第10話 仕事③
探鉱という仕事が、僕達に務まるのだろうか。
一人は人間の男ではあるが、筋肉隆々ではない。
もう一人は獣人で、俊敏だが、女性だ。
前者同じく、重労働を可能とする見た目ではない。
なぜ、あの受付嬢は、丁寧な説明もせず、紹介したのか。
悪意しか感じられない。
そもそも、探鉱の人もなぜ受け入れようと思ったのか。
人手不足なのか。
僕達をいじめ、売り飛ばすのではないのだろうか。
嫌なことを想像してしまうばかりだ。
足取りは、重い。
僕とは違ってフィロは、気に留めていない様子だ。
いや、おそらく文字が読めなかっただけだろう。
探鉱の意味を聞かれた時には驚いたが、気を落とすようなことだけは避けたい。
やりがいのある仕事、とだけ答えておいた。
最悪時は、勢いとその場の流れに身を委ねようと思っているからである。
雇用承諾書とは別にもらった地図には、目的地らしい場所が記されていた。
かなり遠い。
それもそのはず。
下町近くに、探鉱現場はない。
街のずいぶん外れだ。
ここに着く頃には、日が傾き始めるかもしれない。
往復だけで、数時間かかる可能性もある。
早寝早起きが必須だろう。
あの女狐は、とんでもないところに僕達を派遣させたのだ。
眼の細さも相まって、本当に狐と見間違うかもしれない。
僕の気をよそに、フィロの足取りは軽く、速い。
山道になったというのに、ペースは変わっていない。
獣人の活動力を羨ましく思った。
「もう少しかも」
フィロのペースが上がる。
「…本当?」
地図を見てもよく分からない。
山道だからか、ぐるぐると回っているからか、距離把握が難しい。
「においが変わったから…あ、ほらあれ!」
少し先の方を見ると、幾つかの木造建物がある。
宿屋風の建物もあれば、煙突から煙が出ている所もある。
大きな建物の奥には、洞窟ような大穴があるのが見えた。
「ん〜、いいにおい。こういうとこ好き」
「街より高いところにあるから、空気もいいよね。それと美味しそうな匂いもする」
すぐ左手にある宿屋からだろう。
なぜ、このような場所にあるのか。
自分が知らないだけで、この街の観光地、なのかもしれない。
とりあえず僕達は、大穴に向かった。
カンカンと、探鉱ならではの採掘音が聞こえてくる。
数人が作業をしており、一番手前の荷を入れる仕事をしていた男性に声をかけることにした。
「あの、すみません。仕事を紹介してもらって来た者ですが、ここの責任者はいらっしゃいますか?」
「あー、お頭?…なら、あの建物の中だよ」
指された方角を見ると、先ほどの大きな建物がある。
お頭、という人はここにはいないらしい。
「…君達、新人?」
「はい、そうです」
「ふーん…頑張って」
それはどういう意味なのだろう。
僕は軽く会釈して、建物へ向かう。
ボソッと後ろの方で、直ぐに辞めそうなどという会話が聴こえた。
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