ハンドブレーキのお邪魔虫

夐假

ハンドブレーキのお邪魔虫

 授業終わりに大雨が降り出した。悠は車通学なので濡れることはないが、それでも勢いが強いので慎重に運転しようと考えた。

『恒君自転車だったよな…』

 ふと恒を探すと、窓の外を見ていた。悠は思い切って恒に話しかける。

「恒君、今日は自転車で来た?」

「うん。こんなに雨が降るなんて最悪だよ…」

「帰りはどうする?」

「バス停や駅が家の近くに無いし、迎えも来れないからどうしようか迷ってる」

「良かったら車で送ろうか?」

「本当にいいの?」

「いいよ。しばらく止みそうにないし」

「ありがとう!どうしようもなかったから助かる」

 同期たちも早めに帰っていき、教室には誰もいなくなった。二人も外に出ていく。

「あっ、私傘持ってない」

「俺も」

「じゃあ走るよ!」

 駐車場まで一気に走り、車に乗り込んだ。

「うわー、めっちゃ濡れた!ハンカチじゃ小さい」

「タオルそんなに使ってないから、使う?風邪引いちゃう」

「うん、そうだね。使わせてもらう」

 悠は軽く叩くように拭き取った。

「ありがとう」

「神童さんの車ってかっこいいね」

「とても気に入ってるよ」

「本当に車好きだね」

「うん。狭いから鞄は後ろにやっちゃって」

 一応四人乗りだが、後部座席は畳んであるので物置き状態だ。

「じゃあ安全運転で行くけど、この車のブレーキはよく効くので普通に踏んでもガクンとなるから」

「分かった」

 エンジンをかけて大学を出た。道中は道を教えてもらいながら、共通の趣味である野球観戦について話をした。

「恒君は家でいつも野球見てるの?」

「うん、見てるよ」

「いいなー。うちは弟がダメって言うから見れないんだよね」

「何で?」

「テレビでいつも見ていたから飽きたって」

「ああ、そうなんだ。弟とは仲良いの?」

「良い方だとは思っている。たまに二人で出かける」

「仲良いな。俺一人っ子だから自由にやらせてもらってるけど、兄弟いたら楽しいのかな?」

「一緒に遊べたら楽しいだろうし、喧嘩ばかりならいてほしくないかもね」

「そういうもんなのか。喧嘩はする?」

「滅多にしないね。弟が不機嫌だったら放っておく。話しかけたら怒るから」

「そうなんだ。…神童さんは好きな人いる?」

「え、好きな人?」

「そう」

「うーん、いる」

 そう話しているうちに恒の家に着いた。

「ここが恒君の家かぁ」

「…神童さん、しばらくここで話していいかな」

「うん、いいよ。どうしたん?」

「神童さん、前に恋愛話してたよね」

 この話が出て驚いた。前にメッセージで連絡をした時に悠から恋愛話をしたことがあった。その時恒は好きな人について「今はいない」と言っていた。

「うん、したね」

 悠は覚悟を決めた。今忙しい時期で思い切った行動を控えようと思っていたが、恒から言われたら『まあいいや』と思えた。

「あの…」

 恒が言い出すと少し間が空いた。

「俺、神童さんが好きだ」

「え」

「恋愛話をされてから気になってきて、神童さんは好きな人がいるから俺に聞いてきたんだろうって思ったけど、それが嫌に感じてきたんだ。もっと仲良くなりたいから、神童さんに伝え…ました」

「そうだったの…」

「神童さんに断られてもいいからって思ったし」

「断るなんて…私も恒君が好きだよ」

「え、本当に…?」

「私は大学一年の時からだよ」

「え…⁉︎」

「あの時は男の人と話す事自体苦手で、恒君ともあまり話さなかったけど、学年が上がって飲み会とかするうちに恒君と話せる機会が来たと思った」

「確かに神童さんが隣に座ってきた時があった」

「連絡も取れるようになって嬉しかったけど、四年になって忙しくなったし、好きな人がいない恒君に対して行動を起こせないから正直ヘコんだんだよね…」

「そうだったんだ…」

 少し間を置いて、

「神童さん。俺と付き合ってください」

「はい。お願いします」

 悠が返事をすると、恒がぎこちなく腕を広げた。悠は恒に向かって腕を広げて抱きしめた。

「今日送ってくれてありがとう」

「こちらこそ思いを言ってくれて嬉しかった。ちょっとこれが邪魔だったな」

 そう言って悠は二人を隔てているハンドブレーキのレバーを指した。

「確かにそうかも。良かったらまたデートでしようか」

「うん」

 恒と悠を二人きりにした原因の雨は少し弱まった。

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