第22話 統治者②

探鉱の方にも継承抹消の情報が届いた。

ジモンさんの復帰説が話題にあがる。


僕達はというと、あの後自室まで戻ってはいたが、報告はしていない。

喜んではくれないかもしれないからだ。

感情任せの勢いでした行為は、グンジさんと何ら変わらない。


盗みは罪だ。

成功して、省みて、気づいた。

僕達のことを讃えてくれる人はいるだろう。

その中にジモンさんがいる可能性は低い。


朝の食事の際は目を合わせてくれなかった。

本人は気づいているかもしれない。



「つたえないの?」


「最終期日までに勇気が湧かなかったら、伝えないかも」


フィロは肯定も否定もしてくれない。


盗みを辞めさせるため、ここに来たのに、最終盤で本末転倒的なことをさせてしまった。




覚悟を決めることができないまま数日が経過し、期日を迎える。



街の中心部、噴水近くには大勢の人が集まっている。

その中心に、都市連合所属の各長4名、付近にグンジさんの息子と従者、反対側にはジモンさんら探鉱の人達、そして僕達はその後ろで様子を見守っていた。


「定刻まで、まもなくです」

「王冠はまだですか?」

「このまま見つからない場合は、住人投票も視野に入れています」


観衆はざわつく。

継承の可能性は自分だと豪語する者、定刻までのカウントダウンをする者もいる。


長の1人が手を上げ、観衆のざわめきを静止する。


覚悟を決めた僕は、長達の前に出る。


「王冠はここにあります!」


静寂となり、視線が一点に集まる。


膝を着き、王冠を捧げた。


「お納めください」


全員が、本物かどうか確かめている。


「これを見つけたのは、あなた?」

「……はい」

「あなた名は?」

「……リン、といいます。旅の者です」

「ほぅ、リンとやら、これをどこで見つけたのか聞いてもよいか?」

「夜道歩いている際に、輝く物に導かれ、手にした物が、この冠でした」


盗みを綺麗に言い換えただけだ。

あながち間違いではないはずだ。

後ろの観衆は、虚言だと騒ぎたてている。


名前を聞いてきた長が、耳元で話しかけてきた。


「贋作もの仕業かしら?」


身体がビクっとした。


満足したのか、その長は、所定の位置に戻る。


「まぁよい、本題はここから」

「そうじゃな、規則に則れば、旅の者とて権利がある」

「そう、継承者とは所有者でもある」

「この街の権利者としていま一番近くにいるのは、あなたよ」

「どうしたいのじゃ?」



この街は都市ほどではないが、それなりに大きい。街の統治者ともなれば、これからの暮らしは安泰だ。

フィロ達も裕福に暮らすことができる。

財政改革にも取り組めば、治安も良くなり、皆が安心して生活することができるだろう。



でも、それは、この街の未来夢見る願望であって、やりたい事ではない。

僕のみちではない。


僕は……もっと……多くの……。



「……お断り致します」

「なぜ?」

「ここは素敵な街です。自然豊かで活気もあって、人情も厚い。僕が旅人でなければ永住も考えたでしょう。でも、僕は旅がしたいのです。様々な都市や街、世界を歩きたいのです。自分の決めたことを成し遂げたい。だから僕の権利は、この街を愛する誰かに譲渡したいと思います」

「ふむ、では権利無効とする、よいな」

「はい」

「面倒だが住人投票か」


「もしよければ、権利の無い者の発言をお許しいただきたいです」

「何じゃ?」

「僕はジモンさんを推薦します!」



皆の視線が動いた。





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