Vtuberの姿で転生した私は、異世界でダンジョン配信者として人気になりました
横浜あおば
【クオヴォトクダンジョン】お前ら、今日は安価で武器決めるから絶対にふざけるなよ?【初霜ましろ】
「どうも〜。皆さんこんにちは、
ダンジョンの入口で配信を始めると、待機していたリスナーから早速コメントが書き込まれる。
『こんにちは〜』
『ましろにクオヴォトクはまだ早い』
『1層のスライムにやられそうではある』
「おいお前ら、いきなり好き勝手言うんじゃないよ。私そんなに雑魚じゃないからね?」
ましろのリスナーは、いつもこうやって私のことをイジってくる。
それらを適当にあしらいつつ、トークを続ける。
「で、今日はね。普通にダンジョンに潜っても面白くないので、リスナーから指定された武器だけでやっていこうかなと思います。それでは今からコメント欄に矢印を投げるので、皆さんは各々好きな武器を書き込んでください。あっ、お前ら、絶対にふざけるなよ? 分かってるな?」
『だいじょーぶだいじょーぶ』
『ふざけるわけないじゃないですかー』
『ちゃんと分かってますって。フリでしょ?』
う〜ん、これはダメかもしれない。
「じゃあ行きますよ? 3、2、1、投下!」
ましろのカウントダウンに合わせて、リスナー達も一斉にコメントを書き込む。
結果、コメント欄がとんでもない勢いで流れていく。
『さすまた』
『↓↓↓↓↓↓↓↓』
『バールのようなもの』
『カッターナイフ』
『トンカチ』
あまりにスピードが速すぎて、ましろには何に決まったのか見えなかった。
「えっ、何になった?」
リスナーに問いかけると、すぐに複数人から答えが返ってくる。
『バールのようなもの』
『バールのようなものだって』
『バールのようなものww』
「はぁ!? 待って? バールのようなもの? もう、ふざけないでって言ったじゃん! 何だよバールのようなものって。バールでもねぇのかよ」
やっぱり私のリスナーは信用ならんな。
どうすんだよこれ。
しかし、安価は絶対だ。
決まってしまったものは仕方がない。
「え〜っと、バールのようなものがメイン武器ね……。よし、次はサブ武器を決めるぞ。まあ、こっちがちゃんとしてれば最悪何とかなりますからね。皆さん、お願いしますよ!」
メイン武器が終わっているので、今日の配信の命運はここに全て懸かっている。
リスナー達が武器を書き込むのを待って、カウントダウン開始。
「3、2、1、投下! ……何になった?」
頼む、普通の武器来い!
『イージス艦』
『↓↓↓↓↓↓↓↓』
『光線剣』
『ハリセン』
『ダイナマイト』
「えっ、何? 光線剣? それはつまり、あの宇宙戦争の映画に出てくるヤツみたいなのってこと? あれ、これ意外と良くね?」
光線剣は思ったよりまともな武器かもしれない。
というか、イージス艦とかハリセンに比べたら1億倍良いな。
これならギリギリどうにかなるか?
「ってことで。バールのようなものと光線剣を持って、いざダンジョンに出発!」
私は前世、それなりに人気のあるVtuberだった。
だがある日、ゲーム実況の配信中に脳梗塞で死んでしまい、次に目が覚めた時にはVtuberの姿で異世界に転生していた。
神様からチートスキルも貰えず、王様から勇者と持て囃されもせず、この世界でも無能なただの一般人でしかなかった私は、日銭を稼ぐためには配信者になる以外の選択肢は無かった。
初配信以降、前世から変わらないトーク力と配信センスを武器に、この世界でも着々とファンを増やしていった。
そして現在は登録者数30万人超え。こちらの世界でもそれなりの人気配信者になった。
というわけで、ましろは今もこうしてダンジョン攻略の配信をしているのである。
クオヴォトクダンジョン1層。
「おっ、いましたよスライム。流石にこいつには勝てますよ、ええ」
ましろは余裕の表情で言いながら、両手でバールのようなものを持って構える。
『頑張れ〜』
『雑魚vs雑魚』
『これで負けたら笑う(笑えない)』
リスナーの馬鹿にしたようなコメントを横目に眺めつつ、スライムと正面から対峙する。
「やぁっ!」
慎重に狙いを定めて、バールのようなものを力いっぱい思い切り振り下ろす。
攻撃は見事命中。
しかし、手応えが無い。
「あれ?」
『倒せてなくね?』
『当たったのにね』
この謎現象にはリスナーも困惑している様子。
おかしいな?
