第17話 冠③
街の中央部は、いつにもまして慌ただしくなっている。
都市連合の長達が数日後には来訪するためだ。
住人は歓迎の準備に余念がない様子だ。
それもそのはず、この街は頻度の高い砂嵐に覆われていることもあって閉鎖的だ。
高い壁で、砂嵐から身を守っていることもあり、外の情報は得る手段は少ない。
街の商人が仕入れのために外に出ることはあるが、毎日出かけることは難しい。
よって入ってくる商人だったり、旅人なんかは基本重宝されることが多い。
街の中心部から少し離れた、高い場所から下を見ている者達がいる。
この街の支配者たる人物だ。
「準備は順調か?」
「はい、滞り無く」
従者の身なりをした物が答える。
「定例査定かなんだか知らんが、やつらも暇だな」
「グンジ様、そのような言い方は良くないかと、都市連合の皆様もグンジ様と同じように統治者でございます」
「わかっているわ!そんなこと!」
ドンとテーブルを叩く。
並々注がれていた紅茶が溢れる。
「なんで俺がこんな面倒なことをしなきゃならんのだ。報告なんぞ、紙切れ一枚で十分だろうが」
「歴史ある行事ですから、我々では無くすなどということはできないと思います」
「ふんっ!どうせ、やつらも俺の利益を狙っているに違いない」
グンジは椅子に座ると紅茶の横に置いてあった甘い菓子を頬張る。
「も、れ、それでどぉだ、れぃのせいさくぅは…」
「政策に反発する輩はおりませんので、定例査定終了後に実施できそうです」
グンジは差別主義者で自己中心的な考えの男だ。
「これでまた俺の金が増えるということだ」
「獣人税に、身寄りの無い子や働いていない者達を受け入れというなの売春ですか」
「あぁ、俺に金を落とさないんだ。この街で働けないなら売るまでさ」
「その事、都市連合の長達には気づかれないようにしませんといけませんね」
「問題はない。やつらの網に引っかかりはしない。取引先は安心できる」
「グンジ様がそこまで信用しているのでしたら、これ以上この件については触れません。それよりも、あれはどうなさるおつもりですか?」
従者が指差す先には、王冠がある。
輝きはないが、荘厳さのある冠が、透明な箱に入っている。
「あのように無造作でよいのでしょうか」
「お前の心配はわかる。だが問題はない。奴の時のようにはならない、俺にはあれがある」
「最近買ったというあれですか?」
「そうだ、高額だから1つしか買えなかったが十分だろう。何やら普通の目には見えないレーザーなるものが、この箱の周りをぐるぐると回るらしい。それに触れると警報が鳴るということみたいだ」
「警報装置も合わせて購入されたんですよね」
「あぁ、高かったぞ!聞くか?」
長くなりそうな話を従者は断った。
当日までこの箱はグンジのいる会議室から別の場所へと移される。
箱と台座以外には何もない部屋にだ。
装置を手に持ち、拳を上げたグンジは高らかに笑っていた。
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