料理は自立の証~wikiを頼りに異世界で生活します~

圧力鍋

第1話よくある異世界転生の始まりだから安心して

「ヒロシよ、貴方の魂に直接話しかけています。ヒロシよ、応えなさい。」


おお、どこかで聞いたことのあるようなフレーズが聞こえる。

それにしても心地いい声だ。まるでお姉さん声優トップのあの方のような優しい声。いつまでも聞いていたい。。。


「ヒロシよ、私の気は貴方が連想するトップ声優の方のように長くありません、永遠の眠りに直行したくなければ今すぐに応えなさい。」


おっと、いきなりトーンが剣呑になってきたぞ。ここはおとなしく答えるとするか、ってか体の感覚が全然ない。ん? え? ナニコレどうなってるの? 声を出そうとしても喉とかお腹とか全然動かせないんだけど。


「ヒロシよ、いるのですね。慌てる必要はありません。貴方は今魂だけの存在となっています。貴方が思ったことはそのまま私に聞こえています。」


魂だけ、、、って俺死んじゃったのか。褒められるような生活は送っていなかったにしても、一応病気ではなかったんだけどな。何があったんだろう。


「よほど疲れていて覚えていないのですね、貴方は昨晩湯船につかったまま寝てしまい、そのまま溺れて死にました」


うそ、、、、これからようやく親から離れて自分の思い通りに暮らせると思ったのに、、、部屋のアレンジとか自炊とかたくさんやりたいことあったのにな。。。


「ヒロシよ、絶望のズンドコにいるヒロシよ、話があります」


ズンドコってどうなのよその単語のチョイス。


「細かいことは気にしないことです。貴方は小さい頃住んでた町の記憶はありますか?」


ああ、中学頃まで住んでたあの田舎町のことかな。


「学校の裏山にあった祠の面倒を貴方はよく見ていましたね。」


あのちょっと奥まったところにあった祠のことか。あのあたりを秘密基地にしようと思って放課後少しずつ綺麗にしてたんだよな。周りに草木が多い茂ってたから少し刈って離れたところからも見えるようにしたりして。


「人々が祠のことを忘れ、そこにいた神も消えかかっていたのですが、たまたま貴方が現れたことで存在をつなぐことができました。」


おお、特に意識はしてなかったけど、あれが神様を助けることにつながったのか。素直にうれしい。でも俺が転校した後ってどうなったんだっけ?


「その後かの地は有名なドラマの舞台となりました。主人公とヒロインが告白シーンを演じたのはなんとあの祠の前! 今でもあのシーンは思い出して涙がとまら、、えぐっ、えぐっ。ずぴーっ。」


神様が下界のドラマもチェックしているとは意外だ。あそこから転校した後は勉強ばっかりで全然テレビも見てなかったんだよな。うっすらと話題になってたのは聞いてたけど。


「その後祠はドラマの聖地として注目を集め、観光名所として大盛況。祠は恋愛メインの神社として再オープン。」


祠って神社にランクアップできるんだっけ?そして再オープンって、パチンコやなんかじゃないんだから。それにしてもなんという逆転劇。よかったな、あそこにいた神さま。


「その神から『あの時あの少年が存在をつないでくれなかったら今の我はない、今こそ恩を返したい』と言付かっています。」


ということは、生き返らせてくれたり、、、、


「しません。特に溺死は。」


ダメなのね。特に溺死はって、何か理由はあるのか。


「禁則事項です。ですが今恋愛マスター神として盛隆を極めるかの神の力をもって、他の世界で生きなおすことは可能です。」


ちょっと懐かしいじゃん。ひょっとして少し不思議な女子高生とゆかいな仲間たちのアニメとか見てた? もとい、異世界転生の提案はいいね。是が非でもお願いしたい。


「わかりました。それではお話を進めることとしましょう。」


あ、ちょっと行き先について質問があるんだけど。


「任せてください。私とあの祠の神の力で貴方の世界で大人気の異世界を探し、なんと優先転生権を得ることに成功したのです!!」


それってまさか。。。


「はい♪、「魔王が1000年人類を支配している暗黒世界でとびきり美人なお姫様が命をかけて俺を召喚したんだが」という世界を用意しました!」


ちょーーーーっとまったぁ!!!!


