第3話 真素の使い方、お金、獣の売却

残り3匹も投石で難なく仕留めることができた、、、って手が血まみれだ。皮は完全に敗れて中まで見えそうなくらい深くえぐれている。うええ。


『男子なんだからこのくらいで情けない声を出すんじゃありません。 (´Д`)』


なんだよこの顔文字は、じゃなくて日本で平凡な生活を送ってきた俺に取っては見たことのないくらいの重傷なんだよ。くそ、消毒薬とか絆創膏とかこの世界じゃ手に入らなそうだし、どうすんだよ。痛ぇ。。。


『もう、何のために加護があると思っているんですか。』


ん?そうか、ここは真素があふれる異世界だった。


「何かいい治療法でもあるのか?」


『あるなんてもんじゃないわよ。ほれほれ、「治れ」って強く念じて。』


そんなことでいいのか? わかったよ。


「治れ」


目をつぶって強く念じる。手の怪我があるあたりから暖かい何かを感じる。何が起こっているんだろ。目を開けて確認しようとすると、


『おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい』


おっと。目を閉じて集中するあまり、転生神のメッセージに気づいていなかった。


『神様を無視するとは不敬がすぎますよ!』


「ごめんごめん。集中しててさ。」


『わかればよろしい。もう少し具体的に治るイメージをしてみて。』


具体的ってのはどういうことだ。細胞に栄養が回って、ちぎれた組織がつながって、ってこんな感じか?


『そう!真素は人間の意思に反応して色んな事を手伝ってくれるんだけど、その内容が具体的なら具体的なほど効果が大きくなるの。』


確かに、若干気持ち悪いが、見る見るうちに傷がふさがっていく。30秒もしないうちにほぼ完治だ。これこれ、異世界転生と言えばこれ!


『むふー。(#^^#) 異世界転生いいでしょう。でも、こんなにスムーズに治るのは私の加護のお陰だからね。そこは感謝してちょーだい。』


「感謝します感謝しますって。」


俺、本当に異世界に来たんだな。魔法がある世界、子供の頃からの憧れだったもんな。と、一息ついたところで。


「さっきの投石についても色々聞きたいんだが、あれも魔法なのか?」


『うん。魔法って呼べるほど複雑なことはしてないけどね。あのとき念じた内容を覚えてる?』


「当たれ、刺され、弾けろ、だろ?」


『そう。まず「当たれ」で加速&命中補正を乗っけて、「刺され」で石をとがらせて、「弾けろ」で石の先端を砕いたのよ。全部単純でしょ?』


以前何かの動画で見たぞ。狩猟用の銃弾は着弾した後に先が開いて、接触面積が増える事で標的へのダメージを大きくするんだよな。


『その通り。いくら加護があるとはいえ、石がそのまま当たっただけで倒せるくらいの速度まで上げるのは無理だから、「刺され」と「弾けろ」で殺傷能力を上げたの。』


「なるほど。的確なアドバイス有難うな。」


『えへー (*'▽') どういたしまして。』


と先ほどの戦闘を転生神と振り返っていると向こうの方から男性が呼ぶ声がする。


「旅の方ー、大丈夫ですかー?」


こちらに向かって手を振っている。


『第一村人発見ってやつね。一旦私は下がるわ。また必要そうなタイミングで出てくるからまずは会話を楽しんで。』


会話中に中空を眺めていたら不審者丸出しだもんな。転生神気が利いてる。


「馬車の中で籠城するつもりだったのですが、大きな音が何回か鳴って、獣の鳴き声が聞こえなくったので外を覗いてみたんですよ。そうしたら全て退治されていてびっくりしました。これは貴方がやってくれたんですか?」


「そんなところです。」


「ああ、本当に助かりました。1匹程度ならなんとかなるんですが、ああやって囲まれてしまうとかなりの被害が出るところでした。ひょっとしてあの音は真素弾で?」


「助けになったのならよかったです、、(真素弾ってなんだ?)」


すると、目線の先に小さめのウインドウが開く。


『この世界の携帯武器よ。真素を固めてあって、衝撃を与えると爆発させることができるの。』


おお、転生神ナイスアシスト!


「んん、まぁそんなところだ。」


「貴重なものを使って助けて頂いた有難うございます。ご挨拶が遅れました。私はコメルシと言います。貴方は?」


「俺の名前はヒロシ。」


「ところで、貴方はどこかへ向かう途中ですか?宜しければこの後ご一緒しませんか?」


「俺も町に向かっていたところだ。この辺りは(というか世界全体)全く土地勘がないから道すがら色々と教えてもらえると助かる。」


「よかった。獣が増えてきているみたいですし、貴方のような方と一緒に町に向かえればこちらも安心です。ちなみに、この倒した獣はどうします?」


「どうしますって、、そうか。この近くで換金する手段はあるか?手間賃はもちろんは払う。」


「命の恩人から手間賃なんて頂けないですよ。この先の町で引き取ってもらいましょう。」


彼が所有する馬車に獣の死体を詰め込んで、町へと出発した。移動の最中でこの世界の基本的なルールについて聞いた。


基本通貨はゴルド、普通の住人は一日100ゴルド程度あれば最低限の生活はできるらしい。宿は素泊まりなら300ゴルド程度から。なのでちょっと余裕を持たせて一日500ゴルドを稼ぐことが当面の目標になりそうだ。


