第16話 冠②
衝撃的だ。
もしかしたら、ジモンさんも偉い人だったかもしれない。
探鉱の長というのも重役ではあるが、それ以上だった可能性がある。
「もしかして、以前はジモンさんが、統治していたなんてことあります?」
「そのとおりだ。ただその時は代理でよ、正式ではなかったからノーカウント、かもな」
推測は当たっていたようだ。
「辞められた理由を聞いてもいいですか?」
「嵌められたんだ」
大きな溜め息を吐きながら、淡々と話が続く。
僕は静かに聞いていた。
時々、空を見たり、顔を手で覆ったりしていたが、それには触れることなく、話に集中した。
10分ほど経った。
要約すると、まずジモンさんの母親が元々統治をしていたが、ご逝去されたことで、次はジモンさんか弟のグンジさんという話になったが、意見が割れて、一旦は代理というかたちで兄のジモンさんが統治。
代理というシステムがあるのは、ここは大きな街であっても、それ以上に広い都市ではない。
都市は世界に幾つか存在する。
その中でもかなり発展している都市は都市連合と呼ばれ、幾つかの街も合わせて統治していることが多い。
地理的な状況などにより、都市連合には統治されず、独自性を築く街も多数あり、その場合は最低4名の都市連合の長の承認を得なければ、正式性はないとのこと。
代理となって数ヶ月後、都市連合の長達数名が来訪する日が決定。
この街は昔、とある国の中心部だったこともあり、継承の儀には王冠を使用。
来訪前日に王冠が紛失。
当日までに見つからなかったことから、ジモンさんの代理抹消。
数日後発見した者がグンジさんだったということもあり、そのまま彼が継承されたとのこと。
役人の貴族風な衣服や馬車、中心部の建物がしっかりしているのは、そういう理由だ。
街の入口も下町雰囲気だったから、気づきにくい。
この街は、昔栄えた国の名残りなのだ。
「王冠は盗まれた、盗んだ本人もグンジさんである可能性が高い、ということですね」
「あぁ、そうだ」
「なんで、それを告発しなかったんですか?都市連合の長達は数日滞在されたんでしょう?」
また大きく息を吐いていた。
「…ふぅ、そうだな、それもできただろう。だが可能性でしかない。証拠はない。それに、俺のミスだ、守れなかった。資格はない。それにグンジの継承権は元々あったからな。長達も痺れを切らしたんだろうさ」
「それって、何年前です?」
「10年だ。探鉱は、父の経営で顔を出していたから、中央で働くことを辞めたあとは、ここが俺の家になってるのさ」
ジモンさんはゆっくりと立ち上がった。
「年寄りの昔話に付き合ってもらって悪いな、忘れてくれ」
「いやいや、ジモンさんはまだお年寄りではないですよ」
「俺はもう50だ、ここで生涯を過ごすことになるだろうよ。都市連合の長達がまた来ても何も変わらないさ」
再び来訪するような言い方だ。
「長達って、また来るんですか?」
「ん?あぁそうだぞ。ここは大きいが街だからな。10年に一度見に来る。丁度、今年がその年だな。確か、来週だったか」
「何を見に来るんですか?」
「…王冠だ。あとは財政状態とかの確認やら色々だ。役人達がいつもよりざわついているのも、税収を上げるのもそれが理由だろうよ」
「もし…もしですが、その際に王冠が無いなんてことがあったりすると、同じように抹消されるんですか?」
「………あまり変なことを考えるなよ」
「参考までに聞いているだけですよ」
「………あぁそうだろうな。そうだろうよ。王冠が無ければ抹消される可能性は高い。だが、抹消された場合は、奴の息子だろうよ。俺である可能性は低い」
「低いということは、可能性はあると同義ですよね?」
「………同義だな。奴の息子はまだ小さい。嫁はどこの馬の骨かもわからんらしいし、まず家に居ないらしいからな。継承権が俺に戻ってくる可能性はある。住民投票という線もあるかもしれんがな」
「なるほど」
「もう一度言うが、変なこと考えるなよ。俺は別にここでの暮らしが悪いってわけではないんだからよ」
それについて返事をしたかどうかは覚えていない。
曖昧な感じだったかもしれない。
休憩が終わる合図とともに、現場へと戻った。
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