第11話 仕事④

外階段を登って、戸を数回ノックすると、返答があった。

静かに入室しようとしたが、古戸なのかギイギイと音が鳴る。

部屋の中には、二人。

熊を連想するような大柄の男、眼鏡をかけた年配のご老人。

どちらからも、この辺り独特の匂いが染み付いている。

長く働いている、そんな雰囲気だ。


「適当に、かけてくれ」

「あ、はい!」

「君達が、うちに応募してきた者達であってるよな?」


不思議そうに僕達を見ていた。


「カリヤには、事前に連絡するよう伝えていたのだが、聞いてなかったかい?」


話が見えてこない。


「あぁ、カリヤというのは君達に仕事の紹介をした女性だよ。こちらに来る日程なんかは連絡させるということで、話がついていたんだが、どうやら事前内容とは違うようだな…やれやれ」


……あのメギツネぇ!!


「すみません!先ほどあの人から承諾書をいただきまして、顔合わせとかの時間も聞いてなくて、とりあえず早めに挨拶に行ったほうがいいと思ったので、伺った次第なのですが、今日は帰ったほうが良さそう、ですかね…?」


「いやいいよ。よくあることだから」


大柄の男は溜め息混じりに言った。


「俺は、ここの責任者をやっているジモンというもんだ。そこに座っている、動かない爺さんは、俺の親父のジレン。無口だが、ここを一番よく知っている」


名前を呼ばれたことで、ジレンさんは眼鏡をクイッと上げる。

そのまま2人分の作業服を持ってきた。


「君達はまず作業服に着替えてくれ。夕暮れには、まだ時間があるからな。他の仲間への挨拶と簡単な作業をしてもらう。…あぁ、安心していい、今日の分も給料は出る」

「ですが、僕達はここより、だいぶ離れたところに住んでいますので、出直した方がいいと思うのですが…」

「それには及ばない。近くに宿屋があっただろう。住み込みで働いてもらうから、通勤時間は考えなくていいぞ」


住込みなんて、聞いていない。

もちろん承諾書には書いていない。

女狐はいま笑っていることだろう。


会話を聞いていたフィロも割って入ってきた。

「うちにはかえらないと、チビたち待ってる」

「なんだ、お前達、結婚して子供がいるのか?」

「違います違います、そういう意味ではないです」


慌てて説明をした。

お金がないこと。

小さな子と一緒に住んでいること。

長時間留守にすることはできないことなどだ。


「ならガキも一緒に連れてこい。無料タダでは住めないから、簡単な手伝いなんかはやってもらう」


毎日衣食住があるのはありがたい。

しかし、子供達がこの山を登れるかどうかは不安だ。

この提案は持ち帰り考えることにして、一旦出直すことになった。


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