第20話 奪還③

定例査定の前日、僕は使用人業務を終え、その服のまま近くの木陰で夜になるのを待つ。

仕事終わりの時間が夕方のため、待ち時間は少ない。

まもなく日が沈み、辺りは暗くなる。


指定した時間にフィロは来た。


「ふく、いいね、にあってる」

「はは、ありがと」


僕としては、汗臭い探鉱の作業服の方が好きだけどね。


「それより、例の物は出来上がった?」

「ばっちり!」


親指を立て、サインをしてくれた。


品は確かに、完成している。



「じゃあ、行こうか」



表玄関からは、入ることはできない。

裏側に回るしかない。

使用人がウロウロしていたとしても、まだ問題ない時間帯ではある。

しかし、悠長にはしていられない。

裏口は鍵がかかっており、その鍵は表にいる警備員が持っている。

何とかして、手に入れないといけない。

ここはフィロの出番。

僕が、忘れ物をしたという理由で声をかけ、気をそらし、薄暗いなかで一瞬にして鍵を抜き取るという作戦。


これは見事に成功。


警備員に怒られながら、急いでその場を離れたと見せかけ裏側にまわる。

解錠に時間はかからず、建物内に入室。

構造は記憶している。

薄暗くても問題はない。

中にも警備員が在中しているが、見つかることなく、目的の場所まで着いた。


「開けるよ」


ゆっくりと開ける。

室内は常時照明がついている様子。

部屋の真ん中には、台座があり、その上の透明な箱の中に王冠がある。

透明箱の上部、王冠の真上の部分は、すぐに持ち運べるようにか、丸い穴が空いている。

簡単そうに見えたが、すぐに違和感を感じた。


「ちょっと待ってフィロ、何かある」


手を伸ばす。

空気に触れる。

眼には見えないが、箱の周りには長い線が張り巡らされている。

動いているものもある。

さながら茨のようだ。


「フィロには見えないかもだけど、箱の周りに触れるとよくない物があるから、それを避けて王冠取ってくれる?」


フィロは頷くとともに、しゃがみ姿勢になった。


「私も、なんとなくだけど感じるよ。でもわかりにくいから、おしえてくれる?」

「もちろん、僕の言うとおりに身体動かしてみて」

「わかった」


指示通りにフィロは進んでいく。

見えづらいが、幾重もの赤い線をすり抜けていく。

軟体動物かと思えるくらい、身体は柔軟だった。


ついに穴に手をかけ、王冠を掴む。

途中、王冠の下部が箱に当たり落下したが、尻尾でキャッチ。

ヒヤヒヤながらも、なんとか入口まで戻ってきてくれたので、一安心。

あとは脱出のみ。

帰りも、警備員に見つからないように忍び足で歩き、外に出ることに成功。

かなり離れたところで、お互い向き合いハイタッチした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る