「何かご不満でも?」


やめてやめてやめて。それ命懸けで、時には仲間の命とかも天秤にかけて突き進むやつじゃないの?


「よくわかりましたね。人生10回繰り返しても得られないような濃密な体験が待ってますよ!」


そんなの俺すぐ死んじゃって0.1回分も人生味わえずにここに戻ってきちゃうやつだって。


「そこは安心してください。使命が重い分得られるスキルも特別なものになります。運が悪くなければ貴方でも魔王までは辿り着ける筈。」


魔王に辿り着けるかどうかも運なのかよ。拒否!断固拒否!


「前世で故郷を守りきれず失意のまま敗れた軍人や、伝説の剣術を極めるも病に倒れ世に羽ばたく事なく散った達人など、数々の有力候補を抑えて勝ち取った世界なのですよ?」


どっからどう見てもその人たちの方が向いてるじゃん。俺なんかのために色々骨折ってもらって有難い限りなんだけど俺は辞退で。


「望んでもなかなか得られない機会ですのに。。こちらの異世界を予約するためにかなりのリソースを使ってしまったので、残った候補でいうとこのくらいしかないですよ?」


どれどれ、、、絶賛戦乱中の世界は避けて、、、っと。この発展途上の世界っていうのは?


「この世界は刺激が少なくて多分退屈ですよ?世界からの要求も薄いので付与されるスキルも地味ですし。男の子は異世界で俺tueeeしたくなるものじゃないんですか?」


憧れがないっていったら嘘になるけど、そんなことより前の人生が中途半端に終わった事の方が心残りなんだよね。


せっかく夢が叶うってところだったからさ。


「貴方の夢って?」


普通に自立して生活するってこと。


「へ?」


うちの親って悪い人たちでは決してないんだけど、全然自由が感じられなくてさ。家のこともやってくれるんだけどいちいち決まりが細かくて息がつまりそうだった。というか半分詰まってた。


どうにかこうにか就職が決まって、あの家から出れるぞってわくわくしてたところに溺死だったからなー。親には悪いけど。あの続きが親のいないところで出来るなら悪く無い。


「そうですか。大分貴方の住んでた世界からは生活水準が劣りますが良いですか?」


一回死んだ俺にまたチャンスをくれるって言うんだから贅沢は言わないよ。さっきの異世界の話を聞くと、俺の世界で言うところの「魔法」みたいなものもあるんだろ?


「はい、ありますね。」


それは楽しみだ。さっき生活水準が低いって言ってたけどどのくらい?


「貴方のよく読む異世界もの、の平均より少し劣ったくらいですね。」


なるほど。異世界に渡る時に貰えるスキルの中で、前の世界の知識を持って行く手段はないかな?


「うーん、先ほどもお伝えしましたが、こちらの世界から転生にかける要求するが薄いので大掛かりなものは難しいですね。文字情報くらいなら何とかなるかも。」


Webサイトを見るのは?


「どれか一つのサイト限定ならなんとかしましょう。」


そうか、じゃあwikiを見れるようにしたいな。


「外部リンクは見れませんが構いませんか?」


いいよ。あと転生先の言語とかはどうなってる?


「読み書き会話は初心者パックとして皆さんに提供してますので安心して下さい。」


そうか、運動能力とか魔法適性とかはどういう状態で向こうに行くことになる?


「はい、転生神である私とあの祠の神からの加護がつきますので、そちらもある程度期待して貰って構いません。」


良かった。せっかく魔法がある世界に行くのに使えなかったら悲しいからな。最後に一つお願いがある。


「わかっております。PCは電源の異常か落雷の影響でハードディスクの内容が全て読めないようにしておきますね。スマホはスプリンクラー異常でじっくりと水没、SNSのアカウントはバグで削除されたことにしておきます。」


そう、それ!めちゃくちゃ手厚いな。有難う。これで心置きなく新しい世界に行けるよ。


「それでは異世界転生の手続きを開始しますね。良い人生を。」


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