第4話 刹那の策略! 最強のTYPE/Zeroデッキ

「まだ私、マリガンするかどうかすら決めていないんだよ? 見せてあげる、策略の真の力…呪文を唱える本当のマジックを」


(レイちゃん、怖い…いったいどうしちゃったの…!?)

アオイは背筋がゾッとするのを感じた。



「まずはゲーム開始前の処理として私のデッキからカードを取り除く…」


《宝石の鳥》

アンティを賭けてプレイしない場合、プレイを開始する前に宝石の鳥をあなたのデッキから取り除く。

(T):宝石の鳥をアンティにする。そうした場合、そのアンティにあるあなたがオーナーである他のすべてのカードをあなたの墓地に置く。その後カードを1枚引く。


「あれは『アンティに関するカード』アルか!?」


「知っているのか、ミンメイ!?」


「アンティはいにしえのMTGに存在した賭けのルール! 互いのプレイヤーはカードを賭けて戦い、勝者は敗者からアンティのカードを奪うことができたアル。そういったアンティに関わる効果を持つカードも少数ながら存在し、それらのカードにはこう書かれているアル。『アンティを賭けてプレイしない場合、プレイを開始する前にこのカードをあなたのデッキから取り除く』と」


「プレイを開始する前に? タイプ0ではゲームが始まる前から勝負は始まっているっていうのか…」


「言ったはずよ、私はこのゲームに『何も賭けはしないと』! 私のデッキからすべてのアンティカードを取り除く…残りデッキは7枚」


薄くなったレイのデッキの束を見てギャラリーがざわつく。


「ええっ!? 7枚だけ!?」


「7枚…それってMTGの初期手札枚数じゃないか!?」


「これにより私の初期手札に『手札事故』はなくなり確実に決められた7枚で戦える。さあマリガンチェックに進もう。私は当然キープ」


「俺もキープだ」


「じゃあ、ゲーム開始時に何かある?」


「ないぜ。お前のターンを初めて構わない」


「では私のターンから。 そしてこれで、おしまい。手札からあなたと同じ《猿人の指導霊》を追放して赤マナを1つ得る。そして策略カードをサイドボードから公開する!」


《ブレイゴの好意》

あなたが唱える指定した名前を持つ呪文はそれを唱えるためのコストが(1)少なくなる。


そのカードには《突然のショック》という文字が書き込まれた付箋が貼られていた。


「さらに公開。《一石二鳥》を9枚。指定はこちらも全て《突然のショック》」


《一石二鳥》

あなたが指定した名前を持つインスタント呪文かソーサリー呪文を唱えるたび、あなたはそれをコピーしてもよい。


「そしてあなたを対象に2点のダメージを与えるインスタント呪文、《突然のショック》を唱えるわ。唱えるためのマナコストは《ブレイゴの好意》で1マナ軽減。残りの赤1マナを《類人猿の指導霊》から確保。指定された呪文を唱えたことにより、9枚の《一石二鳥》の効果。《突然のショック》のコピーが9個生まれる。対象は当然すべてプレイヤーである猿渡さるわたり! あなたよ!」


コピー元と合わせて10個の《突然のショック》から合計20点の直接ダメージ!


「グッドゲーム…。」


一瞬、それは刹那のできごとだった。

猿渡が何かをする暇もなく、ライフポイント20点が0に変わっていた。


「いったい何が…?」


「猿渡のやつ…なんで【うねる炎の類人猿】コンボをしなかったんだ?」


「スタックとかなんとかで対応できるんだろう?」


「無理アルよ。突然のショックに対して《うねる炎》で対応できない理由があるアル」


「なにか知っているのかミンメイ!」


「『刹那』アル」


《突然のショック》

刹那(この呪文がスタックにある限り、プレイヤーは呪文やマナ能力でない起動型能力をプレイできない)

クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。突然のショックはそれに2点のダメージを与える。


「刹那能力を持つ呪文が唱えられてから解決されるまでの間、次の呪文を唱えることはできないアル。《類人猿の指導霊》からマナを出すことは出来ても、そのマナで《うねる炎》を唱えられないネ…。それだけじゃないアル。打ち消しなどのカウンター呪文やダメージの矛先を捻じ曲げる呪文、あるいはダメージを軽減し受け無かったことにする呪文……そういった妨害呪文すら、刹那呪文に対しては使うことが許されないアル…」


「それじゃあ、あの《突然のショック》と《一石二鳥》9枚のコンボが始まったら…一切の妨害ができないってことか…」

ミドリが感心する。


「すげー!最強のデッキだ!」


(それがレイちゃんが本当にしたかった決闘なの?)

