第6話 出会い④

話している最中に、彼女の後ろでは子供達が何か貪っていた。

あれは先ほど屋台で売られていたパンに間違いない。

この短時間の間に、盗んだお金でパンを買ったのだろうか。

眺め続けると涎が出そうだ。


「お金もパンもあげないから!これは私たちのものなの!」


やはり、獣人の感覚は鋭い。

涎を飲み込んだだけなのに、瞬時に理解できるとは、さすがだ。


「いらないよ、僕にはこれがあるからね」


さっき買った果物を広げて見せる。

決して自慢はできないが、向こうの警戒心は和らげるには適している。

非常食みたいに見えるかもしれないが、これは僕の明日の食べ物だ。

今食べるわけにはいかない。


「君を追いかけたのは、理由があってね。盗みを辞めてもらいたんだよ」

「これをやめたら、生活なんてできない!これもとらないと、みんなきゅうきゅうする、こまる!むり!」


なるほど、パンも盗んでいたのか。

なんといえばよいか、すごい。

店員の一瞬の隙を突く、それを可能にする運動神経は獣人ならではというところか。

格好良くいえば、称賛に値するという言葉をかけるのだけれど、僕に難しい言葉は似合わないし、彼女も分かりにくいだろう。


褒め言葉は心の中に閉まっておくとして、彼女には再度説得を試みることにした。

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