第2話

「ねえ、しないの?」


廊下で銀嶺白乃と出くわす度に面倒臭そうな表情をする鍛代斬鉄。

総当たり戦が終了して早くも一ヵ月だと言うのに、銀嶺白乃は鍛代斬鉄との再戦を待ち望んでいた。

こうして、時間が生まれれば、鍛代斬鉄に話し掛けて来るので、流石の彼も、面倒と言う感情を抱いてしまうらしい。


「しねぇよ、面倒臭ぇ」


そう言いながら銀嶺白乃を無視しながら廊下を歩き出す鍛代斬鉄。

その後ろを歩きながら、彼女は刀を握り締めていた。

総当たり戦で上位組にのみ授けられる、退魔の剣である。

大地の奥深くから採取出来る特殊な金属、〈緋緋色金ヒヒイロカネ〉と〈青精魂金アポイタカラ〉を混ぜ合わせた合金で鍛えた刀〈炎命炉刃金ひひいろはがね〉である。


総当たり戦、第一位である銀嶺白乃、及び、第二位である鍛代斬鉄には、特別な刀を所持する事を許可されていた。


「だめ、絶対するべき、キミとならより高みに目指せるから」


鍛代斬鉄は歩く速度を速めた。

しかし彼女を振り解く事は出来ない。


「諦めろ天才ッ!俺よりも順位高ぇんだから、それで満足しろや!」


そう叫ぶのだが、彼女は諦める事は無かった。


「キミ以外の相手には勝ったけど、キミだけには勝てなかった、順位がボクの方が上でも、実力はキミの方が上なんだよ、理由は分かったかい?ボクと戦え、鍛代斬鉄」


やなこった。

そう思い、鍛代斬鉄は廊下を曲がろうとした直後。

彼の前に、女性が居た。

ぶつかりそうになる、そう思った鍛代斬鉄だったが。


「まあっ!斬鉄さまから来て下さるのですね!!」


両手を広げて、鍛代斬鉄を抱き締めようとする黒髪の女性。

豊満な胸に顔を押し付けそうになるが、鍛代斬鉄は華麗な足捌きで彼女の抱擁から逃れる、代わりに、後ろから来ていた銀嶺白乃が、彼女の抱擁に捕まってしまった。

豊満な胸が、背の低い彼女の顔を押し潰す。


「あら…?斬鉄さまじゃない?」


不思議そうに、小さな生き物を見詰める彼女。

首を傾げながらも、抱き締める力を緩める事は無い。


「…なに?邪魔、退いて」


銀嶺白乃は他人から抱き締められて不快そうな表情を浮かべた。


「これは失礼…えぇと、斬鉄さま?」


抱擁を解いて後ろを振り向く。

鍛代斬鉄はその場から逃げようと忍び足だった。

だが、彼女に補足され、熱い視線を向けられた事により察する。


「よ、よお、歌恋歌かれんか


と、鍛代斬鉄は、東狐歌恋歌に軽い挨拶を行う。

名前を呼ばれて、顔を紅潮とさせながら天にも昇る気持ちを抱く東狐歌恋歌。


「はい、歌恋歌です、斬鉄さまっ」


彼女は鍛代斬鉄と銀嶺白乃との試合を見た時から鍛代斬鉄に魅了された人物の内の一人であった。



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