第5話 思いは時を超えて…

それはまだ、レイが小学生の時のこと……


「兄さん! MTGって面白いね」


「だろう? 病弱な子でも大男と対等に戦えて勝てる…MTGはそんな魔法のゲームなんだ」


「あれ? 兄さん、そっちにある英語のカードは?」


「ああ、これかい。これは銀枠カードと言って、MTGをもっと楽しくするカードなんだ」


「こんなに楽しいゲームが、もっと楽しくなるの?」


「ああ。もちろんさ。MTGはいくらでも楽しめるんだよ」


「でも私はまだ英語は読めない…」


「そうだね。でも大丈夫。今すぐに読めなくてもいいんだ。レイが大きくなってからでも楽しめるよ」


「ええー。やだよ。今使いたい! だって新しいカードは数年したら対戦で使えなくなるんでしょ?」


「ははは、大丈夫だよ。これは銀枠のカードだから」


「銀枠はスタンダード落ちしないの?」


「ああ、しないよ。というよりも銀枠はスタンダードでは使えないんだ」


「ええ!? 使えないカード!?」


「『普通のルール』では使えないんだ。銀枠はカジュアル用のカードだからね」


「カジュアル?」


「『なんでもあり』のルールさ。スタンダードを落ちたけどお気に入りのカードとか禁止カードだって使える」


「禁止カードも!? なんで!?」


「うーん、例えば2枚のカードが組み合わせたら凶悪なコンボになるとき、どちらか一方を禁止カードに指定することがあるんだ。でも禁止されたカードはそのカード同士で組み合わせなければ安全でおもしろいことができる…そんな時にカジュアルフォーマットで使うのを受け入れる。そのかわり禁止理由になったコンボは使わないようにする。そうやって楽しく、使いたいカードは『なんでも』使うのがカジュアルさ」


「私もカジュアルやりたい! その箱の中のカード使いたい!」


「レイにはまだ英語が読めないだろう?」


「勉強するもん!」


「よし。じゃあ兄さんも付き合おう。まずはこいつからかな。これは《ロケット噴射ターボなめくじ》と言ってね…」


それから数年が経ち…


「ふふふ。できた!私のとっておきのデッキ」


「また面白いデッキを作ったのかい?」


「うん、最強のデッキだよ!」


「最強のデッキ? それは凄いじゃないか!」


「でしょう?」


「じゃあどんな風に戦うのか教えてごらん?」


「ええ? 聞くよりやってみようよー!」


「それもそうだな。よし。じゃあ相手しよう。何がいいかな。よし、【頑固爺さんクロックパーミッション】で行こう」


「ふふっ。兄さんそれ好きだね」


「雪被り平地渡り…面白い能力だろう?」


(雪被り平地渡り…《頑固爺さん》の能力のひとつ。〇〇渡りは対戦相手が〇〇という土地を出している場合に働く能力。対戦相手が雪被り平地というピンポイントなカードを使っているときにだけ強くなる)


「私の先攻ね! じゃあまずは雪被り平地をプレイしてターンエンド」


「おいおい接待プレイかい?」


「だって兄さんとカジュアルで遊んでくれる人は誰も雪被り平地を使わないじゃない。私くらいは使ってあげないと」


そしてゲームは進み……


「よし、準備ができた。これが私の【千夜一夜物語】のメインギミック!」


「おお…よく考えたね…でもそのコンボには重大な欠点があるよ」


「ええ? そうなの?」


「ここで僕が投了したらそのコンボは止まっちゃうから完成しないんだ」


「そんなーずるいよー」


「ずるくない。ルールを守って楽しく遊ぶんだ。降参するのもルールのうちさ」


「ぶー。」


「…やれやれ。これは雪被り平地の分だからな」


「優先権を放棄する。投了もしない」


「…! やったあ! 見てて見てて! これをーこうしてー! できたー!最強のコンボ!」


「うわあ…やられたー!」


それが兄さんとの最後の決闘になった。


その少し後に兄さんは家を出てしまったのだ…。


そして時間は現代に戻る……


「さあ、終わらせよう。タイプ0を極めた以上これはコイントスのゲームでしかない。コインが表なら俺の先攻、裏ならお前の先攻が。コイントスはそのまま勝者が決まることを意味する。」


「いいえ、私は兄さんを否定する必要がある。コイン投げに勝った方が先攻か後攻を選べる形式にしましょう」


「何か考えがあるのか? いいだろう見せてみろ! 私は表を宣言する!」


投げられたコインは裏面を上にして落ちた。


「先攻はレイだ!」


「レイちゃん…」


「私は…後攻を選ぶ!!」


「レイちゃん、どうして…?」


「私はこのゲームが先手が絶対勝利するわけじゃないと示したいの! カジュアルには無限の可能性がある!」


「それはタイプ0も同じなんだから!」


「なら容赦はしない! デッキからアンティカード《青銅のタブレット》を取り除き、残りデッキは7枚! 当然、マリガンはなし!」


「私もマリガンはしない…」


「おい!レイのデッキを見ろ! デッキが厚いぞ!」


「7枚に圧縮したデッキじゃない…?」


「これが私の【千夜一夜物語】! ゲーム開始時に…はるか時を超えて7発の《Double Deal》!」


《Double Deal》

他のプレイヤー1人を選ぶ。

Double Dealはそのプレイヤーに3点のダメージを与える。

そのプレイヤーとの次のゲームの開始時に、さらにそのプレイヤーに3点のダメージを与える。



「兄さん! あなたは忘れているかもしれないけど! 私たちの最後のゲームはこのデッキと同じコンセプトだった! そしてあの日、私は墓地回収で使いまわした《Double Deal》を7回唱えた! ゲーム開始時に、過去からの21点ダメージを受けてもらいます!」


「…! 驚いた…お前の方こそ…覚えていたんだな…」


次回、超高速MTG対戦TYPE/Zero最終話。

「突然のショックの解決よりも早く」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る