花が散るように

柳 一葉

花が散るように

【「もしもし」それが最後の電話だった。

 葵と私の出会いは病院だ。

 互いに病気に侵されてた。

 廊下で手すりを伝いながら歩いてると彼の方から挨拶してくれた。黒髪でスラッとしていた。

「こんにちは」と優しい声色だった。

 私もその挨拶に返した。

 それが私たちの運命の始まりだった。


 病院のリビングルームで彼を含めた大学生位の男女四人が集まって話していた。一人の男の子が私を誘った。

「美幸さんも一緒に話しませんか」と

 私は最初困惑した、私よりも年下の彼らと一緒に過ごして良いのか、あとシンプルにお邪魔じゃ無いかなどと。

 だが皆優しく出迎えてくれた。

 そこから私たちは暇さえあればリビングルームに出てずっと喋っていた。

 やはり話していく際に葵が気になってた。

 もっと知りたい、話したいと欲が出てきた。そんな秋頃を迎える季節。院外外出許可も降りて五人で散歩をしていた。

 病院の敷地内を皆アウターを着て周ってた。寒風が骨身にしんみりと刺してきた。

 バスケットコートにある自販機で皆飲み物を買って暖まってた。

 喋りながら結局二周歩いて院内に戻ってきた。

 もうすぐで夜ご飯の時間だ。今日は鯖のカレー煮とご飯、副菜にほうれん草のソテー、味噌汁だった。ご飯を食べ終わったら私はまた、リビングルームへと行った。

 そこには葵が一人座ってた。

 対で話すのは初めての挨拶以来だ。とても緊張した。

「あっ!美幸さんも、もうご飯食べたんですね」

「葵くんも食べるの早かったね」

 などと、ぽつりぽつりと話してた。

 私は頑張って話す。

「葵くんは何か趣味あったりする?後、どんな音楽聴いたりするの?」

 などと私は会話を繋げていった。

「僕はイラスト描くのが好きだし、音楽は基本カフェで流れている様なオフボーカルを聴きますよ」

「そういえば漫画とかも読んでたよね。今度オススメの本貸してくれない?」

「もちろん!良いですよ」

「ありがとう、楽しみにしてるね」

 そんなこんなで残りの三人も集まってきて、皆でテレビを見ていた。

 二時間弱位見てたらいつの間にか就寝の時間になり、部屋へ帰ろうとする中

「美幸さんこれ」と葵から先程話していたオススメの漫画を渡された。

「これ面白いんで、よかったら明日にでも読んでください」

 私は心舞い踊る勢いで高まっていた。

 本当に貸してくれるとは思わなかったし、名前も呼んでくれて消灯時間を過ぎてもドキドキしてしばらく眠れなかった。


 私はグループの中に居て話す葵が好きだ。

 頭の回転も早いし尚且つ言葉遣いも綺麗で知性に惹かれていった。もちろん優しいのも加点だ。


 私は退屈な入院生活だと思っていたが片思いをして、恋をしてとても日々が楽しく感じる。


 朝起きて机に置いてある漫画を読み漁った。とても面白いラブコメだった。漫画は久しぶりに読んだなと。そして私は決心した

「告白しよう」

 基本的にグループで集まってるから急に二人だけってなるのが難しくて色々と思考を巡らせていた。

 そうだ、この前みたく食後にまたリビングルームへと足を運んでみるかと。

 朝食を済ませてその場所へと出向く。そしたらやはり居た。

 いよいよと。私は勇気を出して葵の座ってる場所目掛けて歩く。

「葵くん今からちょっと外に散歩に行かない?」

「ん?良いですけど寒くない様に上着てって下さいね」

 どこまで優しいんだと思い私はアウターを着てまた葵の元へと歩いた。

「やっぱり今の時間に外って寒いですね」

「ごめんね急に連れて」

「自販機寄ってても良いですか?」

「良いよ、私も温かいもの飲もうかな」

 いよいよだ。緊張しすぎて寒いのに手汗が出てきた。

 葵は自販機に硬貨をチャリンチャリンと入れてる。

 光るボタンを選んで、ホットコーヒーのボタンを押し私の方へと持ってきた。

「どうぞ」葵は私にその缶コーヒーを渡した。

「飲めなくてもカイロ代わりにしていいですよ」

 私はこれでもう決心した。

「葵くん私とその付き合ってくれないかな」

「え?付き合う?」

 そりゃそうだ急に年上の女から告白など驚くだろうな。まあ当たって砕けろだ。

「はい。俺でよければ」

「え?本当に?」

 私は振られるの覚悟で告白したけど、まさかの成功。

 そして葵から手を差し伸べてくれて

「少し位手を繋ぎません?」

 ダメだこれは一発KOだ。私はずっと持ってた缶コーヒーをポケットに入れて片方の手を掴み繋いだ。


 それから周りにバレない様に私たちは密かに院内恋愛をして過ごした。

 私は借りてた漫画に感想文と恋文を挟んで葵に渡して、葵もまた私に漫画を貸す時に返事をくれてやり取りしていた。


 危機がこの時訪れた。リビングルームでまた五人で過ごしてたら、一人の女の子が寒いと言い出して葵はすぐさまモコモコのアウターを彼女に渡して

「これ着て暖まって」と言い出して私の幼稚な嫉妬が生まれた。

 付き合う前は誰にでも、そう、私にでも優しかった葵。それが付き合ったらその優しさが凶器になって拗れさせた。


 まあそんなこんなで葵の退院時期が迫ってきた。体が健やかになって皆へと手紙を書いて贈ってた。