首を傾げつつ、ましろは一旦バールのようなものを持ち上げてみる。
すると、なんとびっくり、先端が溶けて無くなっているではないか。
「ねぇちょっと! スライムに武器溶かされたんですけど!!」
これは想定外の事態だ。
最初の敵を倒す前にメイン武器が使い物にならなくなってしまった。
『草』
『バールのようなもの終了のお知らせ』
『そもそもバールはダンジョン的には武器判定じゃないんよw』
『配信センス◎』
まさかの珍事件にコメント欄は大盛り上がり。
華麗なプレイで沸かせるはずが、爆笑をかっさらってしまった。
こんなはずじゃなかったのに〜!
「はぁ、しゃあねぇなぁ。こうなったら光線剣で一刀両断にしてやりますよ。なんかスライムごときに使うのもったいない気もするけど」
やれやれ、手間をかけさせやがって。
ましろは腰につけていたサブ武器の光線剣を手に取り、ぐるぐると回す。
「ん? これさぁ、スイッチどれ?」
この手の光線剣は
一体、どのスイッチを押せば光線が出てくるんだ?
試しに色々押してみるも、どれも反応なし。
「ねぇ有識者いる? マジでこれどこ押したらいいの?」
困った時はリスナーに訊くのが一番。
数千人が見ているのだ。誰かしら知っているだろう。
『上上下下左右左右BA』
『Ctrl+Z』
『そのボタン連打してたら多分行けるで』
あ〜あ、訊いた私が馬鹿だったわ。
「おいおい、ワザップしかおらんやんけ。本当に困ってるんだからさぁ、ここで嘘つくのやめてくれる? このままじゃ私、スライムに負けて配信終わるよ? いいの?」
真面目に答えてくれないリスナーに苦言を呈していると、ようやくそれっぽいコメントが流れてきた。
『底面のスイッチを3秒押しっぱなし』
「おっ、これ有力情報じゃね? 底面のスイッチってこれか……」
ひとまずコメントの通りに押してみる。
刹那、ブーンと音を立てながら光線が出現した。
「おお、行けた! さっきの人マジで感謝だわ」
このまま正解が分からなかったら、危うく光線剣の柄(ただの短い棒)で戦う羽目になるところだった。
「よ〜し、これは勝ったっしょ。とりゃあっ!」
ましろは改めて、今度は光線剣でスライムに攻撃。
私としては斬って真っ二つにするイメージだったのだが、結果としてスライムは光線の熱で蒸発して呆気なく消滅した。
討伐完了の証拠として、モンスターのコアである魔晶石が地面に転がる。
「っしゃあ!」
雄叫びと共にガッツポーズを決めると、リスナー達からお祝いと煽りとイジりのコメントが寄せられる。
『勝利おめ!』
『1層のスライムに負けなくて良かったね』
『1匹倒すのにどんだけ時間かかってるんだよw』
全く、せっかく私が良い気分になっていたのに。
このリスナーは素直に人を褒めるということが出来ないのだろうか。
「君たちが何を言おうが勝ちは勝ちですからね、ふん。……ってか、もうこんなに時間経ってんの!?」
今のコメントで気が付いたが、配信を始めてからすでに1時間近く経過しているではないか。
「1時間やったんなら、これで配信終わるか。疲れたし」
前世のVtuber時代から、基本的に私の配信は1時間前後で終わるようにしている。
表向きの理由は忙しい人でもアーカイブで見やすいように。
裏の本音はあんまり長く配信するのはシンプルにダルいから。
『スライム1体倒しただけで終わるダンジョン配信者w』
『10層のボス攻略までやれ』
『せめてこの層はクリアしろよ』
「いやまあね、1層クリアまでは行きたいところだったけどさぁ。最初のスライムに1時間かかっちゃったし。メイン武器も壊れちゃったし。また今度来ようよ。ね?」
『確かにメイン武器が壊れた時点で詰みか』
『サブの光線剣のインパクト強すぎて、メインがバールのようなものだったの忘れてたわ』
『安価でふざけた俺らも悪い』
「そうだぞ。最初にお前らが変な武器ばっかり書くからいけないんだぞ」
全ての責任はリスナーにある。私は何も悪くない。よし。
無事に責任転嫁も済んだところで、配信を締める。
「はい。ということで、今日の配信はいかがでしたでしょうか? またどこかでね、安価武器決めダンジョン配信もやったりやらなかったりすると思いますので、楽しみにして頂ければと思います〜。それでは、ご視聴ありがとうございました。またね〜」
配信終了の蓋絵にする直前、リスナーから質問が投げかけられる。
『次の配信は?』
「次はね、えっと、来週の土曜あたりにしたい気持ちはある」
『それ絶対しないやんw』
【クオヴォトクダンジョン】お前ら、今日は安価で武器決めるから絶対にふざけるなよ?【初霜ましろ】
29,344回視聴 322/11/29にライブ配信
最大同時接続数:4,893人
スーパーチャット合計:13,055円
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Vtuberの姿で転生した私は、異世界でダンジョン配信者として人気になりました 横浜あおば @YokohamaAoba_
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