第8話 仕事①
紹介所まではそう遠くない。
道行く人に数度尋ね、それほど時間を費やさずに目的地へ到着。
木造の大きな開き戸を抜け、中へと進む。
建物内は簡易的な椅子や机がちらほらとあるが、僕達のような仕事を探す客はおらず、受付に女性が一人座っているだけだった。
「あのう、すみません」
女性はじっと僕のことを見たあと、フィロに目をやり、すぐに僕の方を向いた。
「ご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
「仕事を探してまして、できれば簡単な作業から、お願いしたいです。僕と彼女の二人共です」
「さようでございますか。それでは、こちらの用紙に記入をお願いいたします」
用紙には、名前や年齢のほか、仕事をする理由、特技など記入必要事項がたくさんあった。
女性の対応は、テキパキと迅速丁寧だった。
一流の受付嬢と言ってよいかもしれない。
ただ一点を除いては。
「用紙確認いたしましたとこ…」
「ちょっといいですか!?」
「…どうかいたしましたでしょうか」
「僕は最初に、二人共仕事を探しているとお伝えしたと思うのですが、なぜ彼女、フィロの用紙の方は確認されないんですか?」
「それについて、回答は必要でしょうか?」
暫しの沈黙が流れる。
フィロが僕にさっき言っていたことが、理解できた気がした。
この人は、この街は、ほとんどの人達が人種差別をしている。
道を聞いたときも、怪訝そうな顔をしていた人を多く感じたのは、そういうことだ。
根本的な考え方が僕とは違う。
「回答は必要ありません。二人共同じ仕事を紹介していただければ、けっこうです」
苛立ちを出さないよう、僕も丁寧に応えた。
受付嬢からの返答には時間がかかったが、ようやく大きなため息をしたあと、用紙を2つ回収した。
「今現在、お二人様に同じ仕事を紹介できる先は、1つのみでございます」
「それは…?」
「その前に、先方に確認をしないといけません」
フィロを再度、チラリとみて話を進める。
「おそらく、受け入れは可能と思われますが、一度先方様へ連絡を入れさせていただき、後日お二人様にお伝えするというかたちでよろしいでしょうか?」
「それで構いません。いつまたここに来たら良いですか?」
「そうですね……」
打ち合わせをしたところ、2日後の正午に出向くことになった。
問題がなければ、その日の午後から仕事という感じになるらしい。
受付嬢は最後まで、笑顔ではなかった。
玄関を出たところで、フィロが僕に頭を下げた。
「ごめんなさい。やっぱり私めいわくかも。しごとなんてむいてない」
涙ぐむ彼女の額に手を置いた。
「大丈夫だって、僕がついている!もし仕事先で怒られたとしても、一緒にいるから!」
涙を拭いた手は、細く見えた。
「優しいね、リンは、ありがとう」
「うん、どういたしまして。それが僕の取り柄だからね」
日が沈みきる前には、子供達のところに戻れそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます