最終話 突然のショックの解決よりも早く
「レイが勝った!」
「まさかあのコンボを打ち破れる奴がいるなんてな…」
「レイさん、あなたは本当に素晴らしい決闘者ですわ」
「これで…やっとまたプレイできるんだね…レイちゃんの望んでいた『楽しいカジュアルマジック』が…」
「…?」
「どうしたのレイちゃん…?」
「兄さんの様子が…」
「よくぞこの俺を倒した…だがこれで終わりだ…名実ともに【刹那さみだれ撃ち】こそが最強のデッキとなったのだ」
「何言ってるんだ、【刹那さみだれ撃ち】は今、倒されたじゃないか…!」
「そうですわ! 《Double Deal》による『次のゲーム』でのダメージで決着! 最強のデッキはレイさんの【千夜一夜物語】になったはず…!」
「…そうか! 『次のゲーム』か!」
「気づいたようだな、猿渡。そう。もはや『次のゲーム』は終わった。これでもうその手は使うことができない…! 最強は…! この私の【刹那さみだれ撃ち】なのだ!」
「そんな…もうあのデッキを倒す方法は、同じデッキを使うしかないっていうのか…」
「そんなのマジックじゃない! ただのお金のかかるコイントスだよ!」
「もはやマジックの可能性は行き止まりだ…! これ以上どんなカードが登場したところで! タイプ0がこれより酷いゲームになることなどない! その結論に至ってから…私自身、何度も抜け穴を探した。だが無駄だった…タイプ0はもはやコイントスの権利を金で買うだけのゲームだ。こんなゲームが楽しいはずがない…!」
「レイさん、聞いてくださいまし…四天王の成り立ちを…」
長田クロミが言う。
「もともと四天王は『強さ』と『楽しさ』、その両方を極めるために集まりましたの。理論上最強のデッキを作る思考実験、それは『強さ』を求めるものであると同時に…『楽しさ』そのものでした。『最強のデッキ』。誰もが憧れるそれを探し求める遊び…」
「だがコンスピラシーの発売と共にその試みは露と消えた…」
レイの兄が口をはさむ。
それでもクロミは語り続ける。
「もはや環境の最適解は決まったも同然…ただただコインを振るデッキに疲れた時、あなたの存在を知りました。強引なやり方とは思いましたが、きっとあなたなら膠着したタイプ0を楽しくしてくれると、そう思って私たちはこのカードショップに…あなたなら5人目の四天王として『楽しさ』と『強さ』を共にできると信じて…」
「その為に俺もつまらない芝居を打ったってわけさ」
「猿渡…実はあなた あの演技、楽しんでたでしょう?」
「当り前さ、キャラを演じながらやるMTGは楽しいぜ。お前のお嬢様キャラだってそうだろ?」
「ゴホン! それは置いておいて…」
「四天王はそんなつもりで…それなのに私は…兄さんと同じデッキを…」
「でもあなたは、それを乗り越える答えを見つけてくれた…!」
「確かに素晴らしい一手だった…だが それは一度限りの手品、まやかしの類でしかない! 次は《Double Deal》を7回使われる前に投了してしまえばいい…もはや、【刹那さみだれ撃ち】は先攻において負けはない!タイプ0の環境は終わったのだ…!」
「終わってない…終わってない…私は…私のしたかった『何でもあり』のマジックは…そう語るなら後攻で勝てると示して見せろ!」
決闘!
「ゲーム開始時! 《神の導き》を公開! 初期ライフを26に! さらに《別館の大長》を続けて公開!」
《別館の大長》
あなたはあなたのゲーム開始時の手札にあるこのカードを公開してもよい。
そうした場合、各対戦相手がこのゲームで自分の最初の呪文を唱えたとき、そのプレイヤーが(1)を支払わないかぎり、それを打ち消す。
「あれは《ドロスの大長》と同じ5枚の大長サイクルのうちの1つアル! 《別館の大長》は公開するだけで能力が誘発するカード! 刹那能力を持つ呪文すら撃ち消せる強力な1枚ネ!」
「さらに《神聖の力線》!」
《神聖の力線》
神聖の力線があなたのゲーム開始時の手札にあるなら、あなたはこれが戦場にある状態でゲームを開始してもよい。
あなたは対戦相手がコントロールする呪文や能力の対象にならない。
「あれはわたくしとの試合では使わなかった白い力線カード…!」
「プレイヤーを火力呪文などから守るカードか!」
「ドロスの大長と違って《突然のショック》は対象を取る呪文だから、《神聖の力戦》が場に出ている限りレイを狙うことができない! これなら!」
「さあ、兄さんのターンです…!」
「なあレイ? 本当にそんな小細工が私に通じるとでも思っているのか? 本当はお前も分かっているのだろう? そんな程度では【刹那さみだれ撃ち】を防ぎきれないことを…私のターン!《神の導き》の誘発にスタックし、解決前に…《Elvish Sprit Guide》を追放…」
「あれは《猿人の指導霊》の元になったカード。同じ効果で…生み出すマナが赤マナでなく緑マナ! あいつはきっと緑の刹那呪文を使う気だ!」
「その通りだ! 《ブレイゴの好意》2枚と指定カードを公開し、それをそのまま唱える! 指定カードは《クローサの掌握》!」
「あれはエンチャントを破壊できる刹那呪文アル!」
「お前を守る《神聖の力線》を破壊する!」
「ですが! 兄さんが1マナ払わなければ私の《大長》でそれを打ち消します!」
「そんなマナ、一体どこにあるってんだ! レイの勝ちだ!」
「あるさ。この手札にな。《猿人の指導霊》を追放! 赤マナを出して追加の1コストを支払う! 終わりだ。26点にライフが変化する前に…! 2枚目の《類人猿の指導霊》! 《一石二鳥》を9枚公開…!《突然のショック》! 9発追加して10連打! 20点ダメージを与えてゲームエンドだ」
「そんな、専用の対策すらも効かないっていうのか…!?」
「いったいどうすれば…レイちゃんはあれに勝てるの…? 楽しいカジュアルプレイをしたいっていうレイちゃんの気持ちでは勝てないっていうの!? そんなの絶対におかしい!」
「アオイ…」
「お願い…レイちゃん…立ち上がって…! また楽しく遊ぼうよ…もう強い人と戦い続けなくていいから…身内で遊んでいればいいよ。私に銀枠カードのこと教えてくれるんでしょ…面白いデッキを見せてくれるんでしょ? 銀枠で楽しく仲間内で遊ぼうよ…強さだけに、こだわらなくていいから…」
「最後の銀枠パック、アンステイブル…! あの銀枠パックには確か…!」
レイは手持ちのカードファイルを探る…
ケースには銀枠パック『アンステイブル』のカード…
「ありがとうアオイちゃん、でもまだ私は戦うよ… みんな! 私に力を貸して! みんなが持ってる『あのカード』と友情の力を!」
「なんだかわからねーけど、勝てる方法を見つけたんだな?」
「 がんばれ! レイちゃん!」
「持ってるカードなら貸せるけど、あるのかなあ…」
「大丈夫、みんな持っているはずだよ。だって彼があなたたちに託したカードなんだから!」
「まさか、レイちゃん…! あのカードを…!」
「そのカードで良いなら持ってるぜ!」
「私も!」
「僕も!」
「使うアルよ…!」
「みんな、ありがとう!」
「レイちゃん…私はそのカードを持ってなくて、ごめんね」
「ううん。アオイちゃんには別の役割があるの。お願いしてもいい? これを…このカードを。このデッキをあなたに使ってほしいの…!」
「これは…! うん、わかった! わかったよ!」
「さあ、兄さん! これでおしまいにしましょう!」
「最後の勝負です…!」
「好きにしろ。もう何度戦っても無駄なことだ…!」
「はたして、そうかな?」
「お前は…! 四天王、
「なめくじの兄ちゃんだ!」
「ナメクジありがとう!」
「楽しく遊べたよ!」
「カードの名前も絵柄も効果もバカみたいで最高のプレゼントだった!」
「だろう? 《ロケット噴射ターボなめくじ》は楽しい銀枠カードなんだ!」
「ふん、あのデッキはタイプ0の高速化には耐えられん。戦闘フェイズにならなければ勝てないなど…遅すぎる紙束にすぎない!」
「兄さん、斜九寺はもう私たちの友達よ。そのデッキを侮辱するのは許しません!」
「許さないならどうする?」
「もちろん決闘を挑みます!」
「来い。正真正銘これが最後だ! 暗黒面に堕ちた【刹那さみだれ撃ち】にスキはない!」
決闘!
「ゲーム開始前にデッキからアンティカードを取り除き、策略公開! 《権力行使》! 私が自動的に先攻になる!」
「私は公開無し。後攻で十分です」
「無駄だ。このゲームは絶対に先攻が勝つ!」
「そうやって兄さんのように思考停止していては答えは見えない! 新しいカードが出ても検討しないで固執する兄さんには…!」
「ならその答えとやらを見せてみろ!」
「私のターンだ。 食らえ! 《突然のショック》10連打ァ!」
20点。
MTGの初期ライフを削るための呪文がスタックにのせられる。
コピーを含めた10回のショックが解決を待つ…。
その間、レイは一切の呪文を唱えることができない…
でも突然のショックの解決よりも早く!
「ミドリちゃん! 私とデュエルして!」
「アオイ、なんでこんな時に!?」
「いいから!」
「アンティはなし! フォーマットはカジュアル!」
「いいけど…」
「早く!」
「10回目の突然のショックの解決より先に!」
決闘!
「《権力行使》で私が先行! デッキから《宝石の鳥》を全て取り除いて初期手札を固定する!」
「ずるいぞ! アタシは権力行使ないのに」
「今はそんなことはどうでもいいの。私のターン! 雪被り平地をプレイ!」
「…! あのカードは! レイ、あのデッキはお前が…?」
「そうです。あれが私の示す答え! 楽しいカジュアルのあるべき姿です!」
「行くよ、レイちゃん!」
「お願い、アオイちゃん!」
「《ハイタッチしよう》!」
《ハイタッチしよう!》
あなたは、このあと30秒間にあなたとハイタッチした1人につき1点のライフを得る。銀枠ゲームのプレイヤーであなたとハイタッチしたプレイヤーはそれぞれ1点のライフを得る。
パァン!
アオイとレイがハイタッチする音があたりに響く。
「ふん。楽しく遊ぶ姿を見せれば改心するとでも思ったのか? 茶番はそこまでだ。最後の《突然のショック》を解決して終わりだ!」
「それで、兄さん? 何もなければターンをもらいますね」
「なんだと? ターンだと? お前のライフはもう0だぞ」
「まだ私のライフは1点残っている!」
「ふざけるな! そのカードでライフが回復するのは銀枠ジョークカードを使う場合だけだ。カジュアルしてるんじゃないんだ! これはタイプ0、『強さ』の決闘! 銀枠のジョークカードがついてこれるものか!」
「いいや、あるだろう? タイプ0にも銀枠のカードが!」
「私のターン! ドロー! みんなの思いを乗せたこのデッキで! 行けっ!」
「「「「「「《ロケット噴射ターボなめくじ》!!」」」」」」
「銀枠ルールマネージャーによる『銀枠ゲームの定義』は…『少なくとも一人が銀枠カードを使うマジックのゲーム』。私が銀枠の《ロケット噴射ターボなめくじ》を使う以上、これは銀枠ゲームであり…!《ハイタッチしよう》の効果で、ハイタッチした銀枠ゲームのプレイヤーはライフ1点を得る! 1点でもライフを得たなら【刹那さみだれ撃ち】を耐えて反撃できる!」
「刹那ギミックだけに特化した兄さんのデッキには、なめくじを対策する《不動の力線》を入れるスペースが残されていない! 超速攻! 24点アタック!」
レイ Win!
「負けたのか…? 【刹那さみだれ撃ち】は最適解じゃなかった…まだまだMTGには先がある…TYPE/Zero最強のデッキは未だ決まらずか…」
「勝ちも負けもあるから勝負。あんたの妹が教えてくれたことさ。あんたも同じ思いを抱き、勝利が定められたそのデッキに心を惑わされてたんだ。なあ、初心に帰ろうぜ…MTGに最強のデッキなんてない。楽しく遊ぶ仲間と『自分のデッキ』があれば十分なんだ」
「また仲良く決闘しませんか?」
「斜九寺…!長田…!猿渡…!」
「このショップに通う仲間は受け入れてくれる。そうだろう?」
「もちろん! タイプ0だけがマジックじゃないわ! 遊びましょう! みんなで!」
数々のフォーマット(遊び方)のあるMTG。
新しいカードで常に新鮮なゲームを楽しめるスタンダード。
比較的最近のカードのみを扱うパイオニア。
かなり古いカードから最新の特殊セットのカードまで使えるレガシー。
ルール上の不具合のあるカードを除いて「一切の禁止カードがない」ヴィンテージ。
そんなMTGの多様な構築制限の中でも最も自由なフォーマット
「カジュアル」
これは楽しくマジックで遊ぶ真の決闘者たちの戦いを描いた物語である…。
超高速MTG対戦 TYPE/Zero 青猫あずき @beencat
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