アオイはいぶかしんだ。


「アンティが無しって決まりだから拘束力はないけど、あんたは二度とこのショップには来ないで。私は、私のしたい『楽しい』マジックを守らないとならないんだ…」


パチパチパチ…

乾いた拍手の音がレイの言葉に続いた。


「素晴らしい。素晴らしいデッキだよ。レイ」


「…兄さん!?」


「えっ!? レイちゃんのお兄さん!? 数年前に大学へ進学して上京したっていう!?」


「気を付けて…あの男こそ四天王最後の1人ですわ…!」


「レイの兄貴が…最後の四天王!?」


「お前もついにこちら側に堕ちたな、レイ。タイプ0の暗黒面に」


「暗黒面…?」


「うすうす気づいてはいたんじゃないか? 楽しいゲームと面白さを求めるカジュアルゲーマーだったお前が、そんな凶悪なデッキを作り上げたんだ。勝つのは面白いだろう? 勝利こそが全てだろう? 勝つからゲームは面白いんだろう?」


「違う…兄さん、私は…もっと…みんなと楽しいマジックがしたかったの…普段は使わないジョークセットの銀枠カードや、策略カードを使った多人数戦のパーティプレイがしたくて…それで色んな面白そうなカードを集めて…みんなとカジュアルフォーマットで遊びたくて…」


「そうやって《ロケット噴射ターボなめくじ》のような銀枠カードを実際に使って遊べるフォーマットを探し…そうしてタイプ0にたどりついた。同じなんだよ、レイ」


レイの兄は断言する。


「楽しいゲームのための『なんでもあり』であるカジュアルと、力を求め勝利がすべての世界になる『なんでもあり』のタイプ0は同じなんだ!」


「レイの兄貴だか何だか知らないけど勝手なことを言ってるんじゃねえ! こいつはこの店の誰よりも『楽しいゲーム』ができるよう頑張って、四天王から店を守って…レイのプレイスタイルを否定させたりしない…!」


「ミドリちゃん…!」


「アタシと勝負しろ!」


「構わんよ」


決闘!


【刹那さみだれ撃ち】!


「うわー!!!」


「ミドリちゃん…!」


「あのデッキはやはり…」


「レイと同じデッキアル! 刹那呪文と策略による完封デッキ!」


「つまらないものだな…強すぎるデッキの行き着く先は…」


「兄さん…」


「カジュアルのゲームをしたかった、しかしカジュアルだからという理由でガチデッキに敗けたくはなかった。カジュアルで友と遊ぶ時もできれば勝ちたかった。『なんでもあり』のカジュアルフォーマットの行き着く先は…『なんでもあり』の理論上最強を探すタイプ0だったのさ」


「そんなの! 私は認めない! 兄さん! 互いの信念をかけて決闘して! 力を求め理論上最強を探す兄さんと、どんなカードでも使えるゲームを楽しむ私との決闘で…」


「悪いな、それじゃあ賭けになどなるまい。おまえの握っているそのデッキがすべての答えだ。その禁断のデッキを手にした時点で…お前の信念は折れているんだ…」


「賭けにならないとしても私は…!」


「決闘せずにはいられないんだろう? わかるさ。勝ちたいのだろう? だがこのデッキとそのデッキが戦えば答えは明白だ。まず互いに《権力行使》を見せ合い、結局はコイントスで先手後手を決め…。先手になった方が必ず勝つ。対戦相手にカードを使わせずにな…」


「そんなの…やってみないとわからない…!」


「いいや、やらなくてもわかっているはずだ。そのデッキとのゲームにつけいるスキはありはしないのだと…それとも私と不毛なコイントス遊びをするか?」


「私は…私は証明して見せる…!」


「ならば来い! レイ!」

(そして、俺を倒してくれ…タイプ0は、こんな不毛な『コイントスするだけのゲーム』ではないんだという可能性を…俺に…などと考えてしまうのは流石に虫が良すぎるか…)

「お前と戦い、俺は名実ともに最強の決闘者になる…!)





次回予告

遂に現れた最後の四天王。

その正体はレイの兄だった。

「楽しさ」を求めて『なんでもあり』のカジュアフォーマットで遊びたかったレイと「強さ」を求めて『なんでもあり』のタイプ0にたどり着いた兄。

表裏一体、コインの裏表である二人の試合はコイントスだけで決まってしまうのか?

次回、超高速対戦MTG対戦TYPE/Zero 第5話「思いは時を超えて…」

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