第2話チュートリアル 初めての異世界と戦闘

転生神の言葉が丁度終わるタイミングでさっきまで無かった筈の感覚が戻りつつあるのに気づく。世界と自分との境目が新たに生まれていく不思議な感覚だ。


「身体再構成プロセス 60% 完了、、、、」


転生神の声が頭に直接イメージで伝わるのではなく、実際に耳から聞こえてくるようにもなった。転生に向けて俺の身体を用意してくれているんだな。ぼんやりと明かりのようなものも感じられ、視覚も戻ってきつつある。


「身体再構成プロセス 完了まで10, 9, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1,,,,, 転生開始。」


突然足元の方に空間が出来たような感覚があった。えっ、えっ、これ落ちてる???


「ヒロシさんの場合急な行先変更になりましたので、えいっと落下的な勢いもつけないと上手く異世界に入れないんですよ。」


普通転生ってのは体が光につつまれて優雅に始まるんじゃなかったのか。しかもそれやんわりその世界から転生を拒まれてない??こんなスピリチュアルな世界で落下エネルギーってなんなの????


「大丈夫です。向こうも受入れ慣れてないだけなんで。」


受入れ慣れしてない神って心配になるだろ。そしてこの勢いで向こうに到着したら転生した瞬間こっちに戻ってきそうな気がするんだががが。


「もう、心配性ですね。転生神である私と祠の神の加護がついていると言いましたよね。転生時の衝撃からは自動回復するようにしてますよ。」


おいっ、それ衝撃自体は回避してくれないのかよ。加護があるなら衝撃きゅうしゅ、、、ええええええええ、地面がせまってきたああああああああ。 


バリバリバリバリ、、、ゴスッ。


幸い?森の中に落ちたようで落下中は木の枝で少しはショックが吸収されたらしい。だが落下の衝撃が衝撃だったので息ができない。


2分くらいそのままだっただろうか、気を失いかけていたがようやく呼吸が戻ってきた。改めて身体を確認してみる。身体に傷は無いようだけど、多分一瞬骨という骨が砕けたような気がする。約束通り自動回復はしてくれたみたいだけどさぁ。


『無事到着したようですね。』


五体満足ではあるが決して無事ではないんだが。九死に一生を得たといった方が正しいんだが。視界の右側真ん中あたりに半透明のポップアップと文字が浮かび上がる。


『先ほど伝えた通り、文字情報程度ならこちらから送ることが可能です。』


おお、これはなんとも異世界っぽい。ポップアップはつかんでいろんなところに置けそうだ。


『しばらくの間、こちらの世界で生存可能と思われるところまでサポートします。所謂チュートリアルってやつです。このポップアップは他人から見えないので操作するときはこっそりやってくださいね。うっかりすると虚空を手刀で刻む達人みたいになっちゃいますよ?』


最後は余計だがこれは助かる。危険生物がいるエリアに踏み込んで襲われたり、住民の不文律を破って磔刑に処されたりするのはごめんだからな。しかし、ここは一体どこだ。あたりを見回しても街道はおろか、獣道すら見当たらない。人がいるエリアまでどうやってたどり着けばいいんだ?


『とりあえずですね。。。。あっちの方向に向かって歩いてください。』


指示がざっくりしている。とはいえ当然俺に土地勘なんてありゃしないし、転生神のサポートを素直に聞くとするか。


・・・・・

・・・・・

・・・・・


もう数時間歩いただろうか。依然として人の気配は全くしないのだが、気づいたことがいくつかある。とにかく全然体が疲れない。結構な斜面を上がったり下がったりしてるがまだ全然動ける。元の世界で登山をしたことがあるが、こんなに楽じゃなかった。


『自身の加護に気が付きましたね。』


やっぱりそういうことか。転生にあたって加護をつけてくれるって説明だったけどそれがこれか?


『その通りです。』


転生神の説明はこうだ。


この世界では「真素」というエネルギー源?のようなものが通常の物質とは別に存在していて、人はその真素を活用して生活している。真素がない地球で育った俺みたいな人間はそもそもの作りがこの世界の人間と比べて頑丈なのと、加護の力で真素の操作や通りがよくなっているらしい。


そしてこの真素は不思議なことに、生命の「意思」に呼応して色んな働きをするようだ。俺がこっちに歩く、とかこの斜面を登る、とか意識するだけでその動きをサポートしてくれるらしい。真素で動く電動アシスト自転車に乗っているようなイメージだ。


