故で亡くなった人の元婚約者が怪しいと電話が入ってきた。ん?これは話しちゃまずかったか、まぁいいや。」


 青森県警の刑事は呆れたようにため息を吐く。


 「でも、元婚約者はアリバイもあって被害者とは何も繋がりがないときた。しかし、よくよく調べてみると、事件当日駅前で飲み歩いてたと言う。その時間、事故の被害者である林道さんも駅にいた。それを偶然見た容疑者は、あることを思いつく、手に持っているナイフで元婚約者の相手を殺そうと思った。でも、その時には車を出しており、追いつけないと思った。すると偶然通りかかった、柏原さんの車を見た時に車に詳しい容疑者はあることに気がついたのだろう。そこで柏原さんの車を何らかの方法で止め、後部座席から心臓を刺し、車の追跡機能を使って、林道さんの車を追うように設定した。」


 「でも、それでは、ぶつかる前に安全停止をするはずじゃあ。」


 「それは、車間距離の設定をいじれば何とかなるんだろう。詳しくは俺も分からん。でも、それを行い何らかの方法で車をぶつけた。違うかな、力堂くん?」


 「はい、あっています。でも、殺す気はなかったんです。死んだ人を乗せた車でぶつかって、よく見たら死んでる人が乗っているって嫌がらせをしたかったんです。周りは、僕らのことを仲良いと言ってますが、毎日のように喧嘩して仲がいいってもんではなかったんです。俺の好きな車もばかにするし、しまいには、ぶつけてもごめん、で終わらせる。そんなやつを俺は許せなかったんです。」

 「でも、お前はそんな嫌がらせのために、関係ない人を殺し、元婚約者まで殺した。そこに嫌がらせもないもない。お前はただの犯罪者だ。」

 

 

 あとがき

 「力堂ってインテリ系だと思ってましたけど、本当に頭いいみたいですね、元々京大に行って、地元で働きたいってことで地元に戻ったみたいですよ。でも、こんなことで怒って、こんなこともしてしまうんですね。」

 「頭いい奴ってのはどこかおかしいもんだ。京大って頭がいいことで有名だが、頭がイってるってのでも有名なんだぞ、知らないのか?」

 「警部補って本当どこからそんな情報仕入れてるんですか。」


『ひ・み・つ』

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