第5話 出会い③

周りを見渡すと、小さな家具やぬいぐるみがある他は何もない。

家といえる代物ではない。

着ている服もボロボロで、どちらかというと住処なのだろう。

おそらく、血の繋がりなんてものもなさそうだ。


彼女の手のひらには、先ほど住民から盗んだ硬貨や紙幣がある。

小汚い袋に大事そうに詰めようとしていた。


「このお金は渡さないから!」


かなり、怒っている。

いや、これは威嚇か。

見ず知らずの人間から奪われる恐怖心か。

僕は、そんなつもりは毛頭ないのに。

そもそも取り上げたとして、住民に返しに行ったとして、誰がいくら盗まれたかは分かるはずもない。

終いには、口論が起きる。

財布事盗まれているなら、そのまま返却すれば簡単だか、綺麗に中身だけ抜き取られている物が多い。

これが獣人の能力なのか、はたまた彼女の才能なのか難しいところだ。


「取り上げたりしないよ」

「じゃあ何しにきたの!」


全く、そのとおりだ。

彼女は何も間違ったことを言っていない。


追いかけた理由は、盗みを辞めさせることだ。


盗みを辞め、普通に働いて、稼いだお金で、彼らを養い、生活をしてもらいたい。

1人で5人分の生活費を稼ぐことは難しいだろう。

家を買うことになれば、ここにいる全員が働かなければならない。

それは到底無理な話だ。


しかしそうでもしないと、いつか限界が来る。

数年後には、小さな子達も成長して大人になる。

ここが窮屈になるのは目に見えている。

新しい子も増えるかもしれない。

新しい場所を見つけないといけないかもしれない。

見つけられる保証はない。

盗みは獣人の彼女にしかできないだろう。

彼ら子供らにはできない芸当だ。

上手く逃げることもできずに、捕まり牢獄に入れられる可能性もある。

それは今よりもっと酷い生活を強いられることになる。


街を出るという選択肢もあるが、難しいだろう。

砂嵐で分断なんてこともあるかもしれない。

このままでは、未来はない。



どのような理由があっても、彼女に盗みを辞めさせなければいけないと強く思った。

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