「随分便利な世界なんだな。」


『そうでもないんですよ。真素を一度に取り扱える量にも限度がありますし、真素を使用し続けるのも労力が必要なので、こんなに長時間稼働しても問題ないのは加護のお陰なんですよ。』


文字だけなのに転生神が自慢げにふんぞりかえっている雰囲気が伝わってくる。そういえばあの世界にいたときは目というか体自体がなかったから転生神の姿は見れなかったな。


『ヒロシは私の姿が気になりますか?』


気にならないと言えば嘘になる。


『転生神は美男美女の姿をしているのですが、姿を見せると転生しない!って駄々こねる人が多発したので基本姿は見せないんです。』


随分な自信だな。でも自分が死んだってショックを受けた後に美男美女と出会ったらそこから離れるのは辛かろう。少し気持ちはわかる。


『ヒロシのこの世界での行い次第では姿を現してもかまいません。精進するのですよ。』


いや、そんなに望んでいないんだが。。。そんなことよりきちんとこの世界で自立できるかどうかのほうが心配で。


『野望がないですね。 ( ゚Д゚)』


おい、どこで覚えたその顔文字。ちょっとイラっとするぞ。


『文字だけだと寂しかろうという神の慈愛が理解できませんか。』


慈愛ってよりも地雷って感じなんだが。。。


『そうこうしてる間にほら、あそこを見て。街道が見えてきましたよ。』


おおおお!苦節10時間、ようやく人類の痕跡に触れることができた。土と砂利が表に見えてるだけ、馬車はすれ違えないくらいのささやかな道だけど、少し感動している。


『この道を左にまっすぐ行けば集落につく筈よ。』


この森で夜を明かすのは流石に自信がないので、できるだけ急ぐとしよう。それにしても全然体が疲れないな。地味だけどこういう加護はありがたい。


少しスピードを上げて進んでいるが、だんだんと日が落ちてきた。これは街道には出れたけど野宿確定なのか。


『← 少し先に獣が何匹かいるわ。気を付けて。』


うう、できれば第一村人発見の方が先であって欲しかった。。。


『泣き言を言ってはいけません。他の世界にくらべれば道端の石に躓く程度の試練なのですよ。』


どんなにハードモードなのよ他の異世界は。転生神の示す方向に視線をやると 「ギュイン」 と擬音がでそうな勢いで目のピントが動く。1キロくらい先に何匹か熊のような体形の獣がいる。幸いこちらは風下だ、そっと近づけば気づかれることはないだろう。ん?獣が走る先に馬車のようなものが数台ある。これって。


『はい、馬車が獣の獲物になってますね。』


そんな他人事みたいに。


『他人事ですし。いちいち神が反応してたらキリがありません。 (-。-)y-゜゜゜』


緊急事態に顔文字はやめろ顔文字は。加護を持った俺ならなんとかできたりするのか?


『・・・・』


おい、何とか言ってくれよ。


『担当外の生命の運命に介入するのは禁止されてて怒られるんだけど、真素のチュートリアルってことで。おまけですよ?』


なんでもいいから早くしてくれ。


『そこに落ちてる石を拾って、100mくらいまで近づいたらあの獣に投げて。』


いやいやいや、あのサイズの獣に石なんか投げても無駄だろ。そもそも俺の力じゃ届かない。


『つべこべ言わずにとっととやる。投げるときに「当たれ」「刺され」「弾けろ」って強く願うのを忘れずに。』


ああもうわかった。やればいいんだろ。石を拾って獣の近くまで全力疾走する。


「くそっ、当たれ!刺され!弾けろ!」


10年以上前に授業でソフトボール投げしたとき以来の全力で石を投げる。かつて感じたことがないほどのスピードで右手が走る。拾ったただの石が手の中で光っている。


「ビヂッ」


信じられないほどのスナップで放たれた石が獣に向かって飛んでいく。100m以上の遠投だ、野球選手でも届けばそこそこ肩が強いと言われる距離を獣に向かって飛んでいく。



おかしい、いくら加護があって体が強くなったといってもおかしすぎる。この距離を獲物に向かってまっすぐにものを投げられる人類なんているわけがない。


超速で放たれた石が獣に着弾する。


「パァン!」


ただの石ころから出てはいけない色の火花を出して砕け散る。

獣は頭部を砕かれて地に伏した。


『初めてにしてはこんなところね。』


特に興奮したところもない、転生神のコメントがポップアップする。


『残りも同じように片づけていくわよ。』


色々と話したいことはあるが今は緊急事態だ。残り3体、全力投球で仕留めることにしよう。

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