第6話

 健一は、源義家の生涯や業績についての理解を深めるため、図書館で「源氏三代記」を読み進めながら、義家の人間性と、彼が築き上げた伝説について心を動かされていた。義家の勇猛さや戦略、そして人々からの信頼と尊敬を得るまでの軌跡が、彼をただの武将ではなく、人望ある人格者として描き出されていた。


さらに資料を読み進める中で、義家が父・頼義とともに戦った前九年の役や、清原氏の協力を得て安倍氏に対抗した後三年の役など、複雑な政治的背景に触れ、戦いの背後にある駆け引きと葛藤を感じ取った。これらの出来事が義家を単なる戦士から、日本の歴史に名を刻む英雄へと押し上げた要因であることを健一は理解し、ますます義家の物語に引き込まれていった。


義家は戦場における戦略家であると同時に、義理と人情を重んじる武将であり、その人間味溢れる一面も魅力のひとつだった。延久の蝦夷合戦での白河天皇への献身的な警護や、藤原為房の記録にも残る布衣をまとっての護衛など、天皇を守るために官職を超えて行動する姿は、多くの武士たちにとっても新しい模範とされた。


義家の物語が、戦いだけではなく、彼が築いた絆や誠実な生き方に満ちていることに触れ、健一の中で大河ドラマの構想がふくらんでいく。彼は義家をただの戦士として描くのではなく、その人間味と信念、葛藤を持つ姿をより深く表現したいと強く感じた。


そして、図書館の中でふと流れる『ザ・ベストテン』の懐かしいテーマ曲に現実へと引き戻され、80年代の空気を感じるなか、健一は再び義家の物語の続きを探し始めた。その姿は、まるで時代を超えた物語を紡ぎ出そうとする一人の物書きのようであった。


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The潜入 1万 カクヨム短編 鷹山トシキ @1982

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