マクロとミクロ

第1話

　　マクロとミクロ

黒板に大きな丸を描き

理科の教師が言った

「ヒマラヤ山脈もマリアナ海溝も

このチョークの幅に含まれる

よって地球は

ほぼ球体といってよいのだ」と

私は地球の大きさを思い

宇宙の大きさを思った

そしてまた地球の小ささを思い

自分自身の小ささを思った

（ましてや私の取るに足りない

　悩みや苦しみなど……）

あれから数十年

私は社会人となり

家族を持った

意に染まぬ仕事も

家族のために

なんとかこなした

そして夜おそく

帰り着いた玄関で

ふと飾り棚に置かれた

一輪ざしを眺める

電気の消えた子供部屋では

ぐっすりと眠る

子供の寝顔

私は一日の疲れを忘れ

思わず頬がゆるむ

―――私を励ます二つのもの

大いなるものへの畏敬

そして

小さきものとの

ささやかなふれあい

この二つは私にとって

ほぼ同格のものと

いってよい

　　　　　　　　　　（了）