第3話

「悔しくないはずがない。きみはまだ十七歳だった。突然、未来を奪われてしまったのだから。だけどね、真青。きみの言う通り、亡くなったひとはどうすることもできないの」


 噂が嘘だったらどんなによかったか。

 迷いに迷って、ようやくこの場所を訪れたのが二か月前。

 真実ではありませんようにと祈っていたのに、真青の幽霊は廃駅にひっそりと佇んでいた。

 幽霊だと自覚せず、わたしを待っていた。

 亡くなったままの痛ましい姿ではあったが、真青に会えてうれしかった。

 会いたかった。わたしはずっと真青に会いたかったから。


 真実を告げるのがつらくて、今夜まで先延ばししていた。

 それでも真青は、魂の還る場所へ旅立つべきだ。

 このまま真青を、拠り所なく漂う魂にはしたくない。

 若すぎる死━━

 しかし、真青は決して、かわいそうなだけの存在ではない。

 真青は生きた。必死に生きていた。


 真青が生きた十七年の歴史を、ないがしろにしないで!


「おれ、死んだのか……そうか。そうだったんだな」


 真青は唇を震わせる。笑おうとして失敗した、途方に暮れた表情だった。

 わたしに手を伸ばすが、触れられない。

 真青はよりいっそう寂しげに微笑んだ。


「こんなふうになっちまったけど、紅美に会えてよかった。これでもう未練を残すことなく逝ける……おれを、」


“忘れないでくれ”、“忘れてくれ”どちらのようにも聞こえた。

 吐息のように囁いて、真青は闇に溶けた。

 置いてけぼりの卒業証書を抱きしめる。

 こぼれ落ちる涙と雪がぐちゃぐちゃに混ざって、頬が冷たかった。


「成仏しろよぉ、馬鹿真青……」


 真青が幽霊でも、そばにいてほしかった。ずっとそばにいたかった。

 けれど、生死によって分かたれてしまったわたしたちが、一緒にいて許されるのだろうか。

 この世に縛りつけて、真青の魂は安らげるのだろうか。


 いつかわたしは、真青以外の誰かと恋をするのだろうか。想像もできない。


 この夜を忘れたくない。真青との思い出が色せてゆくのが怖い。

 ずっと、きみに恋をしていた。ずっとずっと、きみに恋をしていた。


 ──やがて、夜が明ける。

 目がくらむような眩しい朝陽が、荒れたレールをきらきらと照らしていた。了



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蒼き轍【青春ホラー・両片思い】 その子四十路 @sonokoyosoji

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