第3話


逃げ惑う鍛代斬鉄。

彼女達の追跡から逃れる為に中庭へ出ると共に壁に駆け寄る。


("炉心躰火ろしんたいか")


試刀生は、自らの生命力を運動源動力へと変換させる〈炎子炉えんしろ〉が内臓されている。

大地から発生される火の神の残滓を吸収した事で、多くの人間の臓器には〈炎子炉えんしろ〉が培っているのだ。

生命力変換源動力、またの名を〈闘猛火ともしび〉を肉体に循環させる事で、肉体から放出される熱源による推進力を利用し、運動能力を補助する事が可能となる。

これにより、鍛代斬鉄は壁の僅かな窪みや引っ掛かりのある部分を使い、壁を跳躍する様に渡る芸当を披露した。

幸いにも、彼女達は鍛代斬鉄が中庭に向けて出て来た所しか確認出来ていない。


「斬鉄さま?どちらに?」


周囲を見回し、見当違いな方へと走り出す東狐歌恋歌。

銀嶺白乃も、自らの勘を頼るかの様に、真っ直ぐに走り出した。

鍛代斬鉄は一気に屋上にまで昇っており、フェンスを跨ぎながら彼女達が自分を探す様を見詰めている。


「全く、落ち着いて昼寝も出来やしねぇなぁ…」


そう呟きながら、屋上へ足を踏み込んだ時。


「あ」


鍛代斬鉄は、一人、屋上の片隅で腰を下ろしながら、総菜パンと紙パックに入ったイチゴ牛乳を飲んでいた奈流芳一以を発見する。


「…」


奈流芳一以は、幼馴染である鍛代斬鉄を見てゆっくりと立ち上がる。

彼のばつが悪そうな表情を見ていながらも、鍛代斬鉄は変わらぬ様子で旧知の友に対する気の抜けた笑みを浮かべて軽く手を挙げた。


「よう、久しぶりだなぁ一以、…お前、結構前から俺ん事、避けてるよな?」


と。

日頃から思っていた事を鍛代斬鉄は告げる。

その言葉を受けて、奈流芳一以は頷いて見せた。


「うん…あの時からずっと、お前を避けてるよ」


悪びれもせずにそう言う奈流芳一以。

彼の正直さは、幼馴染だからこそ見せる素の感情だ。


「練習試合の時から今日まで俺はお前と比べられたよ」


鍛代斬鉄と奈流芳一以は同門。

同じ古流斬術を扱う優秀な人材である。

だが、奈流芳一以よりも、鍛代斬鉄の方が注目を浴びる事が多い。

それはやはり、練習試合の際に、銀嶺白乃に敗けた奈流芳一以よりも、彼女に唯一の敗北を刻んだ鍛代斬鉄の方が、話題になりやすかった。


「あれは、お前の実力が無かったワケじゃない、俺の事、気に掛けて集中切れてたもんな…お前の実力は俺以上じゃねえの?」


その言葉が事実であろうとも、傷心中の奈流芳一以には慰めと同情の言葉でしか無かった。


「人は結果を見るんだよ、斬鉄、俺は結果を出せなかった、だから、此処まで落ちぶれる様になったんだ」


恨み言の様に呟く奈流芳一以。


「最初から、分かり切ってた事だろ?俺には、剣を扱う才能が無かった、お前には、才能があった、それだけの事だったんだ」


自分の実力。

天井を知ってしまった。

奈流芳一以は、其処から先は見込めないと理解していた。


「そういうなよ…また稽古しようぜ?俺、お前じゃねぇとさ、中々、本気出せねぇからよ」


友に対して笑みを浮かべる。

だが、奈流芳一以は彼の表情を見ても共に笑う事は出来なかった。


「もう、俺の事は放っておいてくれ、俺とお前じゃ、最初から住む世界が違ったんだ、十分に理解した、だから…これ以上、惨めな思いを浮かばせないでくれ」


その言葉を最後に。

奈流芳一以は屋上から建物へと続く階段の扉を開けて、屋上から去った。

一人残された鍛代斬鉄は、頭を抱えながら溜息を吐く。


「稽古の相手、誰に頼めば良いんだよ…」


友以外と稽古をする気は無い。

それ以外の相手など、斬り合いでしか交える気は無かった。


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絶対絶命のピンチに覚醒して最強になるやつ、異能剣戟バトル漫画みたいな現代ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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