服装は転生神からログインボーナスという謎の名目でこの世界の一般的なものをもらっているのですぐには困らないが、無一文なのですぐにいくらか稼げないと野宿になってしまう。のんびりした感じの地域っぽいので、獣を除けば何かに襲われるなんてことはなさうだけど、できれば屋根のあるスペースを確保したい。


「なぁ、あの獣はどのくらいの値段になるんだ?」


「そうですね。頭部以外は綺麗な状態なんで、1体 1,500ゴルドですかね。4体なんで6,000ゴルドあたりが相場でしょう。」


おお、約2週間分の収入になりそうだ。いきなりホームレス&飢え死になんて羽目にはならなそうで良かった。


『転生した人をいきなりそんな目に遭わせるわけないじゃない。もう安心してよ。』


ああ、有難う。けどさ、元々は激烈に波乱万丈な世界に送り込もうとしてなかったっけ。。。


『(^_-)-☆』


なんだよその反応は。胡麻化すな胡麻化すな。と転生神とやり取りしているとコメルシから呼ばれる。


「そろそろ町に着きますよ。まず獣の換金をして、そこから宿を探しましょう。」


「獣の換金には何か証明が必要だったりするのか?」


そう、こういった村には売買するための場所があって、そこでの取引には身分証明だったりギルドの会員証だったりが必要だったりするのをよく話で見ていた。


「はい、取引所への獲物の引取り依頼には身分証が必要となります。ご出身の場所で発行されていませんか?」


「生憎、放浪しているうちに無くしてしまってな。。。」


「なるほど、ちょうどいいので町に到着したら再発行致しましょう。」


どうやらこの手のことはよくあることのようだ。転生前の世界のようにきっちりと管理はされていないんだろう。何かあった時に町やその近隣で個人が特定できればいい、くらいの塩梅なんだろうか。


と、この世界のシステムについてぼんやり考えながら、コメルシの馬車に乗込み町へ向かう。コメルシの馬車は屋根などついていない御者台と荷台だけの簡素なものだ。道のデコボコがダイレクトに体に伝わってくる。長旅をするには覚悟が必要なものだろう。


2.3時間は経っただろうか。石で作られたと思われる壁が見えてきた。どうやら町に着いたみたいだ。


「さて、町に着きましたよ。衛兵さん、私とこの人、2人が入町します。」


そう言うと、衛兵にいくばくかの通貨と思われるものを男が手渡す。


「町に入るのに費用がかかるのか?」


「そうですね、大した金額ではないので気にしないで下さい。まず身分証の再発行をしましょう。」


慣れた様子でコメルシは町の中へ馬車を進める。彼は商人をやっているということだから、こういったやり取りは何回も経験しているんだろう。


さてこの世界初めての町だ。あたりを見回してみる。町の大通りは石畳でできていて、幅は馬車がすれ違える程度の広さだ。建物も石で組まれていて2階、3階くらいの高さのものが並んでいる。うっすらと下水のような匂いとするが、これはまあそういうことなんだろう。しばらくコメルシの後について歩いていくと、屋根が尖った建物が見えてきた。


「こちらが町役場です。再発行の手続きをしましょう。」


そういってコメルシは町役場の役人を呼んだ。


「身分証の再発行だな、ここの紙に名前と職業を書け。」


幸い転生神からの加護で文字は読めるし、自分の名前を書くのも問題ないが、職業?


「ヒロシさん、どうかしましたか?」


「職業を書け、と言われてな。コメルシのようにはっきりと決まったものは無くてどう書いたものか迷っている。」


「職業欄は取引所が仕事を募集する際にどんな人間がこの町にいるのか参考にするためにあるんで、なんでもいいですし、いくつか書いてもいいんです。ヒロシさんは獣を狩れるようですし、あの身のこなしですから採集もできるでしょう。なのでひとまず猟師、採集家あたりでは如何ですか。」


コメルシ、まじ助かる。求人用の参考情報ってわけね。用紙に記入して役人に手渡す。


「名前はヒロシ、職業は猟師・採集家だな。関係する仕事ならあのあたりに募集がかかっているから、そこからとっていくと良い。」


役人が指さす先に掲示板のようなものがあり、募集らしきものが何枚も貼ってある。当面の仕事はここで探していくことにしよう。


「これが身分証だ。また金もかかるし手間だからもう無くすなよ。」


そういって役人から木片を手渡される。名前が彫られているだけの簡素なものだ。


「身分証の発行が終わりましたね。では獣を引き取ってもらいに行きましょう。」


役所を出てしばらく歩くと、役所と同じく屋根が尖った建物が見えてきた。一般の住宅は屋根が平らだけど、こういう公共施設は屋根の形を変えて目印にしているのかもしれない。


「おう、コメルシじゃねぇか。今日は若ぇもん連れてどうしたんだ?」


と威勢のいい中年から声を掛けられる。


「この町に帰ってくる途中獣に襲われてね。この若者、ヒロシさんに助けられたんだよ。この町に来るのが初めてだっていうんで、お礼も兼ねて色々と案内をね。」


「それはよかった。兄ちゃん、ありがとな。」


「その襲ってきた獣を退治したんで、引取ってもらおうと思ってね。」


馬車に積んだ獣をコメルシと抱えて中年に引き渡す。


「若い雄が4体か。ちょうど募集があってな、一体1,600で引き取ろう。」


お、コメルシの言っていた相場より少し上だ。


「ヒロシさん、獣の引き取りも終えました。これからどうします?」


「そうだな、何から何まで世話になってすまんが、宿を教えてくれたら助かる。」


「わかりました。馴染みの宿があるのでそこを紹介します。」


これで一息つくことにしよう。

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