 私にも贈られてきた。内容は以前の謝罪と電話番号が書かれていた。

 今度美幸さんが退院したらデートに行きませんかと誘いも書かれていた。

 付き合ってるという事がまだ事実なんだと確信して私は泣いた。


 退院準備してる葵に私は

「退院おめでとう。これからもよろしくね」と伝えた。

 そしたら

「美幸さんも頑張って体治して手紙通りにデートしましょう」

「またね」

「はい!また電話待ってます。夜の七時頃に連絡くれたら嬉しいです。それじゃ」

 とその日葵は退院した。


 葵が居なくなったグループでもいつも通り過ごしてた。少し寂しかったが皆でまた散歩に行ったり、テレビを見たりトランプをして気を紛らわせてた。


 そうだ今日葵に電話するんだった。時刻はもう七時を回ってて焦った。

 院内にある電話ボックスでテレフォンカードを刺し手紙に記載されてた電話番号を一つ一つボタンを押していく。

【プルルル プルルル】

 出るかな、出てくれるかなと少し不安だったけど

「もしもし」あの優しい声が聴こえた。

「よかった出てくれた」

「もちろん。待ってましたよ美幸さん」

 そこから退院して、無事に私生活を送れてると教えてくれた。

 私の退院ももうすぐだと伝えたら

「じゃあまた会えるんですね。デート楽しみだな」

「気が早いよ」

 私よりも葵の方が浮かれてて可愛かった。

「もうすぐでもう寝る時間ですよね。今日電話出来てよかったです。そろそろ切った方が良いですよね」

「そうだね。またあの子たちと喋って寝ようかな」

「そうですよね。では」

「うん。ありがとうね」

「美幸さん。好きですよ」

「え?」

【ガチャ】

 うそ、、、私はそう顔が赤く火照ってるのが鏡を見なくても分かった。

「はぁ、ずるい人だな」


 二週間後無事に私も退院出来た。その間に葵とも三回程電話して今日あった出来事、他愛のない会話をしていた。


 退院してようやく家に戻りメールのやり取りをするようになった。

 デートは一週間後と決まり有頂天だ。

 何着ていこう。メイクはどうしよう等と少女心が芽吹いてた。


 当日になり少し街を出て互いの中間地点である都市でデートする事になった。

 電車で向かう際にも色んなラブソングを聞いてワクワクしていた。何せ初めての恋人で初デートだからそれは多少浮かれもしょうがない。

 駅で合流して私服の彼を見る。あのモコモコのアウターを着ている。それは私が指定した服装だった。

「初デートの時あのアウター着て来てよ」

 彼は忠実に守ってくれた。純粋でかわいいなと内心思った。


 そんなこんなでまずはデザートバイキングに行って

「待ってこんなラブリーな世界似合わないんですけど」

「大丈夫!デートでここ来てるカップル多いんだよ」

 最初は戸惑っていたけど、徐々に慣れてきてプレートに色んなデザートを乗せて順応してると思い少し笑った。

 その後はゲームセンターに行ってUFOキャッチャーやプリクラを撮ったりして満喫してた。


 すっかり夕方になり雨がパラついてきた。

 私は誘った。

「よかったら休んでいかない」

 私はなんで彼にあのアウターを着て来てと指定したか全てはここに理由がある。


 そういう街並みに来た。彼は恥ずかしそうに急いで部屋を選んで入った。

「まあ、そういう事だと思ってたんですけど、実際緊張しますね」

 私は服を徐々に脱いで下着姿になり彼のアウターを着て最後まではしなかったが、キスをしてハープの様に撫でられ音を奏でる。

 これで私はあの女に勝ったと思った。あの寒がりの彼女が彼に好意があるのを知って、私から急いで告白して今に至る。

 私たちはもう少し時間があったから一眠りして部屋を後にした。


 夜になり互いにこの都市を離れていく。

 帰路電車に乗ってるけど、特に何も会話は無く彼はスマホでゲームをしていた。何故だろうか。女として勝ち得た物はあったが、どこかひとりぼっちで、未だ人肌恋しい気持ちが頭の片隅、断片にある。


 寂しい


 家に着いたが寂しい 寂しい 寂しい

 何がこうさせたんだろうか。

 段々虚しくなり泣いてしまった。

 友人に連絡して今日の事を伝えた。今後身のために別れた方がいいんじゃないかと言われた。

 病院で見てきた彼と私生活に戻った彼を見たら何かが違った。


 私は葵に電話を掛けた、するとすぐに出てくれた。私はそうこの関係を絶とうし、最後に呟く

「もしもし、あのね

「そうですけど。隠すつもりは無かったです。本当の事を伝えようとしたんですけど、中々言えなくてごめんなさい。それと、美幸さん私達別れませんか?デートの時に感じたんですけど、やはり人の目が怖いです」

「人の目が怖い?」

「はい、やはり私と美幸さんは一緒に居ても幸せにはなりません。だって、、、」

「え?」

沈黙が続く。そして手元にあった二人で撮ったプリクラを私は見た。

そこには、20代前半の映されていた。

私達が過ごしてきた病院は




とのんきな顔して、以前購入したこの、一夜一夜短編集のスリルを楽しんでる


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